第163話 反省会
『Moon lightb』との交流戦が終了した直後、僕らは全員いつもの会議室に集合して今回の成果を報告しあっていた。いつもみたく、僕かハイネスさんが中心になって話しているのではなく、各々が今回の交流戦を通じて感じた課題や携帯の重要さ、情報共有の大切さを語り合っているのだ。
「で、説明してもらっていいですか?」
「や、やっぱり気付いちゃいました……?」
「浮気がばれた彼氏みたいなこと言わないでくださいよ。あんな露骨に避けられたら分かりますって」
「あはは……」
苦笑したハイネスさんは僕が予想していたことを話すと「全てその通りです」と大人しく白状した。その反応があまりにあっさりしていたので、僕はなぜだかスッキリしなかった。
この人の性格上、なぜそう思ったのか、なぜその結論に至って、実際どうだったのかを聞いてくると思っていた。
さぁ来い!みたいな心境で挑んだら、相手があっさり引いて謝罪してきたのだ。
普通ならあ~そう、くらいで終わらせるかもしれないけれど、僕はなぜだか引っかかった。
だって、あのハイネスさんだ。
僕と似たようなところがいくつもあって、変に負けず嫌いなところもあるようなハイネスさんが、あっさり負けを認めるだろうか。
「買いかぶりすぎだと思いますよ? それにほら、私達が負けても今回の交流戦にはなんのうまみもないじゃないですか」
「……あ~、なるほどですね」
白々しい笑みを浮かべたハイネスさんのその態度で、僕は全てを察した。
結論から言って、今回の交流戦は1勝3敗の結果に終わったのだ。まぁ正確に言えば1勝3分けなのだけど、事前の取り決めで引き分けは向こうの勝ちになるのでそれはいい。
問題は、僕らが負けた時は僕の誕生日に僕が生配信をするか現実の方でイベントを開かなければならないのだ。
そんなの知らないとか、身バレが……みたいな言い訳で逃れることも出来るかもしれないけれど、僕の性格的にそんなことはしないという事くらい分かっているだろう。
そして、今回の交流戦の相手は第二回ネクラ杯の優勝チームで、第一回の『ネクラさん攻略同盟♡』なる人達ほどではないにしても、僕のガチ恋と呼ばれる人が数人いたはずだ。
さらに言えば、ハイネスさんも僕の事を好きだと公言し、さらには告白までしてきてくれた人だ。現実でイベントを開けとまでは言わないけれど、生配信くらいはしてほしいのだろう。
僕は人に誕生日を祝われたことが少ない……というか、小さい頃一度だけ春香にプレゼントをもらったくらいで、その後はそっけなく「おめでと」と言われるくらいだった。
なので、何も言われなかったらSNSで誕生日を迎えたことを報告するくらいで生配信なんて絶対にしない。それを、ネクラファンである彼女は気に入らないと今回の策を考えたのだろう。
「いやいや~、そんなことは……」
「おかしいと思ったんですよ。うちの学校で3年主席の人がこんなに無謀な事言いだすはずないし、方針もバラバラだから!」
「......可能性だけを考えて教科書丸暗記みたいなことしてるからですか?」
「はい。ハイネスさんがそんな非効率的な事するかなってちょっと不思議だったんですけど、そういう事だったんですね」
「まぁ~、正直に白状するとそういう一面があったのは事実です。ただ、ミルクさんが言っていた出るかもしれない試練。これは、私もあるかもなと思っていたので、その予行演習として組み込んでみたというのもありますよ?」
交流戦が始まる前にミルクさんが言っていた、出るかもしれない試練とは、味方の子供が鬼のキャラに変身するという物だった。
もちろん変身するのは外側だけなので、鬼の姿になっている子供に近付いても確保されることは無いけれど、傍から見たらその鬼の姿をしている人が本物か子供か見分けがつかないよねというのが、この試練の陰湿なところだ。
なので、今回は味方との合流を避けて、その試練が出た時の予行演習を兼ねてみた。という事らしい。
実際は連絡を取り合ったりすれば予防可能だと思うが、やらないよりやった方が良いだろうとの事だ。まぁ、それはその通りだけども……。
「僕の生配信を期待してる方が大きいんじゃないですか?」
「……さぁ~?」
「まぁ良いですけど……。沈黙は、時に言葉より多くを語るって言葉知らないんですか?」
「何かのアニメでそんなことを言ってた気がしますね~。でも、ネクラさんの誕生日は数日後ですし、私が言ってもやってくれるかは分かんなかったので、こういう形でやってもらおうと!」
「本音の部分駄々洩れですけど大丈夫ですか?」
「……ハッ! 油断した……誘導尋問!?」
この人、ほんとにうちの学校で3年の首席なのだろうか。
いや、僕も時々詐欺に引っ掛かりそうとか言われるからわからなくもないけども……。
「お兄ちゃん? あんまりハイネス虐めないでくれる?」
「……放送に使う機材とか色々調べとかないといけないしその、安くないからさぁ……」
「最近意味わかんないくらいお金入って怯えてたのどこの誰だっけ?」
小声でそう言われ、僕にしか分からないようにうっすらと圧をかけてくる春香。
思わず苦笑しか出なくなるが、これが現実の方だったら間違いなく正座させられている事だろう。
「大丈夫ですよ! そんな損失なんて絶対チャラになると思うので!」
「? どういう意味ですか?」
「いえいえ~。あ、ネクラさん。配信する時は余計な設定なんてせずにそのまま放送開始してくださいね! 放送時間とかは特に気にしないですけど……長くしてくれるとすごくうれしいです!」
「は、はぁ……?」
よく分からないが、とりあえずそう返事しておく。
その数日後、トウモコロシさんに色々聞いて機材を揃えた僕は、数時間後に迫った誕生日を前に、生配信を行う旨をSNSに投稿した。
流石に時間帯は朝方だと迷惑だろうという配慮から、夜の18時からにした。これで数人とか数百人しか来なかったら僕は数日寝こむ自信がある。
自意識過剰だの、芸能人面するなだの、そんな罵詈雑言が並べられる未来を幻視して、フルフルと首を振ってサッサと布団をかぶった。
どれだけ世間で認められようとも、僕の自己評価が上がる事は今後一切ないだろう。うん、これは仕方ない。性格だから……。
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やる気が、出ます( *´ `*)




