第156話 軍師の提案
僕がアスカさんと佐々並さんに相談して数日後、突然ハイネスさんがチームの全員をギルドに招集した。
今更だけど、僕達はチーム全員の連絡先を纏めてグループのようにまとめているので、誰かがメンバー全員に連絡を取りたい場合はこちらを使ってもらうようにしている。
そして、基本的にチャットでは伝えにくいことを話したい時には誰でも全員を招集できるようにしている。
これは、僕や春香、ハイネスさん達のような、このメンバーを集めた人しか招集できないとした場合に不満が溜まる可能性があるのと、単純にコミュニケーションがとりにくくなってしまうからだ。
チーム内ではあまり上下関係なんかを作りたくは無いので、お互いフラットな関係でいたいのだ。一応、このゲームは助け合いだしね。
そして、ギルドのいつもの会議室に集まった面々を見回しながら、ハイネスさんは一つ短い息を吐くとぺこりと頭を下げた。
「まず、いつもの事ですがお忙しい中集まっていただいてありがとうございます。で、早速本題なんですけど。皆さん、今の自分のプレイに自信を持たれていますか?」
唐突に何を言い出したのかと思えば、なぜか難しいことを言い出したハイネスさん。
そんなの、自分のプレイに自信を持っていると言えばどれだけ自信過剰なのかと言われる可能性があるし、無いと言えばもっと自信を持てと言われる可能性もある。
つまり、どう答えようともなんだか面倒な方向にもっていかれそうで怖い。
「ネクラさんはともかくとして、皆さん、自分のプレイにはまだ完全な自信は無いと思うんです。特に、ネクラさんの解説動画を見た後でなら自分のプレイがいかにお粗末だったのかがよく分かるかと思います。改善点がいくつ見つかったのかは人それぞれでしょうが、改善点なんて見つからなかったなんて人はここにはいないのではないでしょうか」
「……ハイネス、何が言いたいの?」
「日本予選までは残り2カ月を切っています。そして、ネクラさんのせ……おかげで、プレイヤー全体のレベルが非常に高くなっているのも事実です。なので、皆さんでネクラさんに色々教えてもらいませんか?」
今一瞬、僕のせいで勝ちにくくなったって言おうとしたよね? いやむしろ、本音じゃ絶対そう思ってるでしょ。
なんかごめんね!?
「って、ちょっと待ってくださいよ! なんで僕なんですか!?」
「いや、皆ネクラさんを参考にしてるんですから当たり前じゃないですか。もちろん個人的に色々聞いてる方はいるかもしれませんけど、遠慮してる方もいると思います。なので、この機会に悩みがある人はネクラさんに聞いてみてはどうかと」
僕の負担とかを一切考えてないようなハイネスさんの提案だけど、まぁ日本予選ないしは世界大会で勝とうと思っているなら自分のプレイには絶対の自信……とまでは言わなくとも、今の時点の不安要素は解消しておいた方が良いだろう。
僕にも当然課題はあるんだけど、そこは学校に行っていないという時間的なアドバンテージがあるのでどうとでもなる。
「まぁ確かに、聞いてみたいことはあります。ですが、それだとネクラさんご自身の負担が大変なことになりませんか?」
「ミラちゃんに同意です……。もちろん聞いてみたいことはあるんですけど、皆さんの前だとちょっと恥ずかしいですしその、ネクラさんのご迷惑にならないかと心配で……」
手を上げながらそう言ったのはミラルさんとミルクさんだ。
確かに、ハイネスさんの言う通りチームメンバーの何人かは今までも個人的にプレイの相談をしてきているし、そのたびにアドバイスもしている。
しかし、その中にこの2人は含まれていない……。というか、今まで個人的に相談してきたのは全員男性陣だ。(春香を除いて)
やっぱり遠慮していたのかという思いと、異性だし中々切り出しにくいよなぁという同情にも似た気持ちが湧いてくる。
春香は僕が兄だから他の人より断然相談しやすいだろうし、男性陣は良い意味で色々遠慮がない人達なのでそこら辺は深く考えずに貪欲に勝利の為に聞いてきてくれているのだろう。
「僕は別に大丈夫ですよ? 皆さんご存じの通り、僕普段からあんまり寝てないので睡眠時間云々はあまり気にしないで大丈夫ですし、最近は日本の有力チームの対策を纏めているので暇なんです」
「……対策を纏めてるのに暇なんですか?」
「それしかやることないんですもん。暇じゃないですか」
「はぁ、ネクラさんみたいな優秀な人が部下に欲しいですよ……」
ミミミさんがそう言うと、対面に座っていたキリスさんが分かりやすく肩を竦めた。
直属の上司が同じチームのメンバーで、目の前でそんなこと言われたらそりゃ誰だって凹むでしょ……。
ミミミさん、それ以上キリスさんを虐めるのは止めてあげてください……。
「でもハイネスさん、こういう事を提案するなら一言僕に欲しかったっていうのは……」
「あぁ、それはすみません、以後気を付けます。なら、この場でお伺いしますね。どうですか?」
「……ん~、まぁ僕は構いませんよ? なんなら、暇な時間で個別に対応するっていうのも可能なので個室かどこかでゆっくり話聞くとかも出来ますし……」
正直僕のアドバイスを聞いてもそんなにプレイに改善点が生まれるのかと言う疑問があるし、不安が解消されるのかと言われるとそんな自信は無い。
だけど、この場でそんなことを言っても多分なんやかんやで言いくるめられるので、それならもう無駄な抵抗はせずに相手が望んでいるんだからと受け止める事にする。
「ということで、ネクラさんにご相談したいことがある方は遠慮なく仰ってください。もちろん強制ではないので、ご自分で何とかしたいという方は止めません。ただ、日本予選が近くなってきたのでそろそろ対抗戦やプロチームとの交流を増やしていこうとも思っています。そのことを念頭に置いてもらえると助かります」
最後にぺこりと頭を上げたハイネスさんは、話は終わりだと切り出すとその後は各々ランクマッチに潜ったり仕事に戻ったりと解散になった。
ハイネスさんもランクマッチに行くつもりなのか会議室を出ようとしていたので少し話があると慌てて引き留める。
「あの、どうして急にこんなことを言い出したんですか?」
「え? いや、最近やけに皆さんが静かなのでなんでだろうって考えた時に、遠慮してるんじゃないかなと思っただけですよ。ネクラさんの解説動画を見たのならもっと質問が飛び交っていても良いはずですけど、実際は以前に比べて静かになったなと思ったので、今回その不安を払拭する場を設けようかなと」
「あぁ……なるほど、そこまで気が回りませんでした。助かります」
「いえいえ、これくらいはいつもしてる事なので。ちなみにネクラさん、私は賛否の方の否定派なので、そこのところはご了承ください」
「……はい?」
何の事だろうと一瞬考えるが、僕の周りで最近賛否両論と言う言葉を聞いたのはアスカさん達と会った時のファッションでニュースサイトに取り上げられた時だけだ。
ていうか、あれはハイネスさんが春香に頼んだんじゃないのか……。
「まぁ確かにそうですけど、なんか、思ってたより無理ってなりました。遊んでそうって思っちゃって……。単純にカッコいい系ならまだしも、大人っぽいのは私は無理です!」
「は、はぁ……」
「ほら、よく言うじゃないですか。推しと好きな人の違いは、直してほしいところがあるかないかだって! 推しは全肯定出来るけど、好きな人にはこれを直してほしいだとかやらないでほしいって思うって! ね、ネクラさん!」
「ね!と言われても同意は難しいんですけど……」
しかも、そんな言葉があるなんて今初めて知ったんですけど……。
まぁ確かに言われてみればその通りなのかなぁ……? と思ったりもするんだけどさ。
「あ、ネクラさんついでに言っておきますね?」
「……はい? なんでしょうか」
「私、別にネクラさんの事諦めたつもり無いので、そこら辺は覚えていてくださると嬉しいです」
ニコッと笑ったハイネスさんは、すぐにギルドを出てランクマッチへと向かった。
ハイネスさんを見送った直後、ライに肩を叩かれる。
「あの子、お兄ちゃんが思ってる以上に嫉妬深いから気を付けてね」
「……僕、誰とも付き合ってないんですけど」
「付き合ってる付き合ってないは、嫉妬が生まれるかどうかとは関係ないよ?」
「……マジですか」
僕は、これからどうすれば良いんでしょうかね。
ちなみに、数時間後には僕に相談事があると言ってきたギルドメンバーはハイネスさんと春香を除いたほぼ全員だった。
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