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第165話 誕生日生配信

 配信開始予定時刻の10分前になったので、春香が情けで入れてくれた猫部屋を後にする。だが、手毬があんまりにも行かないでという目を向けてきたので、春香に許可を取って特別に僕の部屋へと連れてきた。


 僕の部屋は、今は何台ものパソコンとモニターが所狭しと並んで、部屋の隅に小さな冷蔵庫とベッドがあるだけの小さな部屋だ。

 そんな部屋でも手毬がいるだけで華やか……は親ばか?な気がするけれど、華やかになっているような気がする。


 それに、今回はハイネスさんとトウモコロシさんの強い勧めでカメラをオンにした状態で配信をするので、絵面的にも手毬がいた方が良いだろう。


「えっと……マイクとカメラをオンにして、この映像を配信開始用の物に差し替えて……え、合ってるかな」


 膝の上でゴロゴロ言いながらもっと頭を撫でろと言ってくる手毬に謝りつつ、トウモコロシさんに教わった通りの事を順にやっていく。

 それでも自信が無いので、送られてきたメモを何度も読み返して間違いがないかをしつこいくらいに確認する。


「はぁ……。ねぇ、僕やり遂げる自信ないんだけど……。ていうか、配信とかなにしたら良いのか分かんないよ……」

「にゃ~?」

「何かいいアイデアは無いですかね手毬さん……」

「にゃ~」


 可愛く首を傾げて大きなあくびをする膝の上の猫がなんだか恨めしい。

 見てほしい、この、悩みなんて何もないって感じの暢気な顔を……。

 そりゃ可愛くもあるし、思わず頬が緩みそうになるけどさぁ……。


「はぁ……。ねぇ、元気ちょうだいよ手毬……」


 手毬を抱っこしてそのお腹にがぁっと顔をうずめる。

モフモフの毛並みがすっごく心地いいけど、春香が同じことをすると手毬は容赦なくその顔を引っ掻きに行くんだよね……。なんで僕は許されてるのか……。


「うぅ……。はぁ、始めますか……って、え、ちょっと待って? このさ、今日の収益ってのはなに?」


 やっと配信を始めようとパソコンの画面を改めて見てみると、右下の方に小さく『今日の収益』と書いてある欄があった。

 そして、そこには1億3246万という表記があった。


 広告を入れるように設定した覚えはないし、そもそもハイネスさんの忠告通り変な設定は一切していないのだけど……。


「あれ? なんかカメラ付いてない? え!? これって映像終わってなくてもカメラ付くの!?」


 そして、最悪な事とは得てして連続して起きるものだ。


 別のモニターに映っている自分の今の配信画面を見てみると、ばっちり僕と手毬が映っていて、人間の方がすごい間抜け面でカメラの方を向いている所だった。

 画面の中にいる猫は、僕の手の中にいる手毬とそっくりで同じタイミングで暢気に大あくびをする。


「……マイクも入ってるとか言わないよね?」


 配信画面の下に表示されているコメント欄を恐る恐る覗いてみると、そこには虹色に光る数々の投げ銭と呼ばれるものと、それらに交じって「やっと気付いた」などのコメントが多数寄せられていた。


 中には手毬が可愛いだの、猫にすがる僕が可愛いだの、意味の分からないコメントもあったけれどそっちは一旦スルーする。


「あ~……ど、どうも皆さん……。ネクラです……」


 引きつった笑みを浮かべつつ、手毬を膝の上に戻してカメラに向かってペコリとお辞儀をする。

 他に言う事があるだろうと思うかもしれないけれど、そんなのは知らない。もう、今すぐに配信を止めて手毬に慰めてもらいたい気持ちでいっぱいなんですけど……。


「えっと……さっきまでの姿はその、忘れてもらえると嬉しいなぁ……と思ったりするんですけど……」


 配信画面の下に小さく表示されている視聴者数は300万人を超えている。そんな中で自分の醜態を晒してしまったことが、本当に恥ずかしい。

 いや、普段の僕の姿だと言い訳するのは簡単なんだけど……なんかかっこ悪いし……。


「あ、あの……それと沢山お祝いしてもらってありがとうございます。とっても嬉しいです」


 今日の収益が示しているのが何の数値なのかを察した僕は、それが全て視聴者さんからのお金のプレゼントだという事にものすごい罪悪感を覚える……けど、いらないなんて言うのは非常識という事くらいは分かる。ので、とりあえずお礼を言っておく。

 いや、最初からぐっだぐだになってるのは十分分かってるんだけど……仕方ないじゃん、初めてなんだから……。


 コメント欄にも無数の「おめでとう」の文字や、投げ銭が大量に投下される。

 投げ銭された金額に応じてその色が変わるスーパーなんちゃらは、ほとんどが最高金額を示す赤い色だった。もちろんその下の紫や青や黄色の投げ銭もあったけれど、一番多いのは赤い物だ。

 確か5万円くらいだったはずだけど、皆大丈夫だろうか……。


「えっと……改めまして、ネクラです。こっちは家族の手毬です。僕は今日で……たぶん18になりました。まだまだその、至らないところもあるかもですけど、変わらず応援してもらえると嬉しいです」


 一応慣れない笑顔を浮かべてもう一度ペコリと頭を下げる。

 年齢に自信が無いのは、自分の歳なんてそんなに気にしたことは無いし覚えているものでもないからだ。

 高校2年生でもう少しでクリスマス……なので、たぶん間違ってないと思う。


「ネクラさんってまだ高校生なの!?」

「紅葉狩りの写真見た時から思ってたけど想像してたより若くて草」

「そんなに若いのにあんなに色んな人に気遣えるの偉い!」


 なんだかすっごくヨイショされているようなコメントばかり流れてくるが、そんなことを気にする前に1つ言っておかないといけない事がある。

 というか、これはもうほとんど相談だ。


「あの……この投げ銭?はもうやめてほしいんですけど……。嬉しいですけどその、僕に払うなら美味しい物でも食べませんか……?」


 いらないという訳ではないけれど、配信を開始して5分で収益が2億円を突破したとか言われたらそれはもう恐怖でしかない。

 実際には、多分枠を取った時からこの状態が続いていたんだろうけどさ……。


「ネクラさんに貢げる機会なんて中々ないのでこれくらい許してください!」

「私達からの誕生日プレゼントだと思ってください!」


 少しの間を挟んで、そんなコメントで埋め尽くされる。


 そりゃ、公式グッズとかに興味のない僕だから貢ぐ機会が少ないっていうのは分かるけど……そもそもホストじゃないんだから貢ぐっていうのはどうなのか。

 いや、推しに貢ぐともいうからそこまで変じゃないのかもしれないけどさ……。


「えぇ……ちょっと待ってくださいよ皆さん。こんなにお金があったらいっぱい美味しい物食べられますよ……? ほら、焼き肉とかお寿司とか……いっぱい」


 そう言っているにも関わらず、投げ銭の雨は止む気配がない。

 それに、設定を人に聞いただけでしっかりと調べていないせいでこの機能の切り方が分からない。これだけお金をもらうと、むしろ恐怖が勝ってしまう。


 いくら僕でも、数億円単位で人からお金をもらった経験なんてないのだ。


「手毬ちゃんにお金使ってあげてください!」

「俺の将来の嫁に渡してください!」


 みたいな変わった人もいるけれど、正直これだけのお金を自分のために使うのは限界がある……。というか、多分無理だ。

 どうやってかはまだ未定だけど、ファンの人達や応援してくれている人に出来るだけ返していきたいと思う。ほんとに、どういう形でかはまだ分かんないけど……。


「誕生日配信とかなにしたらいいか分からないんですけど、なにしたら良いんですか? 雑談とかですか?」


 投げ銭が止む気配がないのでもう仕方ないと諦めて、どうすれば良いのか視聴者の人に聞いてみる。

 それは、生配信が始まって15分が経過した頃だった。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

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