第145話 ネクラ杯 決勝
ネクラ杯決勝の舞台に残っていたのは、前回のネクラ杯を制した『ネクラさん攻略同盟♡』の面々と『Moon light』というチームだった。
偶然にも両者共に女性のみで構成されたチームで、これまた偶然にも、両者賞金の方を選ぶなんて選択肢を持ち合わせていない者達……つまり、ネクラの大ファンだった。
ここまで勝ち進んだ以上、ネクラ達が敗れた日本2位の実力派チームを突破してきたという事なのだが、その事に関しては勝ちを収めた『Moon light』の面々が一番驚いていた。
前回大会優勝チームはその愛と執念、それと前回と同じようにトーナメントの運で勝ち上がったような実力のあるチームなのだが、Moon lightの方は色々な事情があってそこまで今回の大会で結果を残せると思っていたわけではない。
なにせ彼女達も、ネクラと同じようにアバターの試験運用的な意味合いでこの大会に参加していたのだから。
――ソマリ視点
ネクラ杯決勝第2試合。私達は1回負けたうえでの2回戦という事で少しだけ焦っていた。
というのも、相手の策に関して有効的な打開策を見いだせずにいたからだ。
「ネクラさん……あなたなら、どうするんですか?」
遊園地の海賊エリアにある大きな海賊船の甲板から空を見上げたソマリは、ボソッとそう呟く。
Moon lightがとってきた作戦と言うのは、全員が逃げる設定にしたうえで、捕まると思ったその瞬間に貫通の能力を使って無理やりその追跡から逃れようとするものだった。
貫通の能力は、普通は通り抜けられない壁なんかを通り抜ける事が出来るようになる能力なので、建物の周囲で追いかけ始めた場合、貫通の能力を使われて一方的に建物内に入られて見失うという事態が頻発していたのだ。
ならこちらも貫通の能力を設定すれば良いだけじゃないかと思うかもしれないが、事はそう単純な物じゃない。
彼女らの凄いところは、ちゃんと相手の貫通をケアしたような動きも時折みられるという事だった。
例えば建物沿いを走っていて、貫通を使うそぶりを相手が見せるとする。すると鬼側としては、それを先読みして貫通を早めに使って見失う可能性を少しでも下げようとする。そこまで読んで、あえて子供側は能力を使わない……という選択ができるのだ。
実際、それをやられて撒かれてしまったのが私という訳だけど……。
「貫通を使った直後は2秒くらい足が速くなる仕様があるとか言われたらさぁ……」
ソマリも、もちろんネクラの解説動画第2弾にはしっかりと目を通していた。
そこでネクラは、貫通の能力についても詳細に語っていたのだ。その、有効な使い方――今やられている方法と共に。
つまり、相手が貫通を使ったからこっちも貫通を使おう……なんて吞気なことを考えていると、トッププレイヤーは捕まえられないという事だ。
トッププレイヤーが至近距離とはいえ2秒も鬼の視界から外れる事があれば、まず間違いなく忽然と姿を消す。それが、このゲームのトッププレイヤーと呼ばれる化け物達だ。
それに、全員が無敵を設定している場合と違って、今回の相手の作戦には終わりがない。
無敵はその性質上同じ人2回を捕まえれば良いだけなので、相手がネクラでもない限りは実はそこまで脅威にはならない。
ただし、貫通の能力は無敵と違ってゲーム中に2度使う事が出来るので、実質無敵の上位互換と言って良かった。
まぁ、近くに壁が無いといけないので特定の条件下では……という一文が付くけども。
「ん……? くりーむさんだ」
そんなことを考えていると、絶叫エリアを捜索中のくりーむさんから電話がかかってくる。
とりあえずネガティブになりつつある思考をシャットアウトして、いつもの冷静な指揮官に戻る。
「どうかしましたか?」
「んにゃ、どうにもならん! あいつらまじで建物付近にしかいねぇ! マジムカつく!」
「まぁ……ですよねって感じです」
理論上、建物内に入った子供は能力を使用しているので簡単に捕まえられるはずだ。
しかしそれも、建物内の構図がそこまで難しくなかったり、相手がトッププレイヤー集団でなければの話だ。
チェイス能力はもちろんの事、鬼からその身を隠す隠密の能力もバカにならないのではやってられない。
そもそもこの策の弱点である建物の壁が近くにないといけないという部分に関しても、適当な建物の傍にずっといれば良いだけなので、補完するのは実はそこまで難しくなかったりする。
「なんか策ないんっすか? このままじゃ何もできずに負けちまうっすよ!」
「考えてます。でも私、あの人みたいに瞬時に良い作戦とか思いつけないので……」
こういう時、ネクラさんの適応力と言うか、対応能力の凄さを再確認させられる。
あの人はこんな絶望的な状況でも数秒で打開策を思いつくし、むしろここから勝ってしまうような人だ。それも、楽しくて仕方がないというような満面の笑みを浮かべて。
「そりゃそうだけど! なんか、なんかないの!?」
縋るようなくりーむさんに、私は何も答える事が出来ない。
あの人なら……ネクラさんなら、ハイネスさんなら、どうやってこの状況を打開しようとするのか。その一端でも良いから掴みたい。
あの天才達の思考を全てトレースする事なんて不可能だけど、その一端だけでも掴む事が出来れば……
「っ! くりーむさん、残り時間って後何分ですか!?」
「え? あぁ~、確か45分くらい?」
「時間が足りない……。なら、今回は大人しく勝ちを諦めて降参しましょう。子供側が勝ってくれることを祈って!」
「……打開策、思いついたんっすね!?」
「あの人が居れば微妙な顔されそうですけどね」
苦笑を浮かべた私は、そのまま他の仲間にも連絡を取って降参を選択した。
その陣営の全員が降参を選択した場合、このゲームは自動的に相手陣営の勝利となる。大会モードでは片方が勝利したという結果になるだけなので、この状態から子供側が負けなければ問題は無い。
そして、こちらが早めに降参を選択することで子供の方に負けてはいけないというプレッシャーを担ってもらうと共に、こちらに打開策があるという事を伝えるのだ。
サリアは鈍感なので気付かないかもしれないが、子供側の指揮官であるサムリアという黒い狐のお面をかぶったあの人なら、絶対に気付いてくれるだろう。
そしてそのソマリの意図はしっかりとサムリアに伝わり、彼女は奥の手である「ネクラ作戦」を決行して苦し紛れではあるが1勝をもぎ取った。
ちなみに、子供側で生き残ったのはサムリアとサリアの2名だけだった。
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やる気が、出ます( *´ `*)




