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第166話 慣れない雑談

 雑談と言っても、数回見たトウモコロシさんの配信の真似事でしかない。

 文字を読むのすら難しいレベルで流れていくコメントを適当に広い、それからうまい事話を広げるのだ。


 いや、コミュ障の僕には絶対に無理だと分かってはいるけれど、そこら辺はコメント欄の人達がフォローしてくれると信じている。


「最近のランクマッチや環境の推移どう? どうって言われても……みんな強くなって考える事増えたなぁ……とか、そんな感じかな……。環境動くのは確かに前より早くなったけど、まだ予測できる範囲だから何とかなってます」


 僕が解説動画を出したあたりから、よく言われるのは数年分環境が進んだという事だ。

 今まで日の目を見てなかったキャラが一気に脚光を浴びるようになり、その対策が出来るようなキャラもよく見かけるようになる。

 そして、それはランクマッチだけではなく大会などのシーンでも同じだ。


 さらに言えば個々のプレイヤースキルが恐ろしいほど高くなったのでそこまで大きい大会じゃなくとも見応えのある試合が増えてきたという側面もある。


 流石にマイさんほどではないにしても索敵能力が向上している人は数多くいるし、ハイネスさんも今までそこまで目立った成績は残していなかったけれど、最近は調子がいいらしいし。


「あ、でも子供陣営の皆さんにお願いなんですけど……。僕に会うために滅茶苦茶な距離歩いてくるのは止めてほしいなぁと……。嬉しいですけどその、どう反応したら良いのか分かんなくて困っちゃうので……」


 前はそんな無茶なことをする人はそこまでいなかったのだが、紅葉狩りで顔を晒してから余計にそういう人達が増えたような気がする。

 いつの日か、春香がご飯を食べた時に言っていた気がする。


「自分じゃ学生とか言ってても、実際は冴えないおっさんでしたとかネットの世界じゃザラだからね。特にお兄ちゃんは現実の写真なんて一切上げないから特定も難しいだろうし。まぁ、大体学生だろうって予想されてるけど、それもあくまで予想の範囲超えてなかったからね」


 春香に言わせると、僕が本当に高校生の少年で、冴えないおじさんじゃなかったから安心して女性のファンの人達が絡んでこられるようになったのだろう。という事だった。


 側だけ少年のように取り繕って中身がおじさんだったらそのショックは大きいけれど、側も中身も少年なら、その人の事を嫌いじゃない限りそこまで警戒せずに絡めるから。


 なにせ、このゲームのプレイヤーはほとんどが20代前半から30代の若者……というか、若い人達だ。

 自分より年下で、なおかつ気遣いも出来るし最低限のマナーや礼儀も弁えている。そんな人の事を絡みにくいと感じる人の方が少ないだろう。


「会いたいんだから仕方ないじゃないですか!」

「せっかくマッチ出来たんなら一緒に話したいんですもん!」

「憧れの人って、一回くらい自分の目で見て実際に存在するんだって実感ほしくないですか?」


 読み取れた限りのコメントは、大体みんな同じような事を書き込んでいた。

 いや、嬉しいけど今までそんなに人に求められた事が無かったからどう反応すれば良いのか分からないし、そもそも会いたいとか言われても……。


「そうだ、僕がこっち(現実)でイベント開きますとか言ったら、皆さん来てくださいますか……? やるかどうかはまだ未定ですけど……」


 ここで、ほとんど全員が行くわけないだろみたいな反応をしてくれるなら、合法的に?イベントの開催を無かったことにできるわけだ。

 ただ、そこはなんというか……ファンの人達なのだから当然というか、好意的な反応しかなかった。


「一応言っときますけど……僕ただの高校生ですよ……? 歌い手さんとか、カリスマ美容師……ん? 美容師はおかしいか……いや、カリスマなんちゃらでもないんですよ? ただのゲーム廃人というか……そんな人のイベントに来てくださるんですか……?」


 いや、これがすごく人気の歌い手さんとか芸能人なら話は分かる。

 そういう人達は僕も時々見ているし、イベントを行っていること自体に何の忌避もない。

 ただ、僕はただのゲーム廃人であって誇れることと言えばランクマッチの勝率くらいだ。


「何を置いてでも行くに決まってるじゃないですか!」

「ネクラさんがこう言うってことは、イベントしてくれるかもってことですよね!?」

「仕事頑張らなきゃ!!」


 そんなコメントで溢れかえるけれど、いやちょっと待てと。

 なんで僕が聞いただけであたかもイベントが確定事項みたいになっているのか……。まだ誰もやるなんて言ってないんですけども……。


 それに、イベントなんて何をすればいいのか分からない。


 オフ会……? いや、数百人規模のオフ会ってなんだよ……。

 握手会……? いや、芸能人じゃないんだから調子に乗りすぎだろ……。大体、僕と握手してどうするの?

 サイン会……? いや、一定の需要があるのは公式グッズの件で分かってるけど、それでも気乗りするものではない。

 ライブ……? いや、僕が歌えるのアイドルソングとアニソンだけなんですけど……?


 みたいな心情であることは誰も知らないんだろうなぁ……と半ば諦めそうになる。

 膝の上でゆったりくつろいでいる猫をヨイショと胸の中に抱きつつ、誤魔化すように苦笑を浮かべる。


「そういえばあの……今日いただいたお金はこの子に使ってあげても大丈夫だったりしますか……? 妹にはまだ話してないんですけど、もう1人家族を増やしたくて……」


 手毬の右手を挙げてその肉球をぷにっと触ると、少し嫌そうな顔をしながらも可愛くニャーと鳴いてくれる。これも、許されているのは僕だけらしく、春香が同じことをしようとしたら数日触らせてすらくれなくなったらしい。


 一応手毬は女の子だし、そこら辺はデリケートなのかもしれない。

 なんで僕だけ嫌そうな顔をするだけで許してくれるのかは分からないけども……。


「挙げたお金なんですから、ネクラさんの好きに使ってください!」

「もちろん構いませんよ!」

「家族を増やすとかなんか変な事想像しそう……」

「私を迎えるんですねありがとうございます」


 なんか一部変なコメントが見受けられるけど、大多数の人は賛成してくれてるらしい。


 唯一僕の手の中にいる子猫は肉球をにぎにぎされた時よりも嫌な顔をしているけども……。

 いや、別に君に飽きたとかじゃなくて、結構心の安寧に繋がるので増やしたいと思っているだけで……。


 僕は春香と違って命にはちゃんと責任はとるし、多分一生お金には困らないので何不自由ない生活もさせてあげられる。

 遊び道具もいっぱい揃えてあげるし美味しいご飯も……って、なんだこれ……。


「……なんかこの子が許してくれなさそうなので、一旦保留という事で……。おやつとかおもちゃとかいっぱい買ってあげようかと思います……」


 不機嫌そうな手毬の頭を優しく撫でつつ、なぜか収益が増えるスピードが増えている気がすることを見て見ぬフリをする。

 もう知らんと、現実逃避はあとでする。


「今の収益どんくらいですか? ……これ言っていいのかな。3億超えました……」


「3億はヤバいwww」

「3億ってなんだよw」

「1回の配信で一生分の財を稼ぐ男」

「いつもの事ながら意味わかんなくて草」


 悪いけどね、僕が一番意味わかんないんですけど?

なに、やってほしいって言われてやった結果こんなになるなら、もうやめたいんですけど!

 人がいきなり3億円も貢がれたら、嬉しいとかそういう感情全部すっ飛んで怖いが先に来るんだ? 分かりますか?


「……また公式グッズ出すので、それで許してもらってもいいですか?」


 ほとんど自棄だった。


 公式グッズを出して、この前販売した物も再販すると言えばそっちの為にお金を溜めようとするだろう。そんな浅はかな考えて発した僕の言葉は、ファンの人達にとっては別の意味での燃料投下になったらしい。


「少ないですけど足しにしてください!」

「お仕事頑張ります!」

「無理のない課金は無課金って知ってる?」


 そんなことを言いながら次々お金を投げてくる人が数倍に増加し、もうやめてほしいと耐えられなくなって逃げるように挨拶をして配信を終了した僕は、真っ先にマイさんに連絡を入れた。もちろん、公式グッズの件でだ。


 余談だけど、税金や配信サイト側に持っていかれる分を差し引いても僕の口座に一度に2億ちょいが振り込まれたことで再び銀行から電話がかかって来た。


 ほんと、ごめんなさい……。僕のせいじゃないんです。悪ノリして沢山貢いできたファンの人達が思った以上にいたからなんです……。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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