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第167話 反響

 ネクラさんが配信を始めて数分後、私は右手のこぶしを握り締めてテーブルにたたきつけそうになっていた。

ネクラさんは気付いてないみたいだけど、マイクもオンになって猫とのイチャイチャを視聴者の人に見せつけているのだ。


「も~! なんなのこの子!」


 画面の中で勝ち誇った笑みを浮かべて嬉しそうにネクラさんに身を任せている猫相手に、私は悶々とした気持ちを募らせてしまう。

 案の定コメント欄でも結構な数の女の子達が嫉妬しているのが見受けられるが、今だけは彼女達の気持ちが分かる。


 ネクラさんは、現実の女の子を相手にすると絶対無敵……というか、鉄壁の防御を張ってしまう。まぁ軽いとかチャラい人より良いんだけど、それでも固すぎるのだ。

 ただ、その分相手が人以外になるとその鉄壁の防御はいとも簡単に崩れ落ちてしまうのだ。猫とか犬とか……動物系になると特に……。


 そこも含めてネクラさんの魅力の一つなんだけど、猫相手に闘志を燃やしても仕方ないというライの言葉もある……。

 なにより、この前ネクラさんのお家に行って手毬ちゃんに宣戦布告したら余計に懐いてしまったという失敗談もある……。


「あ、やっと気付いた……。ネクラさんってこういうとこあるんだよなぁ……」


 ファンの人達がネクラさんに貢げるいい機会だと思って、半ば騙してしまう形ではあったけれど投げ銭機能を開放してもらい、その金額は私の目算で1億は絶対に超えている。


 なんであの人はゲームや学校では意味が分からないくらい賢いのに、変なところは抜けているのか……。

 本当に、将来詐欺にあいそうで怖い。というか、さっきライから聞いたけれど、交流戦の条件もさっき気付いたって言ってたし……。


(手を回しといて正解だったけど……正直現実のイベントに関してはやってもらいたくないんだよね……)


 実を言うと、今回の交流戦の条件は相手方に頼まれて私が色々調整した結果だった。

 相手は絶対にネクラさんと対戦したいし、出来れば話したいと言ってきていたけれど、今回の交流戦は実験という側面が強いので、あの人を追い回すのはやめてほしかった。


 なので私やチームのネクラさんを好きな子達で話し合って、相手チームとも交渉した結果、誕生日配信と現実でのイベントを条件にこちらの要望を呑んでもらったのだ。

 ネクラさんがやりたがらないのではなんて危惧もあったけれど、それは私達が紅葉狩りの時から密かに行っていた作戦でほぼほぼ大丈夫だと結論が出ていた。


 人は、最初は気が進まなくともやってほしいと言われてそれをやり続けていれば、それに慣れて何も感じなくなってくる生き物だ。

 よほど嫌な事であれば別かもしれないけれど、ネクラさんはそもそもサインや握手なんかを嫌がっていたのは芸能人面したくないという理由からだ。

 望まれれば気乗りしなくともするし、それで喜んでもらえるなら良いと思う優しい人だ。


 なので、その状況に慣れてもらうために至る所でサインやメッセージカードを書いてもらってそういう事に慣れてもらっていたのだ。

 既に顔バレしているという事もあって、現実でのイベントをする事自体に最初程の忌避感はないはずだ。


「うわぁ……こっちのチャットもすごいなぁ……」


 ネクラさんの配信を眺めながら最近買ったもう一台のパソコンでマイさんのファンクラブのチャット欄を見てみる。


 そこは既に濁流のようにコメントが押し寄せており、ネクラさんの猫に対する嫉妬とオドオドしながら配信してるのが可愛いなどのコメントが多数寄せられていた。


 そこには本業がアイドルや女優で、私より先にネクラさんの連絡先をゲットした2人の姿もあって、なんだかちょっと複雑だ。

 あの人達は誕生日プレゼントとして何か送ったりするんだろうか……。私は誰かにそういったものをプレゼントした事が無いので、変なものを送りそうで怖いのだ。


「またライに聞くのもなぁ……。いや、ここは逆転の発想で……」


 と、考えているとちょうど画面の中のネクラさんが雑談を始めた。


 話題は割とどうでも良い……と言ったら失礼だけど、ほんとに会話が苦手なんだなぁと感じるようなものばかりでなんだか微笑ましい。

 新しい家族を迎えたいと言った時、手毬ちゃんがムッとして一瞬で取り消すところなんて可愛すぎる……じゃなくて!


(やっぱり、一番喜ばれるのは猫用のおもちゃとかおやつだよね……。ライバルに塩送るのはやだけど……好感度稼いでおいた方が良い気がする……)


 少なくとも、付き合っても無いのにネックレスや服や化粧品とかその他諸々を送るよりは良いだろう。

 それに、ネクラさんが猫を飼ってるなんてことを知ってるのは家に行った私とマイさんくらいだし、マイさんはネクラさんが猫の事をあんなに好きだとは知らないはずだ。


 唯一知っているであろうライは、お兄さんの誕生日を祝うタイプじゃないと思うし、去年の自分の誕生日の時も「そうだっけ? それより今度の大会さぁ~」みたいなアバウトな反応だったので、誕生日そのものに興味がないのだろう。


 つまり、今日この配信を見てネクラさんが大の猫好きであることは周知された。それでも、猫用のグッズが大量に送られてくるのは来年以降になるはずだ。


 ネクラさんが事務所とかに所属しているプレイヤーならそこに送ればいいだけだけど、ネクラさんはライと暮らしている関係で住所等もバレていないから送り先がないのだ。

 時々配信者の人が欲しいものリストを公開してファンの人に買ってもらおうとしている浅ましいとこも見るけど、ネクラさんはそういうタイプじゃないし……。


 誰も送ってないって事は、それだけ希少性が高くてネクラさん自身の記憶にも残りやすいのではないだろうか。


 少なくとも、そんなに大量に送られては来てないはずだし、猫グッズは今のネクラさんなら絶対に喜んでくれるだろう数少ないものの一つだ。


「あ、そうだ。ミミミさん、今大丈夫かな……」


 ある案を思いついた私は、加速度的に増えていく投げ銭に怯えながら慣れない雑談をしているネクラさんを温かい目で見守りつつ、チームメイトのミミミさんへと連絡を入れる。


 私は今まで友達があまりいなかったので、こういう時は頭の中で思い描いたまま実行に移しそうになる。

 けれど、その相手がネクラさんだと、失敗してしまうと大変なことになるので万全を期すために確認を取るのだ。


「はいはい、どうされました?」

「あ、ミミミさん。今お時間大丈夫ですか?」

「ん~。まぁ、ネクラさんの配信はつけてますけど別に急用とかはないですよ。どうされました?」

「実は、ちょっと相談したいことがあってですね……」


 こういう時いつもはライに聞くんだけど、これは人生経験が豊富な人に聞いた方が確実だと私の直感が囁いていたのだ。

 ミミミさんに聞きたい事とはつまり、ネクラさんの誕生日パーティーを開いてみてはどうかという物だ。


 現実でもゲームの中でもどっちでも良いけれど、チームメイトとして誕生日をお祝いしてはどうかと。

 おかしくはないと思うけど、一応確認だけはしておこう。

 そう思った私の判断は、どうやら正しかったらしい。


「止めといた方が良いと思いますよ。この様子だと、今までろくに誕生日を祝われてこなかったんでしょうし……ネクラさんがこんなにいい子に育ってるのって、学校に行ってないせいも多少あると思うんですよ。だから、多分困惑させるだけだと思いますよ。私達も個別でプレゼント送ってますし」


 まさか反対されると思ってなかった私は、その言葉だけで一瞬思考が止まった。


 ミミミさんが言っている良い子とは、女の子にデレデレしないしチャラくもないし、むしろめちゃくちゃ謙虚なところを指してるんだろう。

 私も、そこにはすごく同意なので理解できる。学校に行ってたら、あの人絶対モテてるし……。


「わ、分かりました……。ちなみにミミミさんは何をプレゼントされたんですか?」

「私ですか? 私が愛用してるあったかいアイマスクとブルーライトカットの眼鏡ですよ。これから世界大会に向けてパソコン触る機会増えるでしょうしね」

「あ~……なるほど、そういう考え方もあるのか……」


 ライの普段の言動から、ネクラさんは疲れをため込んで数日に一度という常人では考えられない睡眠で一気にそれを解消しているというのは分かる。


 そこで、眠る時に疲れが取れるように温かいアイマスクと、パソコン作業の多いネクラさんの目の負担を少しでも軽くするためのブルーライトカットの眼鏡は、かなりありがたい物だろう。


(流石だなぁ……。やっぱり、仕事できる大人な女の人ってかっこいい……)


 通話を切った私は、しばらく紅葉狩りの時に見た凛々しい姿のミミミさんを想像してはぁとため息をついていた。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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