第152話 誘惑と言う名の誘い
晴也が連絡を取った相手とは、舞に誘われて行った打ち上げで色々な意味でお世話になったアスカと佐々並だった。
2人共ガチ恋勢が非常に多いアイドルと女優なので、こういう事に関しては良い対処の方法を知っていると思ったのだ。
晴也が失念していたのは、アルコールのせいで彼女達が自分の大ファンでそれを表向きには隠しているという事で、晴也的に2人はお世話になったアイドルと女優の人くらいの認識だった。
ハイネスが懸念していたのはネクラが2人に対してそんな軽い気持ちで会いに行くのではないかという事も含まれているのだが……。
「かといって、急に連絡するのって迷惑かな。いや、でもこの前のお詫びも言わないとだし……」
ヘッドホンをかけて音楽を聴きながら2人とのチャット欄を開いていた晴也は、送る文面を必死に考えていた。
さながら、好きな人にメッセージを送る時のように真剣に、それでいて失礼のないような文面を考える。
5分ほど内容を考えた晴也は、いきなり本題に入るのではなくまずは先日の謝罪とお礼を述べることにした。
こういう時、謝罪だけよりもお世話になったお礼を述べた方が良いというのは小説から学んだのだが、それが一般的に正しいのかは分からない。まぁそれでも、しないよりはマシだろう。
(謝罪よりお礼の方が嬉しいって言うしなぁ……)
2人共多忙の身なので返信は遅くなるだろうと椅子に腰かけたその瞬間、2人から秒速で返信が来る。
その速さに若干驚きつつ内容を確認すると、連絡をくれたことに対するお礼と「気にしないでください!」との文面が添えられていた。
2人共全く同じタイミングで、全く同じ文面で返してきたのは凄い偶然だなと思いつつ、もう一度だけお礼を述べて本題に入る。
「実は、妹の件で相談したいことがありまして。お時間がある時で構いませんので通話か何かでお話を聞いていただけませんか?」
チャットを打ち続けるのは疲れるだろうし、通話の方がスムーズに相談は行える。それに、チャットだけでするよりも時間的な効率が良いしね。
そう思っての提案だったのだが、今度はアスカさんから『今度休みを取るので会って話しませんか?』とのお誘いを受けた。
いや、この人国民的なアイドルでしょ。そう簡単に休みなんて取れないのでは……。
「ネクラさんの為なら何としてでも取ります! なので、ぜひ!」
なぜかやる気満々なアスカさんは、佐々並さんにも同じ相談をするつもりだと言うと、ちょうど今隣にいるから聞いてみるとの返信がきた。
いや、なんであなた達が横にいるのか。何かの撮影でもしているのだろうか。
「ちょうどドラマの撮影中なんですよ。俳優さんが遅れてて、今暇なんです」
「そうなんですか……。というよりも、僕と出かけてるところを誰かに撮られでもしたら面倒な事になりませんか?」
「まぁそこは変装でどうにか誤魔化しますよ。無理だった時は無理だった時でなんとかします!」
いや、何とかしますと言われても不安しかないんですけど……。
絶対僕はある程度盗撮されるし、隣に女の人がいたら「あれ誰!?」みたいな考察大会が始まる気がする。
まぁ1対1ならともかく、1対2なら付き合ってるとか変な勘繰りを入れられる可能性は低いだろうけど……。
それに、僕の方は良いとしても相手は国民的なスター2人だ。事務所とかそこらへん的にも厄介事は避けたいだろう。
それとも、これは僕が慣れていないだけで考えすぎなのだろうか……。
「考えすぎですね! いくら私達でも変装すればバレませんし、本物のファンなら芸能人のプライベートにまで口は出しませんよ~。あ、さっちゃんも休み合わせてくれるそうです!」
「まぁ、アスカさんと佐々並さんが構わないのであれば僕の方から言う事はありませんけども……」
僕が心配しているのはあくまで僕じゃなくて相手の方なので、相手が大丈夫と言うのであれば僕から何かを言う必要はない。
万が一大事になった場合はこのやり取りでも公開すればすぐに落ち着くだろう。変な疑いはすぐに晴らせるし。
「僕が合わせますので、お2人は無理のない範囲でお休みを頂いてください。ほんと、ただの相談ですので……」
「はい! さっちゃんにもそう伝えておきます!」
そう言ったにも関わらず、その2時間後、3日後に休みが取れたと連絡があった時は流石に呆れた。無理のない範囲でという僕の言葉はどこに行ったのか……。
そんなに急に休みを入れられるわけが無いので、絶対にマネジャーさんに無理を言ったに違いない。例えば……
「精神と肉体が限界で、休み貰えないと芸能活動が続けられない気がする~!」とか、アスカさんは絶対そんな感じの事言ってる気がする。
反対に佐々並さんは真面目な人なので、マネージャーさんにもある程度正直に……いや、こっちもなんか無理言ってそうだな。
「3日後にどうしても外せない予定があって、命より大事な予定なので急で申し訳ないんですけど、お休みを頂けませんか!?」とか、そのカッコいい顔を歪めながら言っている光景が目に浮かぶ。
1週間後とか2週間後を覚悟していた僕としては、3日後は早すぎるというか……なんでそんなに急に休みが取れたのかと言いたくなるほど急だ。
しかも、3日後は思いっきり平日だし……。
「なら、13時に新宿で待ち合わせにしましょう。近くのカフェかどこかでゆっくり相談させてください」
「了解です! 楽しみにしてますね!」
この人達は僕が相談をしたいと言っている文面はちゃんと見えているのだろうか。とてもそうは思えない程はしゃいでいるのが文面からでも十分伝わってくるのだけど……。
ていうか、この相談っていう部分を取り除くと普通にデートの約束にしか見えないんだけど……。なんか、今になって気が重くなってきた。
「……春香に相談してまた恥ずかしくない服買ってきてもらわないと……」
いくらなんでもいつも同じ格好だと変に思われそうなので、春香に言って外に出ても恥ずかしくない服をあと何着か見繕ってもらおう。
そしてその3日後、僕は待ち合わせ場所に徒歩10分で着くというにも関わらず、待ち合わせ時間の1時間前に家を出た。
(いや、なんでもう2人揃ってるの……?)
待ち合わせ場所の駅前に到着した時、異様なオーラを纏っている2人組を見つけた僕が最初に思ったのはそれだった。
ここまで来てようやく思い出したのだ。2人が、僕の大ファンだということに……。
(もう帰ろうかな……)
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やる気が、出ます( *´ `*)




