第146話 打開策とその効果
私が考えた打開策とは、貫通ではなく瞬間移動で建物内に移動してこちら側が諦めたと思わせておいて捕まえるというものだった。
その他には、建物内にあらかじめ誰かしらを待機させておいて、相手が貫通の能力を使ったら待機していた鬼が捕まえるというものだ。
正直もっとマシな物は無かったのか、ネクラさんやハイネスさんならばもう少しまともな打開策を考えそうだという劣等感を感じないでもないけれど、人にはそれぞれ役目と言うものがある。
あの天才達はその頭脳で仲間を引っ張り、環境を作り出すことが役目なのかもしれないけれど、私にはそんな大層なことはできないので、大人しく先人が切り開いた道を歩む。
その効果の程は、試合が始まって20分の段階で出た。続々と確保情報が届き始めたのだ。
1人の子供に2人の鬼を使っていたり、既に瞬間移動の能力を使っていたらこの策を取ることができないので確保効率は悪い。だけど、着実に捕まえる事は出来ている。
しかし、それも1時間が経過する頃には雲行きが変わって……
「どうなってるの……?」
「まぁ、そりゃそうなるよなって感じではあったんだけど……」
マップはショッピングモール。このマップで厄介なのは、貫通の能力を使わなくともある程度チェイス時間を延ばすことが可能なところだ。
そして案の定、相手がとってきた行動は能力を使わずに時間稼ぎをするということだった。
質が悪いのは、相手のチームの面々がトッププレイヤーだという事だ。単純に、素のプレイヤースキルが尋常じゃないくらい高いのだ。
「ねぇ、どうするのこれ……」
「私だと、もう打開策思いつきませんよ? 相手残り13人ですけど、強制試練中の人を運良く捕まえるくらいしか……」
「今回はそれでいいかもだけど、もう1回それしないといけないんだよ……? しんどくない?」
「しんどいです」
そうだ。これは決勝戦なので、先に2回勝利を収めないと戦いは終わらない。
仮に今回運よく勝てたとしても、それ以外の勝ちしか拾えないのであれば子供側が頑張ってくれることを祈るしかない。
日本予選であればその方法を使って何時間でも、何試合でも粘るのが本当のゲーマーなんだけど、これは単なる仲間大会……というよりは、ユーザー大会なのでそこまでガチでする必要は感じない。
「降参して、良いですか? この大会を運営しているのはネクラさんですし、試合が長引けばそれだけ負担をかけてしまうかもしれません。確かに優勝賞品は惜しいですけど……」
恐る恐るそう言うと、目の前にいたくりーむさんはにかっと笑う。
「ま、仕方ないんじゃない? 準優勝でも賞品出るんだからさ、気にしない気にしない! 今回は相手が悪かったって事さ!」
「そう、ですよね……。じゃあ、皆さんにも連絡とって許可をもらいましょうか」
その数分後、こちらが降参した意図を正しく悟ったのか子供側も降参を選択し、私達のネクラ杯準優勝が決定した。
ちなみに後から知った話だけど、優勝チームのMoon lightはネクラさんにメンバーを引き抜かれたチームの面々が集結したチームだったらしい。
下手なプロチームよりも断然強いし、指揮官の賢さは今回の作戦で分かった。多分、ネクラさんにとってもかなりの強敵のはずだ。
もしも日本予選で私達が先にこのチームと当たったら、ネクラさんのためにも絶対に勝つと心に誓う。
「でもさぁ~、オリジナルグッズって何貰えるんだろうね。しかもサイン入りなんでしょ? 普通に嬉しいんだけど!」
「ですね! 仲間内でまたじゃんけんするってなると、前回みたいな事態になりそうです」
「あ~確かにな。ありゃ戦争だったもんな」
前回のネクラ杯の優勝賞品として提供してもらったネクラさんとの触れ合いとは別に、参加賞をめぐるじゃんけんを思い出して、私達2人は顔を引きつらせる。あれは、まさに戦争と言うにふさわしき現場だった。
参加賞とは言え、皆ネクラさんのガチ恋勢なのでそれはもう酷いありさまだった。
まるでカ〇ジの最初の方にある船の上でのじゃんけん……生死をかけた戦いかのように、皆目をギラつかせていた。
「今回はサリアさんにくじ引きを提案しましょう。あんな光景、私もう見たくありません」
「どうか~ん。サイン入りのグッズとか渡したくないけど、まぁしゃーないよなぁ~」
そうなのだ。私達ネクラ杯に出ている面々は、あくまでギルド内で実力上位と言うだけで選ばれているので、賞品や参加賞は皆で平等に分けようという話し合いが事前に行われている。
それはもちろんサイン入りグッズであっても同様だし、みんなそれを承知の上で今回の大会に参加している。
「公式グッズの方はダメだったので、これくらいは欲しいです」
「お、ソマリさんはダメだったんっすね。私はメッセージカード当てちゃいましたよ~」
「……どんなことが書かれてたんですか?」
「ん~、普通に感謝の言葉と、後は次回があればよろしく的な?」
「へぇ……」
羨ましい……そういう顔をしないでいられただろうか。
実際のところ、私もネクラさんのメッセージカードは持っている。
なぜか愛を囁いているようにも受け取れるカードだったので思ったより高額で競り落とすことになったし、転売屋から買うのは癪だったけど……それだけした価値はあった。
「はぁ~、帰ったら今日の運勢チェックしないとっすねぇ~」
「そうですね……」
汚れないよう何重にも加工して、額縁に入れてあるあのメッセージカードを思い出しながら、私はひそかに唇の端を歪めた。
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やる気が、出ます( *´ `*)




