間話 予想外の一手
ステージ広場にいた女王と探偵――ノアとミアは、たった今目の前で起きた信じがたい出来事を受け入れられず、放心状態となっていた。
この場所が危険だという事は、相手側全員に共有されているはずだ。
そこにのこのこ現れる時点でおかしいと思うべきだったのだが、ハイネスに追われて瞬間移動した後にここへ来てしまったと思ったのだ。
「……なぁノア。どうするよ、この後……」
呆然としていたノアだったが、ミアが乾いた笑いを浮かべながらそう聞いてきたおかげで、なんとか意識を取り戻した。
実際の所、これからどうすればいいかなんて分からないけれど、とりあえずハイネスとケイに状況を知らせる事にした。
ノアは携帯を操作し、全員と会議通話を繋ぎ、今起きた事の説明を簡潔に済ませる。
子供側が敗北したと通知があったので、少なくともこちらが勝たなければ負けとなってしまう。
それだけは避けたいところなのだ。
「なるほどな。状況は分かった。なら俺は、場所を移動しようと思うが、どうだ?」
「……良いと思う。南側を見ていてほしい。そこは今一番手薄なはず。海賊エリアまで行く必要は無い。そこにいる人は諦めて、他の人を狙った方が効率的。もし逃げ込まれたのを確認したら、ノアとミアが行けばいい」
「了解した。では、俺は移動を開始する」
渋い声でそう言ったケイは、そのまま移動を開始したのか通話を抜けた。
狙撃手の性質上、歩くスピードは子供よりも遅い。なので、早めに指示のあった場所へ行くのだろう。
彼は、腕は良いが愛想が悪いとチーム内で有名だ。
唯一それが事実でないと知っているのは、鬼陣営で親交のある私達3人だけなのだが、それは話の本筋とズレるので割愛する。
「なら、私達はどうするべき? 指示を頂戴」
「……あの人の捜索は諦めて、その少女の方を探してほしい。私がその子の立場なら、土産エリアへと戻る。だからそこを重点的に探して。私は今いる北から東に向かう。多分、今の状況で北に戻ってくるほど命知らずな人はいない」
相変わらず自信たっぷりなうちの頭脳だが、普段は欠片も無い自信が、今回はかなり満ち溢れている。それが凄く疑問だ。
それに、なんで瞬間移動したあの子がわざわざ土産エリアに戻るのか。
普通に考えれば、ハイネスも言っていた手薄な場所。それこそ、海賊エリア辺りに逃げ込むのがベストなはずだ。
「……あの人が逃げる場所まで指示しているなら、多分ノアの言う通り、海賊エリアに行くと思う。だけど、報告通りなら作戦の本筋だけ教えて、その前後の行動は相手に一任していると考えられる。なら、さっきまでいた場所にわざわざ帰ってこないと考えるはず」
「なるほど。最初の方に土産エリアへと行った俺達が、わざわざ来ないと考えるということか。それに、一度探した場所を再度探すとも考えにくい。そう言うことか?」
「そう。必ずそこにいるはず。その後はケイから報告があるまで適当な場所を探しておいてほしい」
『了解!』
先ほどここら辺を探せと言われた時より覇気のある声でそう言われ、思わず大きな声で返事をしてしまう。
電話越しにハイネスの怯えたような声が聞こえてごめんと謝ると、そのまま何も言わず通話を切られてしまった。
そんな態度に苦笑しながら、2人は指示された通り土産エリアへと帰っていく。
これは推測でしかないけれど、ハイネスは本気でこの試合に勝とうとしている。
もちろん私達もそうだけれど、彼女は大会の決勝戦でもここまでやる気に満ち溢れてはいない。
多分、初めてネクラと対戦するので、いつもより気合が入っているのだろう。
(それは私達も同じはずなんだけどなぁ……)
もちろんネクラとランクマッチで当たった事はあるけれど、その姿を見ることなく負け、本当に戦っていたかどうかさえ分からなかったのだ。
そんな人と、つい数分前ここで対峙し、自分の弱さや油断を気付かせてくれただけでなく、彼が凄いと言われる所以をまざまざと見せつけられた。
「凄かったわね……」
「……ああ。ありゃ、通話無しで勝てる相手じゃないな」
「通話ありでも、あんなの勝てる相手じゃない気がするわよ……」
「今まであの人が捕まったところなんて見たこと無いからな。仲間の棄権で負けたところしか見たこと無い」
ミアの言う通り、本人はSNSで大会での勝率は高く無いと言っているが、そうではないのだ。
彼が大会で勝てないのは、チームメンバーが棄権する場合が多いせいだ。
SNSで適当に募集しているのだから当然なのだが、少なくとも子供側では大会でも負けていないのだ。
私達が何度も優勝出来ているのは、時間に余裕のあるメンバーが大半で、棄権をすれば次の大会には出ることが出来ないと決まりがあるからだ。
恐らく、あの人が本気で結果を残そうとメンバーを厳選すれば、誰も勝てないチームが完成すると、私は思っている。
そんなことにはならないよう祈るしか、私に出来る事は無いけど……。
ネクラの凄さは、その早すぎる判断力とその正確性、そしてその行動力だ。
常人の何倍もの速さで決断をし、その決断がほとんどその状況の最適解なのだ。
行動力とは、さっき自分達がやられたような事をやってのける技だ。ハッキリ言って、考え方が怖く、やることがえげつない。
「ほんと、何食ったらあんな考え方出来るようになるんだかな……」
「この前、家族のプリンを勝手に食べて怒られたとか言ってたわよ?」
「なんだそりゃ……」
「その補完をフォロワーに頼ったら、想像以上に届いて困惑してたわね……」
「なんだよその微笑ましいエピソード……」
ネクラが人気の理由の一つに、現実の彼がゲームとは違いすぎるというのも含まれている。
ゲーム中は頼りになる存在だが、現実に戻ると少し抜けた高校生にしか見えないのだ。そりゃ、ファンも増える。
まぁ実際、20代くらいの優秀な人なんだろうけどさ……。
そんな会話をしながら歩いていると、ちょうど土産エリアに到着する。
休憩の時間は終わりだ。
これからは、ハイネスに言われた通り、さっき瞬間移動した少女を探す時間だ。
気持ちを切り替えて、自分達の勝利の道を模索するのだ。
土産エリアへと戻って来た女王と探偵が、カナというパジャマ姿の幼女を確保するのは、それから3分後だった……。
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やる気が、出ます( *´ `*)




