第148話 「勧誘」
今日から投稿を再開します。
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m(_ _)m
数日後に迫った日本予選の対策を纏めていた時、その連絡は突然やってきた。
解説動画の編集を依頼していたトウモコロシさんからだったんだけど、その内容が衝撃すぎてその通知を三度見した僕を、誰が責められるだろうか。
「ネクラさん、動画サイトで配信してみませんか?」というものだったのだ。
いわゆる配信者になってみませんか? という類の物だったのだが、僕のそれを見た最初の感想は「はい?」という困惑の一言に尽きる。
この人、アバターはふざけているとしか思えない物だったけど基本的には真面目な人なので冗談でこういう事を言う人ではない。
いや、もちろん唐突にこんなことを言い出すような人でもないんですけど……。
とりあえずどういう意味なのか詳細を聞き、相手の返信を待つ。
DMの返信はたまにしかしていないけど、顔見知りの人にだけ教えているメッセージアプリの連絡には、基本的に数分で返すようにしている。
まぁ、寝てる時は別としてずっと携帯を肌身離さず持っているから気付くのが早いってだけだけど……。
トウモコロシさんも今は暇なのか、数秒で返信が帰ってくる。
その内容を要約すると、僕の動画に編集者として名前が載っている彼のSNSに大量にそういう依頼が来ていたらしい。
彼自身、編集作業をする際に解説動画を見てメキメキ腕を上げていたので、ネクラが配信すること自体には賛成らしかった。
(いや、ゲーム配信とかした事ないんですけど……)
特殊なセット……というか機械を使えば、VRゲームをしながら生配信は出来る。
ちょっと機材が高いのが難点だけど、お金に困っていない僕にはあまり関係ない。ただ問題は、僕が人に自分のプレイをあまり見せたくないというところだった。
僕のランクマッチでのプレイスタイルは初めてすぐから変わっていないので、認知されてきた今話しかけられたら反応はするけど、それ以外の時は基本黙ってるし……。
「雑談とかでも良いんじゃないですか? ほら、配信者って言ってもジャンルが色々あるじゃないですか」
「コミュ障に求めるの間違ってますよそれ……。質問もらってそれに答えるとかならまだしも……」
「あ~、なるほどですね。なら、今度私の配信にお邪魔していただけませんか? その時までに視聴者の方に質問募集しておきますので」
あ、そう言えばトウモコロシさんは動画を投稿してるんだっけ。だから編集作業も丸投げ出来たんだ。
まぁ、質問に答えるだけなら僕自身が損をしたり被害を被る事は無いはずだ。
というよりも、誘われて初めてトウモコロシさんのチャンネルを見てみたけど、僕の最初の解説動画を出したタイミングから登録者も再生回数も意味が分からないくらい跳ね上がっている。
元は10万再生位だったのが、今は200万再生されているのが当たり前……みたいな大人気配信者になっている。
その動画内容は主にプレイ動画や雑談配信なんかだけど、そこそこ人気の配信者として活躍しているらしい。
僕は配信者さんには疎いのでこれがどれくらい凄いのかよく分からないけど、ゲーム関係の動画を上げている配信者さんの中ではランキング10位に入っているようだ。
ちなみに、僕がぶっちぎりの1位でライが2位だった……。うん、訳が分からない。
「ていうか、うちの妹とはもう配信してるんですか?」
「ええ、以前オファーして出ていただきました。ちょうどグランドスラムが終わった段階でコンタクト取ってみたんですよ。それからは度々配信に映っていただいてます」
「へぇ……」
凄く見てみたい衝動に駆られるけど、それをするとまずいと僕の本能が告げてきている。
多分その動画を見たが最後、僕は棺桶の中に入っているだろう。
「じゃあ、日本予選が始まる前日の夜にでもお願いします」
「了解です。プレイ中心の質問を集めていただけると気楽に答えられるので、そこらへんお願いしても大丈夫ですか?」
「もちろんですよ。では!」
メッセージのやり取りを終えた僕は、その数分後に始まったトウモコロシさんの配信を覗いてみる事にした。
普段この人が何を話しているのか、どんな風に配信しているのか興味があったからだ。
まぁ、予習的な部分が大きいんだけど……。
「どもども~。ごめんねぇ、ゲリラ的に始めちゃって。ちょっと大きい企画が通ったんで、いち早く宣伝したくてさ~」
そう言いながらはにかんで笑うのは、いつかみたトウモロコシの格好をしたイケメンだった。おどけて笑うその姿は完全にゆるキャラのそれで人気の理由が伺える。実際、コメントを残しているのは女の人ばっかりだしね。
というか、告知なしで平日の真昼間なのに数分で6万人集まるっていうのはどうなのか。
これが普通なのか、それとも多いのか判断はできないけど、少ないってことは絶対にないだろう。
「ほら、前から皆にめっちゃ「やってくれ!」って言われてたネクラさんとのコラボね。あれ、さっき本人と話してオッケー貰えたんだよ~。凄いでしょ? 褒めて?」
トウモロコシの男がそう言うと、コメント欄が一気にヒートアップして投げ銭と呼ばれるお金が無数に飛び交う。
暗算が得意な訳じゃないので何とも言えないけど、少なくとも30万くらいは飛んでいるのではなかろうか……。
最近金銭感覚がおかしくなりつつあるけど、30万というのは大金だ。
僕がランクマッチで月に稼げる金額と同じか、下手すればそれより多い。
大会なんかの賞金が加算されてなんやかんや月に200万くらいは稼いでいるけど、配信1回……それも初めて数分で30万も稼ぐというのは意味が分からない。
「やったね! でさ、皆にはネクラさんに質問したいこととかいっぱい送ってほしいんだよね。本人からは出来るだけプレイに関することでお願いしたいって言われてるから、プライベートな物はこっちで弾くよ~。あ、それ以外なら一応目を通すから安心してね」
画面の中で肩を竦めるトウモロコシがそう言うと、分かりやすく何割かの人が落胆の声を漏らす中、すぐに喜びの声で溢れかえる。
なにせ、解説動画で教えてもらえなかったところを答えてくれるというのだから……って、ハードル上がってない? 大丈夫かなこれ。
(……予習しといた方が良いかな)
一応、ゲームについての情報を纏めているデータを見返してもう一度頭に叩き込んでおいたほうがよさそうだ。いや、多分大丈夫だろうけどさ。
その2日後の夜22時。僕はトウモコロシさんの配信にお呼ばれした。
視聴者の数は数々のネットニュースで取り上げられたせいで500万人を超えていた。
……どうしてこうなったんだろ。軽い気持ちで受けたんですけどね……。
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やる気が、出ます( *´ `*)




