第162話 Moon light 交流戦第二試合 後半
最後の方に謎解きが出てきますが、すぐに答えが明記されるのでもし解きたいという方が入ればその時点で読むのをストップした方がいいかもしれませんm(_ _)m
試合の残り時間が1時間を切ったけれど、相変わらず隙だらけの僕を狙ってくる鬼も、合流してこようとする子供すらいないのはどういう事だろう。
いや、どういう事だろうっていうか、多分ハイネスさんのせいで僕はかつてない疎外感と孤独感を感じているわけだけども……。
「僕だけで、真っ赤な景色、寂しすぎ」
頭に浮かんだ、SNSに男一人が紅葉を見ている様と一緒に投稿されているような意味の分からない俳句を詠んで、はぁと肩を落とす。
実を言うと、縄文杉からは割と周囲の状況が見える関係上、何人かがこっちを指さしてキャーとか愛おしそうな眼差しを向けてきている場面を何度か目撃している。正直、今の僕のどこにそんなことをしている要素があるのかと言いたいのだけど、本音は違う。
(そんなことするくらいなら話しかけてきてよ……)
僕の大本には、寂しがりという面がある。
学校という無理して通う必要のない場所では友達が出来なかったので、ならネットではどうだろうと始めたのがこのゲームだ。
ただ、最初の方は頑張って人に話しかけようと努力したのだけれど、その不気味すぎるアバターのせいでずっと無視されてきたので早々に諦めたのだ。
まぁ元々コミュ障なので友達を作ろうとするとかなり難しい問題に直面する訳だけど……。
ただ、それでも寂しかったのでメモ代わりに使っていたSNSをそのままネクラのアカウントとして運用することを決めて、ランクマッチの勝率の画面を投下したのだ。
(それが何でこんなことになったのか、今でも時々考えるんですけどね!)
そんな、誰に対して向けている愚痴なのか分からないような愚痴を吐きつつ、ハイネスさんが皆に指示を出したと思われる僕関連の事についてもう一度確認する。
1つは、僕との接触を禁止するような物。たぶん、僕も鬼の1人のようなカウントをしてくれとでも頼んでいるのか、僕を見つけたら気付かれないように距離を取ることを徹底してもらっているのではないだろうか。
索敵能力があれば見つけられるだろと思うかもしれないけれど、仲間を探す時は鬼の捜索はするけども、相手が子供の場合は相手からも嬉々として近付いてきてくれるのでそこまで真剣に周囲を見回してはいないのだ。
なので、上位プレイヤーが本気で隠れて僕が本気で探そうとしていなければもちろん見つかることは無い。そこら辺は、ハイネスさんがしっかりと説明しているはずだ。
そして2つ目は、出来るだけ試練を自分の力だけで突破するようにすること。
これは1つ目の、僕が何でも解決してしまうのを防ぐという明らかに効果的な策とは違って本当に効果が出るかは怪しい物だ。
普通の試練はともかくとして、強制試練に関してはほとんどが複数人で挑むのが前提みたいなところがあるし、試練で協力することに何のデメリットもないからだ。
ただでさえ携帯の使用を禁止しているので仲間と出会う事すら厳しいし、仲間との意思疎通すら取れない。
そんな中で強制試練すら1人で解決しろというのははっきり言って無茶だ。
子供側でプレイしたことはあっても、その期間が僅かだったハイネスさんが考えた物なら想像出来なくても無理はないけど、あの人に限ってそんなことがあるのか疑問だ。
僕だって鬼側でプレイしたことはほとんどないけれど、ブログや公式サイト、動画サイトに上がっているなんちゃって解説動画なんかを見れば、大抵のキャラの運動性能は理解できる。
このキャラはどんなことが出来て、どんなことが得意なのか。どんなことをされるのが嫌で、どんなことをされるのが一番面倒なのか。
大抵のキャラの長所と短所を暗記すれば、ランクマッチでの勝率はぐんと上がるだろう。
足音だけでもかなり特徴があるので、それで何のキャラが迫ってきているのかを判断して、そのキャラが得意としていることを頭に入れつつ、そのキャラがされて嫌なことをすればいいだけなのだ。
で、3つ目はまだ未確定だけどほとんど確定なのがある。
それは、子供間の合流をそもそも制限しているのではないかという物だった。
つまり、自分以外は全て敵だと思えじゃないけど、今子供陣営の人達はそんな感じの心境なのではないだろうか。
(これで効果が期待できるっていえば、索敵能力のさらなる向上と2つ目のお願いを簡単にすることくらいだよね?)
まぁ世界大会でこんな感じの試練が出ないのかと言われると、そこら辺は完全に謎なので「可能性だけで言えばあるんじゃない?」と答えるしかない。
それに、何度も言うけど今回は試験的な交流戦なので勝ち負けは二の次で良い。
大体、引き分けが負けになるような試合で本気で勝ちに行こうとすればかなり面倒なことになる。それも、携帯無しで。
「可能性を考えてそれを対策するっていうのは別におかしくないし歓迎したいところだけど……いくら何でもやりすぎじゃないかなぁ……。ここまで想定してたら何もできないんじゃないかな」
極論を言えば、世界大会では今までに実装されていないマップや試練が出ると明言されている。
マップは暗記してから望むのが普通のこのゲームでは、初見のマップというのはかなり面倒な存在だけどそれは相手チームも同じ条件のはずだし、どうしようもないのでそこは良い。
ただ、試練はなにが出てくるのか分からないのでどんなものが出てきてもいいようにあらゆることを想定してその訓練をしている……というのが、今の状況だ。
でも、ここまでいろんなことを考えていると他の事に気が回らなくなる可能性がある。試験勉強の時だってそうだ。
教科書全部を暗記するよりも、ヤマを張ってそこを重点的に勉強した方が効率が良い。なにせ、テストがあるのはその教科だけじゃないのだから、いちいち教科書丸暗記なんてしていたら、効率が悪すぎるからだ。
(これは……早いとこ意識共有しとかないとだめだな。改善案として提示できるものと、その根拠になるようなデータを用意して、ついでに今回の交流戦のデータをまとめて……)
この後にやることが滅茶苦茶に増えた気がするけれど、データをまとめるのは得意なので楽しみが増えたと思えば良いだろう。
と、ある程度思考をまとめたところで最後の試練が出題される時間になった。
大会モードでは1つの試練をクリアした後は残りの試練をスルーするのが普通なのだが、今回はすごく暇なのでとりあえず携帯を確認する。
「また謎解きか……。なんか最近多くない?」
今回出題された内容は、難易度4の謎解き問題だった。
『ある病気にかかると返事が出来なくなると言われています。その病気とは?』
医学的な知識はないのでそんな病気が本当に存在するのかはともかくとして、こんな問題は数秒で解けるので、この前のようにしっかり頭を悩ませないと解けない問題を用意してほしかった……と、心の中でぼやく。
「扁桃腺と返答せんをかけた物だろうけどさぁ……答えがダジャレってのはどうなの……」
誰に向けるでもなくぼやいた僕は、その数分後にまたも強制試練中のおまるさんが確保されたことで敗北のアナウンスが聞こえてくるまで、ずっと縄文杉のところをゴロゴロしていた。
ちなみに、残りの子供の人数は15人とさっきよりも多かった。
ハッキリ言おう。みんな強くなりすぎじゃない?
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やる気が、出ます( *´ `*)




