第154話 本気です
好きと言われることに慣れる? この人は何を言っているんだ?
そんなの、たとえ言われ続けたとしても慣れる物じゃない気がするし、むしろもうやめてくれと悶え死ぬ結果になるだけな気がするんですけども……。
「いや、慣れるってどうするつもりなんですか……」
「犬系男子とか猫系男子とかってあるじゃないですか。あれって、当然ですけど女の子にもそういう系統が存在するんですよ~。ご存じですか?」
「いや、あんまり……」
ゲーム以外の知識の情報源が海外の論文や小説の僕からすれば、そんなのは未知の単語だった。
それに、恋愛物の小説は現実味が無さ過ぎてあまり好みではないので数冊しか読んだ経験が無い。基本はミステリーとかを読んでいるので推理する事だけは得意なんだけども……。
「まぁだいぶざっくり噛み砕いていうと、犬系っていうのは好きな人にはとことん尽くす的な……言い方悪いですけど好きな子の忠犬みたいな感じです。で、猫系はその反対で相手を振り回すというか、気分屋的な感じですね。構ってほしい時は構ってほしいけど、そうじゃない時はマジ辞めて的な~」
「そんな方がいるんですか……?」
「いますいます~。よく話題に上がるんですよ? 犬系男子と猫系男子のどっちが好き? みたいな。ほら、草食系男子と肉食系男子のどっちが好き? みたいな感じです」
「ならそういう呼び方で良いのでは……」
いや、考えてみれば草食系と肉食系は女の人に対するスタンス的な物の違いで区別しているのに対して、犬とか猫っていうのは好きな人に対する接し方で区別されているのでそもそもが違うのか。
まぁ、話を聞いた感じ草食系男子がそのまま犬系男子になってそうなイメージあるけども。
「でもそれって、言うなら肉と魚どっちが好きとかっていう、そういうレベルの話じゃないですか? 慣れる慣れないっていうのとどう関係してくるんです?」
「犬系の子って、総じて愛情表現がかなり激しい……っていうか、多い傾向にあるんですよ。なので、そういう子の近くにいればどうかな~と」
「いや、仮にそんな人がいたとしてですよ? 恥ずかしくて数日待たずに逃げ出しますけど僕」
例えば、僕が誰かしらと付き合ったとして、その人がその犬系女子だったとしよう。多分、数日のうちに僕の方がその愛情表現に恥ずかしくなって別れを切り出す気がする。
それは猫系と呼ばれる人も同様で、あんまり人に振り回されるのは得意じゃないし、自己肯定感が低いせいで興味ないのかなとか不安になって苦しくなるから別れを切り出す気がする。
……とことん付き合うのに向いてないな僕。
確か、他の人に恋愛感情を抱かない人もいるという話をどこかで聞いた気がする。僕はそれなんじゃないだろうか。いや、単純に他人に興味を持てないだけかもしれないけど!
「そこを耐えて女の人に耐性つけましょ!ってことですよ。ほら、ちょうどここに良い感じの物件があるじゃないですか~」
「ほぇ?」
ニコニコしながら隣で赤面している佐々並さんの頭をポンポンと撫でるアスカさんは、完全に紅葉狩りの時のミミミさんと同じような顔になっていた。
いや、あの時のミミミさんが肉食獣だとするなら、今のこの人は人が困っている様子を見て心底楽しそうに笑うヒーローアニメの悪役だ。ばいきんの格好でもすればとてつもなく似合うのではないだろうか。
「さっちゃんって、テレビじゃあんなですけど、根はこんな可愛い子なんですよ~。お金の方も……いや、ネクラさんには関係ないですね。でもこの子、好きになったらとことん尽くすタイプですよ?」
「ちょっ! なに言ってんのあーちゃん!」
「どうですかうちのさっちゃんは~。こんなに可愛くて面白……じゃないや、からかいがいのある子、中々いませんよ?」
いや本音隠しきれずに漏れてるじゃん。
佐々並さんの顔見てみなよ、テレビでのクールな姿とはかけ離れてもう涙目なんですけど……。
確かにギャップがあるというか、意外な一面を見たという気がしなくもないし、この人のガチ恋勢の人が見れば悶えそうな光景なのは間違いないけども……。
「ここで僕が『良いですね、貰います』とか言ったらどうする気だったんですか……。そろそろ許してあげてくださいよ」
「いや、本気ですよ? 本人こんなこと言ってますけど、割とまんざらでもないですし。ね?」
「ん~! いや、だって……だってぇ!」
「いや否定してくださいよ……」
顔を伏せて首を横に振りながらも否定の言葉は一切口にしない佐々並さんは、その後ひとしきりアスカさんにからかわれてダウン寸前のところで見計らったかのようにやってきた店員さんのおかげで救われていた。
っていうか……
「ここで何してんですかコロさん」
ドリンクを運んできた店員さんの顔をよく見ると、この間打ち上げの現場で会ったコロさんその人だった。
ブラウンの制服に身を包んで眼鏡をかけているが、間違いなくあの時色んな意味でお世話になった人だ。
「私、本業はこっちなんですよ~。ネクラさんのファンアート描いてるのはあくまで趣味なので!」
「……まさかとは思いますけど、興味本位で話聞いたりしてませんよね?」
「なに言ってるんですか~。何回かオレンジジュースと間違えてリンゴジュース入れちゃったり、アイスココアをホットココアにしちゃってたまたま時間が――」
「ちゃんと仕事してくれませんかね!?」
白々しくごめんなさ~いと適当に謝っていったコロさんは、そのまま厨房の方に戻るとニヤニヤしながらこちらを覗いていた。もう隠す気0じゃんか……。店変えようかな。
「……アスカさん、知ってました?」
「いや、コロさんの事はほんとに知りませんでした。こんなところで働いてるんですね」
「まぁ、僕の話はこれくらいにして本題に移りましょう……」
オレンジジュースを一口飲んでそう口にした僕は、未だ赤面している佐々並さんを少しだけ気にしながら今日2人に来てもらった本題を話し始めた。
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やる気が、出ます( *´ `*)




