第151話 失言
春香に部屋から引きずりだされた僕は、いつものように床で正座させられてソファにどっかりと座っている春香を見上げる。
春香の表情は呆れ半分、怒り半分と言った感じでとても怖いが、暴力の気配は不思議と感じない。最近手毬が構ってくれるようになったので少しだけ機嫌が戻ったのだろうか。
「で、なんでしょうか春香さん……」
「なんで敬語なの?」
「いや、なんかしたかなと思って……」
「よく分かってんじゃん。で、なにさっきのあれ」
「さっきのあれとは……」
「配信に決まってんでしょ!?」
腕を組んで物凄い剣幕で怒りをぶつけてくる春香に内心ビクッとしながらもそんなにやらかした覚えのない僕は頭に?マークを浮かべて首を傾げる。
ただ言われた通りの質問に答えていっただけな気がするのだが……というよりも、春香もあの配信見てたのか。それが一番驚きだ。
「ハイネスから絶対見た方が良いって熱弁されたの! 絶対為になる事言ってくれるからって!」
「あ、はい……」
こういうことになるならハイネスさんを恨むべきかもしれない。まぁ、あの人は春香の本性を知らないので大っぴらに責める事は出来ないし、布教?しないでほしいというのも変な話なので何も言えないのだけども。
「何か問題がありましたかね……」
「なんで私と2人暮らししてるってバラしちゃってんの? え、バカなの? それすら気付いてないの?」
「……そんなこと言った覚えないんですけど」
確かに春香の事は聞かれたけれど、2人暮らししてますとは言った覚えがない。
流石にそこまで情報を開示するわけにはいかないし、チームメイトじゃない人にそんな事は言えない。
「いや、普通にコメント欄でバレてたから。家事とかよっぽどのことが無い限り親がやるもんだからね? それに、私がゲームに理解あるから何も言ってこないって言ってるのが決め手になってんの!」
「そ、そうなの? でもさ、それの何が問題なの? 別に住所がバレた訳じゃないじゃん」
「はぁ~! この時代、高校生2人だけで住んでる家庭なんてそんなに多くないでしょうが! 調べたらすぐに住所バレるって! しかも、私の顔も出回ってるからクラスの人にはバレてるし!」
「でも、良いって言ったの春香じゃ――」
「それとこれとは別なの!」
ピシャリと言い放った春香に対し、僕は心の中で叫んだ。
「理不尽すぎるでしょ!」と……。
旅行の時、顔バレしたら色々大変な目に合うと忠告したはずなのにそれでもいいから旅行に来いって言ったのは春香じゃなかったかな?
それなのに、実害が出たら速攻僕のせいにするというのはなんだかやるせないというか、理不尽もほどほどにしてくれというか……。
「それに、一部じゃ私が女の子と付き合った事あるって話も流れてるから、ほんとに面倒な事になるよ! 中学の頃のクラスメイトから既にお兄ちゃん紹介しろとかめっちゃ来てるのに!」
「面倒な事と言うのは……」
「は? え、なに本気で言ってんの?」
コクリと頷くと、春香は特大のため息をついて肩をガクッと落とした。
「お兄ちゃん目当ての人が私の気を引こうとしてくる可能性が滅茶苦茶高まったってこと! 女の子が相手なら別にいいけど、男相手でそんなことして来たら気持ち悪いだけじゃん! 下心丸出しの好意ぶつけられる気持ち分かるでしょ?」
「気にしたことないから……。そもそも人に関心が無いんだから好意を向けられても僕のどこが良いの?ってなるし」
「はぁ~! もういい!」
なぜかそのまま部屋に戻された僕は、春香の理不尽さに大きな大きなため息をついた。
春香が誰と付き合おうと別に何を言うつもりもないけど、僕のせいで日常生活に支障をきたすというのであればそれはまた別問題だ。
こういう時に相談できる相手が居ればいいのだけど、ハイネスさんにはあんまり頼りたくない。(気まずいので)
(SNSで呼びかけても仕方ないしなぁ……。かといって、僕が身を固めたとか言ったら炎上するだろうし……)
ヘッドホンで音楽を聴きながら数分考えた結果、僕は唯一と言って良いのか、そういう状況に慣れていそうな人の連絡先を最近手に入れていたと思い、思い切って連絡してみることにした。
ついでにこの間の時のお礼と謝罪も添えて。
――春香視点
お兄ちゃんが部屋に帰った後、私はすぐにハイネスへと電話をかけた。内容はもちろん、さっきお兄ちゃんに話した内容と同じだ。
どうすれば良いのか、ハイネスなら適格な指示……というか解決策を提示してくれるだろうという期待を込めて。
「ん~、私はそういう状況に陥ったことが無いから分かんないんだよね。ガチ恋勢とか私にはいないし、ネクラさんもあんまり気にしてないみたいだから……」
「そう、お兄ちゃんも気にしてないから分かんないって言ってた」
「そうだよねぇ......。そういう人は全員ブロックして行けば良いんじゃないの? あ、でもそれだとライの評判が落ちちゃう可能性があるのか」
有名になると必ずアンチと呼ばれる存在が現れる。ネクラにももちろんそういった類の者達はいるのだが、ネクラ自身の人間性とその実績が完璧すぎて普通のそれとは非にならないくらい数は少ないし、叩けるところが無いので裏でこっそり陰口を言いあっているようなアンチグループがある程度だ。
しかし、ライはそこまで完璧超人ではないのでもちろんそれなりにアンチが居る。
そのアンチ達が、ライがファンを無数にブロックしていると知ったらどんな行動に出るかは火を見るよりも明らかで、最悪ネクラやそのチームメイトに迷惑をかける可能性がある。
「私個人の意見としては、慣れてる人に聞いた方が良いと思う。私とかじゃ、やっぱり経験が無いから答えが出せない」
「慣れてる人? 例えば?」
「例えばほら、この前打ち上げに来て……ん? ねぇライ……この話、お兄さんになんて説明したの?」
「ん? なに急に」
「良いから!」
ハイネスの急な剣幕に困惑しながらも、若干お兄ちゃんを責めながら追求したことを説明し、あくまで私は悪くないというスタンスを取る。
ハイネスには嫌われたくないので、あくまで私は被害者であると強調して。
「まずい……。多分、ネクラさんならそのことに責任を感じて解決策を自分で探そうとするはず……」
「ん? ど、どういうこと?」
「ライが、顔バレすることで生じるデメリットを承知の上で紅葉狩りに着いてきてくれた事は分かってるけど、それで実際に被害が出たってなると、あの人は多分それを解決するための策を考えるはず。それも、自分が原因って言われてるならなおさら」
そう言われ、お兄ちゃんの性格なら確かにそういう行動に出る可能性が高いことを悟る。
しかし、ハイネスが何を問題にしているのかイマイチわからない。
「で、多分だけど最終的な結論は私と同じになると思うの。慣れてる人に解決策を聞く!」
「そ、そうね……?」
「で、今ネクラさんが連絡を取れる相手でガチ恋が居るってなれば、あの2人しかいない! で、あの人達はせっかくのチャンスなんだから、チャットとか通話でもなく、普通に会って話したいって言うと思う。すると、ネクラさんは優しいからその誘いを断れない。この間の借りも返したいと思ってるはずだし......」
「あ~……分かってきた」
つまり、ハイネスはお兄ちゃんが他の女の人とデートすることを懸念しているのだ。
しかも、ハイネスが言うのであればそれはほぼ間違いなく実現してしまうだろう。私よりもネクラの事を理解しているハイネスが言うのであれば間違いない。
「かといって止める事も出来ないからどうしようもないんだけどね……。私達が止めるのも不自然じゃん? だから、止める方法が無い」
「なるほど……。なんか、ごめんね?」
「ううん、ここで私が解決策を提示できていればお兄さんがあの人達と会う事は無かったから……。私の力不足だよ」
分かりやすく落ち込むハイネスを、なぜか私が慰めるという状況が数分続いた後、今後の事を少しだけ打ち合わせて私は夕食の準備を始めた。
諸事情で平日は投稿が遅くなりそうなので試しに8時少しすぎに投稿してみようかなと...。
休日はいつも通り19時すぎに投稿します。
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やる気が、出ます( *´ `*)




