第164話 誕生日
更新は月曜と火曜、土曜日の18時過ぎにします。
朝は起きれないと実感しましたので...ちょこちょこ変えちゃって申し訳ないですm(_ _)m
現実逃避の為にたっぷり10時間ほど眠った僕は、起きてすぐに携帯をチラ見してその通知の数に目を疑った。数万件なんてものではない、数百万件の通知なんて意味が分からない。
SNSの通知の数は9999で止まっているけれど、通知のバナーをタップすればもの凄い数のおめでとうのリプライや配信を楽しみにしているなどのメッセージが届いていた。
「……もう一回寝ようかな」
なんだこれは。ネクラとしてネットの世界でちょっとした有名人になってから数年経っている気がするけれど、今まで誕生日にこんなに祝われたことは無かった。
せいぜいちょっと顔見知りとか、ファンの人達数人がおめでとうとリプを送ってくるくらいで、僕もありがとうございますと礼儀的に答えていただけだった。
もちろん嬉しくないかと言われると嬉しいと答えるけれど、自分はそんなにたいした人間じゃないのにこんな沢山の人に誕生日を祝ってもらって良いのだろうか。そんなことを考えてしまう。
一瞬だけリプ欄を見た時に家の中で祭壇のようなものを作って僕の人形や缶バッチ(全て非公式)なんかに囲まれて幸せそうに微笑んでいる女の人の写真があった気がしたけれど、多分気のせいだ。
その人が、すっごくマイさんに似ていた気がするけれど、絶対に気のせいだ。
チームメンバーの人からもたくさんおめでとうとメッセージが届いており、女性陣はなぜか洋服や香水や美容用品なんかを送ると言っている。
いや、ありがたいんだけどそんなものを貰っても人前に出ないから使う機会が無いんですけども……。
「良いじゃん、お兄ちゃんが使わないなら私が使ってあげるから。てか、おまるさんってほんとにお金持ってるんだね。この化粧水とか、めっちゃ評判良いけどありえないくらい高いって言われてるのに」
「へぇ~……」
リビングでソファに寝転がりながらテレビを見ていた春香にどうすれば良いか聞いた時の反応はこんな感じだった。
あまり深く考えない方が良いのだろうか。プレゼントを貰ったら、それを絶対に使い切らないといけないみたいな、変な気持ちがあるんだけども……。
「食べ物とかならともかく、服とか化粧品とか香水はその人の好みあるしね。たぶん皆、お兄ちゃんに使ってほしいとかじゃなくて何かあげたいけど良い物が思いつかなかったんじゃないの? お金持ってる人に栄養ドリンクなんてプレゼントしても仕方ないでしょ」
「お金持ってるって……。全然使ってないんですけど……」
むしろ、20にもなってない若造の銀行口座に億を超えている金額が入っているのだ。
ゲームで手軽に稼げるとはいえ、それはいくら何でも異常だと銀行から何度か電話が来たことがある。その時の弁明は凄く大変だったことを覚えている。
仕方がないので自分の正体を話したら意味が分からないくらい動揺されて本店に呼ばれたし……。
脱税してるでしょとか意味の分からない因縁?をつけられて警察官が来たこともあった。
その人が女性の人で、しかも逮捕しに来たとか言ってる割に令状も持ってないし、挙句の果てにサインしてほしいとか言ってきた時は流石に引いたけども……。
「彼氏でもない人に洋服とかプレゼントするのはどうなのとは思うけど、私が色んな人に『お兄ちゃんの私生活がひどい』って愚痴ってるからかもしれないし……」
「愚痴ってるの……?」
「ネクラ像を壊さない程度でね。そこら辺は配慮してあげてるんだから、感謝して」
「ど、どうも……?」
いや、僕が聞きたかったのはそういう話ではないんだけど……まぁ良い。
ていうか、今さら気付いたけど、明日の交流戦も前回と同じ条件でやることが既に決まっている。
もちろん負けた時の条件も同じだ。誕生日配信をするか、現実でイベントを開くか。
「ねぇ、もしかして明日負けたら、僕現実でイベントしないといけなくなったりしない?」
「え? いや、気付くの遅すぎない……? なんでそんな条件吞んだんだろって思ったけど、気付いてなかったの?」
「……明日は本気で勝ちに行こう? ね?」
「そんなこと私に言われてもどうしようもないでしょ。誰かさんと違って、私は毎度途中で捕まるし」
「......明日の交流戦って、なにかする予定あった?」
もしも前回のように勝ち負けは二の次で何か実験的な事をする予定があるのなら、僕の精神的な生存は諦めなければならなくなる。
もちろん本気で嫌だと言えば誰も止めはしないだろうけれど、そこまで嫌という訳でもないというのが本音だ。
なんで僕なんかが……という気持ちはもちろんあるし、高校生が芸能人の真似事なんてしたくないという気持ちはある。
けれど、皆がそれを望んでいるのならすること自体は別に構わないという思いがあるのもまた事実だった。
そこら辺、ハイネスさんはしっかり計算に入れてるんだろうけど……。
「ねぇ、もしかしてハイネスさんが全部裏で手をまわしてるとかないよね?」
「さぁ~。流石にそこまでは話してないけど、お兄ちゃんが疑ってるなら可能性はあるんじゃないの? あの子ならやりかねないし」
「はぁ……」
確かに、あの人ならやりかねないと思ったから僕は春香に聞いたわけだけど……否定の言葉が欲しかった……。
いや、流石にそこまではしないだろうという理性の部分と、やろうと思えばできるあの人の頭脳と行動力を知っているせいで、頭の中がぐちゃぐちゃになっている。
「そういえばさ、なんでもう生配信の枠立ててるの?」
そう言いながら、春香は自分のスマホをちょいちょいっと操作して僕の誕生日生配信の画面を見せてきた。
そこには、僕は数日前に急いで作った待機画面の映像と、しばらくお待ちくださいという文字の横で僕のアバターがお辞儀しているイラストが映し出されていた。
「ハイネスさんから言われたんだよ。誕生日の日、起きたら枠取って時間になったらスタートしたら良いって。それまでは画面とか見ないで放置してていいし、マイクをミュートにしてれば生活音とか漏れないって」
「なんでそん……あぁ~、なるほどね」
「ん?」
「いや、あの子らしいなって」
「どういう意味?」
最近の配信者さんは、生放送が始まる前に待機枠?なるものを設けて、視聴者さん同士が交流できるような場所を作るものだとハイネスさんが言っていたので、僕もそれに習って作ってみたのだ。
その時、何もない画面だと味気ないと思ったのでアニメのオープニングのように待機映像を作って、その下に一応文字を打っておいたのだ。
これで合っているのかは分からないけれど、間違ってたならハイネスさんから連絡が来るだろうし大丈夫だろう。
ハイネスさんに言われた通り、どこもいじってないから配信が始まるその時までは何も問題は起きないはずだ。
「で、何するの? 配信」
「......アイディア募集中」
「……私用事あるんだった。手毬と遊ばなきゃ」
そう言ってさっさと猫部屋に行ってしまった春香に、僕は内心で叫んだ。
「助けてくれてもいいだろ!! 薄情者!」と……。
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やる気が、出ます( *´ `*)




