第158話 おまるの戦い
遅れました申し訳ないです!
マイさんの次に相談にやってきたのはおまるさんだった。この人がプレイに関して悩んでいるなんてイメージは全くないんだけど、一体何を相談するつもりなのか。
そう思っていたら、開口一番こう切り出してきた。
「ネクラさん……新作のアイディアが全く湧かなくて! もう私どうしようかと!」
「……プレイに関する相談じゃないんですね」
「いやいや! これは重要な問題ですよ! 編集部から催促の電話がかかってくるのシカトしてプレイしてると、奴ら部屋まで乗り込んでくるんですよ! 鬼ですよ鬼! どんな手を使っても原稿を書かせようとしてくる悪魔です!」
「そういう仕事なんですから仕方ないじゃないですか……」
肩を落として苦笑いしながらそう言うと、おまるさんは「そうじゃないんですよ」と肩をガックリと落とす。
アバターが美人なだけに残念美人感が強いけれど、美人という点だけで言えば現実の方のおまるさんも結構な美人なのでそれはあながち間違っていないのかもしれない。
まぁ、プレイとは直接関係ないかもしれないけどおまるさんのファンとしてはこれは重大な問題だ。
僕も、おまるさんには早く新作を書いてほしいし……。
「結局どうしたんですか? 前は完全新作か前作の続きを書くかで迷ってるみたいなこと言ってましたけど……」
「それがですねぇ……やっぱり続編を書く前提で書いてなかったあれの続編を無理やり書くのは無理ってんで新作書き始めたんですよ。ただ、前作が無駄に反響良かったせいでどうしても納得できるものが出来なくて! プロットの段階で違う! ってなっちゃって進まないんです!」
「な、なるほど……」
前作は歴史的ヒット作と言われているのにそれが『無駄に反響が良かった』で済ませられるのは彼女のいい加減? 大雑把? な性格ゆえだろう。
まぁ確かに前作がそんなにヒットしたのなら今回もそれぐらいのヒットを期待されるのだから仕方ないのかもしれない。
一ファンとしては普通におまるさんの新作が読みたいって言うだけで、世間の反響とかはぶっちゃけるとどうでも良いんだけど……。
「そうなんですか?」
「まぁ……ぶっちゃけるとそうですよ。世間の反応がどうであれ、僕が面白ければそれでいいと思う人なので。だってそうじゃないですか? 世間の人がどうかは知りませんけど、僕は読みたいから小説買うんですもん。世間の反応がどうであれ、タイトルが面白そうだったら読みますし……」
むしろ、世間の反応ばかり気にしていたら本当の名作には出会えないかもしれない。
例えば、世間では全く評価されてないけど実は名作! みたいな作品だってあるかもしれないし、世間での評価は散々だけど僕にとっては……みたいなのもあるわけだし。
ならタイトルだけで決めるなよって言われそうだけど、この世の中には腐る程作品があるわけで、その中から選ぶ指針としてタイトルがあるよねって話なだけだ。
実際、僕がおまるさんの作品を手に取ったきっかけは世間の評判とかよりもその魅力的なタイトルに惹かれてだったし。
「世間の反応とかどうでも良いと思いますけどね。自分が面白いと思える作品を書いていれば良いんじゃないですか? おまるさんは十分すぎる実績があるので、それだけでも一定数は読んでくれると思いますけど」
「うぇ……。実際、もうお金なんていらないので本とか出したくないんですよ! 推理ものって、意外と書くの難しいんですから! 6時間もあれば読める物だって、こっちは数週間、時には数カ月かけて書いてるんです! もうほんとキツいんですよ!」
「あはは……」
なんか、小説家のリアルな声って感じがして新鮮だけど、これはもう相談と言うより酒場で愚痴を吐く人みたいな感じになっているのではないだろうか。
まぁおまるさんの悩みがこれで解決するなら話を聞くくらいは問題ないんだけども……。
「うちの編集さんがですねぇ、もうすっごい真面目な人で! 私がこんななので絡むのは面白いんですけど、催促の電話がかかってくるたびにあの人の事嫌いになっていくんです」
「それだけ期待されてるって事じゃないですか。向こうも仕事なのでしょうがないですよ……」
「ん~、そうなんですけど……!」
頭を抱えながらう~と唸るおまるさんは、それからしばらく編集部の人達への愚痴を吐き続けた。
僕は別に気にしないけど、紅葉狩りの時はあんなにウキウキしてたのにまるで別人だ。
これじゃ、おまるさんがあんなに才能が有りながら辞めたのは編集部の人のせいなんじゃないかとも疑ってしまうから不思議だ。
「おまるさん、どうしたらやる気出ますか……? かくいう僕も、おまるさんの新作は楽しみなんですけど……」
「えぇ……。ネクラさんが私と結婚してくれたらやる気出ます」
「いや、真顔で何言ってんですか……」
この人の場合はどこまでが冗談でどこからが本気なのか分からないので反応に困る。
しかも、紅葉狩りに行って分かったけれど、うちの女性陣はほとんど僕のファンで可愛がってくれたので、あながち冗談とも思えないっていうのが心臓に悪い。
「うぅ……。じゃあ、ハグしてください……。あ、キスでも良いですけど……」
「いや、なんてもん要求してくるんですか……。どれもハードル高いんですけど……」
「良いじゃないですか……。ちょっとだけ、この、頬にチュッてするやつでいいので。そしたら一週間後には原稿上がってる気がします」
「えぇ……」
この人は僕が押しに弱いのを知っているうえでこの態度を取っているのだろうか……。
いくら僕でも付き合ってもない人にキスをする人は外国人かヤバい人って認識はあるのでそんなことはしない。
大体、付き合ったことない人に要求するものじゃないでしょ……。
代わりと言っては何だけど、肩を落として頭を抱えているおまるさんの隣に移動して小学生くらいの背丈しかないこの姿でめいいっぱい両手を広げる。
「あ、あの……、ハグくらいなら、良い、ですよ……?」
「……」
「いや、なにか言ってくれませんか……? これ、意外と恥ずかしいんですけど……」
「ほんとに、良いんですか?」
なぜか頬を赤く染めているおまるさんにコクリと頷くと、それはもう信じられないくらいのスピードで迫ってきてそのままぬいぐるみを抱くようにギュッとハグされる。
自分からやっておいてなんだけど、すっごい恥ずかしい。もう二度とこんなことしない。
それを密かに決意するくらい、このハグで負ったダメージは大きかった。
「ネクラさん……応援してください……。応援してくれたら、もっとやる気出ます……」
「え、えっと……おまるさん、楽しみにしてるので、頑張ってください……」
「うん! うん! 頑張る! もうちょー頑張るから! だから、終わったらまた言ってね……」
いや、なにちゃっかり次も要求しようとしているのかこの人は……。僕、もうこんなこと二度とやんないから!
これは、ドラマとか小説ではイケメンのカッコいい人がするから良いのであって、僕が、オマケに子供の姿で、ぬいぐるみみたいにぎゅっと抱きしめられてするものじゃないでしょ。
「はぁ……もうずっとこうしてたい……」
「何言ってるんですか……。恥ずかしいのでそろそろ離してください……」
「もうちょっとだけ堪能させてください……。脳裏に焼き付けます……」
それからたっぷり2分ほど抱きしめられた僕は、なぜかホクホク顔のおまるさんを見送ってはぁと一息ついた。
しかし、意外とおまるさんに時間をかけたせいか次の人が扉をノックする音が響く。
「次は確か……」
「ネクラさん、失礼します」
そう言って部屋に入ってきたのは最近アバターをガラッと変えて少女のような外見に変身したミミミさんだった。
この人の前では、あんまり情けない姿を見せるとすぐ食べられそうになるので気合を入れなければ……。
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やる気が、出ます( *´ `*)




