第14話 決着
晴也が海賊エリアへと生まれ変わって20分程が経過し、ゲームの残り時間も後僅かとなった。
残っている子供の数は晴也を含め4人であり、その全員が海賊エリアへと集結していた。
その理由は簡単で、晴也が呼んだからだ。
もちろんここまで順調に事が運んだ訳ではない。
瞬間移動の能力を持っていたり、偶然近くにいたプレイヤーが今生き残っている4人であり、その他生き残っていた3人は道中で捕まってしまった。
しかし、それも晴也の計算の内だ。
「本当に、ネクラさんの言う通り鬼の影も形も見ませんね……」
「そう言ってもらえると嬉しいですよ。仲間達が犠牲になってくれたおかげで、今のこの状況があると言って良いんですから……」
晴也がそう言って苦笑すると、周りにいる3人の男女はそれぞれお互い顔を見合わせ、複雑そうな笑みを浮かべた。
彼らからしてみれば、指示に従っていただけで勝ちがほぼ確定したのだ。
何でこんな事になっているのかさえ、全員が理解していない。
「あの、ネクラさん。今さらですけど、どうして私達をここに集めたのですか?」
自分の周りでも理解している人が居ないと悟った唯一の少女が、勇気を振り絞ってネクラへと作戦の内容を聞いた。
実際のところ、ここにいる3人は、急に「海賊エリアに全員集合してくれ」と連絡を受け、訳も分からずこの場に来たのだ。
説明を求めるのは当然だった。
「相手の鬼の中に、凄く頭の良い人が居る。だから、その頭の良さを信用しただけですよ」
あまりにあっけらかんと言い放つその姿に、鬼の姿をしている少女とリュックを背負った30代くらいの男、そして、頭に毛が無い僧侶の格好をした男は呆然となった。
それではあまりにも説明が足りないだろ……。とは、この場の全員の意見だった。
ただ、あこがれの存在でもあるネクラに対し、そんな事を言えるプレイヤーは、この場に一人もいなかった。
「あ、ごめんなさい。説明が足りなかったですか?」
「できれば、もう少し詳しく話していただけると……」
「えっと、相手に鬼の配置なんかを全部決める指揮官が居ると私は思っているんですけど、そう思った理由についても説明した方が良いですか?」
それくらいは、ここまで生き残っている全員にとってはもはや共通認識だった。
自分たちで言うところのネクラのような、全ての指揮を出してくれるような存在が居ないと、あんなに連携はとれないだろう。
そもそも、大会モードでは指揮官のような存在が居るのが普通なのだ。
全員、顔を見合わせた後、代表として鬼の少女がこくりと頷く。
「私がステージエリアにいた時、女王と探偵がその人物と電話した後、エリアを去ろうとしていたにも関わらず、私の捜索を始めた件は――」
「聞いています。私達も、そこから相手の指揮官がかなり厄介な人だとは思っていました」
「なら話が早いですね。私があちらの指揮官だった場合でも、おそらく同じような指示を出します。そして、私に逃げられた後、あちらの指揮官は私を追わせず、協力者の方を追わせました。しかも、瞬間移動先を的確に言い当てています」
晴也からしてみれば、あの協力者の女の子に、移動先まで指示をしておかなかったのは失敗だったと思ったのだ。
しかし、そう思った時には既に彼女は確保されていた。
人生で初めて知恵比べで負けたと感じた瞬間だった。
「恐らく、有能な指揮官であれば、残り時間と捜索可能なエリアを選別するのは限りなく早い。鬼側は、機動力があまりない構成なので、遊園地のような広いマップでは、必ず捨てなければならないエリアが出てきます」
「それがこの、海賊エリアだと……?」
「その通りです。広場からここまではかなりの距離があるので、狙撃手では時間のロスになってしまう。四君子も同じです。女王と探偵を向かわせる事も出来ますが、それなら協力者の確保後すぐに瞬間移動をしてくるはずです」
それが無かったため、このエリアの捜索は完全に捨てていると判断した訳だ。
恐らく、狙撃手を配置するのは海賊エリアと噴水広場、両方と繋がっているエリアだ。
そう仮定するなら、狙撃手が海賊エリアに子供を逃がした場合のみ、探偵と女王が瞬間移動でこちらに来るはずだ。
少なくとも、自分ならそう指示を出すと晴也は考えたのだ。
晴也の考え方は、自分が相手の立場ならどうするのか、そこから逆算して指示を出すのだ。
今回の場合、相手がかなりキレ者のようだったので、自分と同じような考え方をするタイプだろうと早々に判断出来たのも大きい。
遊園地のような広いマップだと、機動力の無い構成の場合、どうしても探せないエリアが出てくる。
捨てること自体は良い判断だが、それを相手に悟られると、こうして逆手に取られる場合がある。
今回、晴也はそれに成功した。ただそれだけだ。
「捕まってしまった人が居たのも計算の内です。私からなにかしらの指示が飛んでいると相手方が悟った場合、真っ先にこのエリアに女王と探偵が飛んできます。なので、多少の犠牲は覚悟の上でした」
『……』
「ん? どうかされましたか? 皆さん」
悠々とここに至った経緯を話す目の前の男を見て、3人は全く同じ考えを持っていた。
(味方で良かった~!)
もし自分が相手の立場だったら……。そう考えただけで涙が出そうになる。
だって、どこをどれだけ探しても子供が見つからず、こちらの意図も全て読まれているのだ。
単純に、怖い……。
「あ、いつの間にか残り1分ですね。皆さん、お疲れさまでした!」
『お疲れさまでした……』
海賊船の甲板に隠れていた一同は、ネクラが立ちあがりお辞儀をしたことで、それに続いて全員が頭を下げる。
そして、そのままゲーム終了のベルが鳴り、練習会第1試合はネクラチームの完全勝利という形で幕を閉じた。
――8時間後
練習会第5試合を終了したところで、相手側から満足という返事をもらった。
晴也自身は久しぶりに楽しいと感じたのでもう少し戦っていたかったが、元々そういう約束だったので仕方がない。
戦績は3勝2分けという何とも言えない結果だったが、チームメンバーは満足そうだったので何も言うまい。
ちなみに、こちらの鬼は1度も負けなかった。
というか、毎回1時間足らずで子供を残り1人まで追いつめていたのだ。
おかしい……。うちの鬼陣営はどうなってるんだほんと……。
「それはあなたもだと思いますよ? 特に1試合目! うちの頭脳がすっかり自信無くしちゃって、励ますのに苦労したんですから!」
「あ~、あの試合は私も凄くたのしか――」
「そういうことを言ってるんじゃないんです~! うちの可愛いハイネスを虐めないでください!」
練習会終わり、お互いのチームメンバーが感想を言い合っている中、晴也はカンカンに怒ったライに説教をされていた。
なんでも、ハイネスという鬼陣営の子が、自分のせいで自信を喪失してしまったとか。
いや、こっちは2回もその子にしてやられてるんですけどね……。
「2試合とも、最後まで残ったのはあなたでしょ!? 毎度キャラ変えて、その度に変な事してくるって泣いてましたよ!?」
「え!? いや、それは……ごめんなさい。調子に乗りました……」
ランクマッチだと、そもそも通話が無いので指揮官なんて人が居る状況はまず起こらない。
そうすると、自分が誰かと行動して、その人を守っていれば勝てるのだ。
大会モードでも、今までは全体に指示を出しつつ、1人を傍において守っていた。
だけど今回は、思ったよりこっちの考えている事を当てて来て、少しだけ調子に乗ったのだ。
良い競争相手が居れば競いたくなるように、勝手にライバル視してしまったのだ。
実際、大会モードの子供も、負けた事などここ数年では一度も無かった。それなのに、2つも黒星をつけられたのだ。
トッププレイヤーとして、燃えない方がおかしい。
「でも、知恵比べみたいで私は楽しかったですよ! 出来ればじっくり話したいと……」
「はぁ~。あの子はうちのアイドルであり頭脳なので、あんまり自信を無くさせるような事はしてほしく無いんですよ……」
「それはもう。はい。すみませんでした……」
ライに呆れられた晴也は、自分の欲望を押し殺して真剣に謝った。
こんなことで悪評が広まるのは、本当にごめんなのだ。
非はこちらにあるのだし、真剣に謝っておいた方が良い。
必死に謝っているネクラのそんな姿を見て、ライも反省していると受け取ったのか、それ以上の言及はしてこなかった。
周りでそれを見つめていたメンバーは全員微笑ましそうに眺めており、晴也の知らない間にネクラの評判はまた少し上がっていた。
「では、今回はこのあたりでお開きにしたいと思うのですが、ライさんはどうですか?」
「私も異論はありませんよ」
「では、これにて解散で。皆さん、本当にお疲れさまでした!」
『お疲れさまでした~』
各チームのメンバーが次々ログアウトしていく中、2人の女性プレイヤーは、それぞれ違う視線でそれを見送るネクラを眺めていた。
1人は様々な心配と嫉妬の気持ち、もう1人は……
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やる気が、出ます( *´ `*)




