第157話 マイの不安
その翌日から、チームメンバーと僕の個別の相談会が始まった。
相談会と言っても家庭訪問みたいに1対1で話して相手の悩みを解決するってだけなんだけど……。
そして、その会場(場所)に選ばれたのは、他でもない例の応接室だった。
まぁ、ここ以外の個室はギルドメンバーの各々の個室だったり僕が対日本予選用に作戦を纏めている部屋だったりと色々なので、自由に使える個室がここだけしかなかったのだ。
相談者の個室とか僕の個室で行ってもよかったんだけど、僕はあまり人に自分の部屋を見せたくないし、他の人も似たような思いがあれば無理に気を遣わせてしまうかもしれないのでこういう形を取ったのだ。
そして、一番最初の相談者は誰あろうマイさんだった。
「なんか、こうして2人で話すのは久しぶりな気がしますね」
「そうですね! チームを集めようと話した時以来な気がします!」
なぜか満面の笑みを浮かべているマイさんは、それからしばらく近況報告やら公式グッズの話を嬉しそうに話していた。
特に公式グッズ再販の件はマイさん達も検討していたらしく、僕の判断を仰ぎたいという話が出たばかりだったのだという。
公式グッズと言うこともあって自分達だけの判断で進めたら不味いだろうという声が何人かから上がったらしい。そこまで気にしなくても良いんですけど……。
「そんな訳にはいきませんよ~! あ、そうそう、あんまりお時間を取らせるわけにもいかないって思ってたの忘れてました! すみません、久しぶりでちょっとテンション上がっちゃって……」
「いえいえ、構いませんよ? 時間は多少左右すると思って次の人には遅めの時間を伝えてあるので」
相談なんて受けるのだから1人に対応する時間は割と余裕をもってとっている。
1人が何個も質問して良いように、それでいてこういう、世間話的なことも話せるようにね。
まぁ僕はコミュ障なので相手から話してもらわないと会話が続かないんだけど……。
「ありがとうございます。で、相談と言うのは皆の私対策が進んできているってところなんです」
「マイさん対策、ですか?」
「はい。基本的には、集団で動かないとか遮蔽物を意識して、隠れる事よりも逃げる事を優先するとかです。それで、ランクマッチでも手こずっちゃうことが増えてしまって……」
まぁ、マイさんは異常と言えるほどの索敵能力があるのでそりゃ対策も進むよなって感想しか出てこない。
本気になったマイさんには僕でもたまに負けるので、何かしらの対策をしないと勝てなくなるっていうのは分かるし、僕も彼らの立場ならすぐに対策方法を考えるだろう。
「それを日本予選でされることの不安と、どう対処したらいいかの相談って事ですか?」
「そうですそうです! ハイネスさんにも相談してはみたんですけど、やっぱり明確な回答は出せないみたいで……」
「あの人が……? う~ん、参考までに、なんて言ってたか教えてもらっても良いですか?」
「えっと、『さらにプレイヤースキルを上げてゴリ押しするか、それを逆手にとってマイさんが索敵か何かのスキルを付けるか……』みたいなことを難しい顔しながら言ってました」
あのハイネスさんがなんでそんな脳筋みたいな答えしか出せなかったのかは分からないけれど、要は簡単な話だろう。
「まず、その対策がなぜ有効だと言われ始めたのかを考えましょう。マイさんの強みは異常な視覚力と索敵能力……まぁ勘が良いと言った方が分かりやすいですね。どれだけ遠くにいても、姿が一瞬でも目に入ればキャラの運動性能でどうとでもなる。ただ、相手側はバレてないだろうと思っているので逃げようともしない、もしくは逃げるのが遅れる。だから隠れるより逃げるを主とした対策が有効に働いている訳です」
「な、なるほど……?」
「マイさんの異常な視覚力には遮蔽物を介することで対策として、キャラの運動性能に関しては気付かれているかどうかが定かではないので少しでも時間を稼ぐ為に早めに動き出す逃げる主体の動き。これが、マイさん対策の本質だと思います」
まぁこれくらいはハイネスさんだってわかっているはずだし、彼女にも同じような説明をされているはずなので軽くで良い。
問題はこの後だ。ハイネスさんがなんでこの答えに辿り着けなかったのか不思議でしょうがないけれど……。
「対抗策としては、相手が隠れる可能性が高い遮蔽物をマップごとに全て暗記して、そこを強襲する形で捕まえていく方法です。一転狙い……というか、賭けの要素が強いですけど、子供が隠れやすい遮蔽物って、実はそんなにないので覚えるの自体は簡単です。後は、高台とかに上って相手を見つけてから瞬間移動等を使って捕まえに行く手段ですね。ただ……」
「ただ……?」
「今の時点では、この対抗策に対して何もしなくて良いと思います。理由は、対抗策に対して対抗策を取った場合、また新しい対抗策が生まれるので日本予選ではその新しい対策方法に関しても新しく考えなくてはいけません。なので、そこまで深刻に考えなくて良いと思います。もちろん大会中に新しい対抗策は生まれるでしょうけど、数は少ない方が覚えるのも楽なので」
「なるほど……」
環境を操作するじゃないけど、対抗策と言ってもある程度時間が経たないと生み出せないはずだ。なので、その時間稼ぎをするという意味でも、今回に関しては何もしない方が賢明のはずだ。
まぁ、僕のチームには僕を含めて2名、数秒で対抗策を思いつく人がいるんだけども……。
「そう言えば、ソマリさんがネクラさんに聞いてほしいことがあるって言ってたんですよ。それも、ついでに聞いて良いですか?」
「良いですけど……なんですか?」
恋愛関係の質問ならどう答えようか……。そう身構えていたら、聞かれたのはネクラ杯決勝でのことだった。
もう終わったことだけど、僕ならどう指示を出したのかどうしても気になったらしくマイさんに頼んだらしい。
「そうですねぇ……。状況が詳しく分からないので何とも言えませんけど、僕なら瞬間移動じゃなくて加速を設定して相手が貫通を使う前に不意打ちで捕まえるように指示を出します。もちろん終盤になると使えなくなりますけど、その場合は建物内にあらかじめ鬼を待機させておいて、そこに追い詰めるようにしますね」
「それで何とかなるものなんですか?」
「加速で捕まえるところを他の人に目撃でもされなければ、なんか捕まるの早いな程度の認識で抑えられるので意外とどうにかなると思います。目撃されてからは使えなくなりますけど、加速の能力を使って建物内まで行けばそれなりに距離は縮められるので、残りは自分の索敵能力との勝負かと」
まぁ詳しい状況があまり分かっていないので端的に思いつくのであればこの程度だ。
ハイネスさんならまた違った指示を出したかもしれないけど、僕自身が相手チームの作戦にあまり魅力を感じないので試そうとも思わないなぁ……くらいの感想しか出てこないのが難点だけど……。
「ちなみに、相手方のこの作戦、強いと思いますか?」
「いえ、そこまで強くは無いかと。もちろん初見殺し的な要素だけで言えばピカ1かもしれませんけど、特に強くは無いです。だって、無敵とか瞬間移動と違って逃げた場所が分かり切ってるので、捕まえようと思えば捕まえられるじゃないですか。無敵と瞬間移動が強いのは、逃げ先が相手には伝わりにくいっていうのもあるんですよ」
「な、なるほど……」
日本予選なんかの2本先取の戦いや、僕らみたく異常な速度で解答策を用意できる指揮官がいるチームには通用しない手だろう。
ソマリさんが指揮官として不出来と言う訳ではないけれど、まぁ確かに完璧な解答は出しにくいよなぁ……って感じだ。
「ありがとうございました! スッキリしました!」
「いえいえ、参考になったなら良かったです。ソマリさんにもよろしくと伝えておいてください」
「はい!」
そう言って応接室を出て行ったマイさんの次に部屋にやってきたのは、腕に鎖を付けて鬼のお面と豊満な胸をこれでもかと主張する浴衣を着た女の人――おまるさんだった。
現実のこの人を知った後だと、アバター姿にものすごく違和感があるけれど、開口一番「やっと2人きりで話せる~!」と嬉しそうに破顔したその姿は現実のおまるさんそのままだった。
投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>
やる気が、出ます( *´ `*)




