表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/322

幕間 軍師の懸念

「おかしい……」


 私がそう思ったのは、普段は静かなことが多い(最近はずっと賑やかだけど)ファンクラブのネクラさんに関する話題専用の掲示板が妙に賑わっていたからだ。


 運営者さん(マイさん)がファンクラブ内でネクラさん公式グッズの梱包をしてくれる人を昨日の深夜に募集して数時間後の事だ。


 最近はネクラさんがアバターを変えて小さな子供みたいになった件や顔バレの件があってずっと話しているような状態だった。だけど、今はそこまでとは言えずに親しい人同士がネクラさんについてあれこれ話しているだけだ。

 それでも、会話に参加しているメンバーは20人とちょっといる。凄い時は数百人が一斉に話すのでもうまともに会話することの方が難しくなるんだけども……。


 いや、話を戻してなんで私がこの現象をおかしいと思っているのかだ。


 普通に考えれば、ネクラさんの件があったからアクティブに話している人がいる事自体に不審な点は無いし、何らおかしな事は無い。私もそこに関して色々言うつもりはない。

 ただ問題は、話しているメンバーにある。


「佐々並さんとアスカさん、ほとんど出没してこなかったよね……? なんで急に?」


 昔からいる佐々並さんとアスカさん。この2人はだいぶ前に雑談の掲示板の方で話していたところを見たことがあるけれど、会話の内容を見た感じだと主に以下の内容が予想出来る。


1、仕事が忙しくてオタ活が出来ない。

2、仮に出来たとしても、仕事柄その趣味を隠さないといけないのが辛い。

3、ランクマッチで1度だけネクラさんのマッチしたけど、その時運良く守ってもらえた


 いや、最後のやつはこのファンクラブ内にも何人かいるし、私もその1人だ。というか、あの人のランクマッチでのスタイルは、ゲーム開始後最初に見つけた仲間を最後まで自分の傍に置いて守り切るというものだ。

 その人がどれだけ下手だろうが、どんな能力を持っていようとも関係なしに、ありえないくらい早い判断とその正確さで危なげなく勝利を収めていく。


 どうなってるんだと鬼目線で嘆きたくなるけど、問題はそこではなく上の2つだ。


 仕事が忙しくて満足にオタ活が出来ないというのは学生の私には理解しがたいけれど、ファンクラブ内にはやっぱりちょくちょくそんな人がいる。普段仕事が忙しくて、休日はゆっくり休まないと死ぬからオタ活をまともにできないと。

 ただ、この2人はそのオタ活が出来たとしても、仕事柄それを隠さないといけないという発言もしていた。


 ここで問題なのは、普通の一般人が仕事柄で自分の趣味を隠さないといけないような状態になるだろうかという事だ。

 会社員や看護師、その他の職種でも、自分の趣味を隠さなければいけないという程ではないし、隠すって誰に?という疑問が浮かぶ。


 そう考えると、2人は一般人という括りから少し外れた存在。つまり、芸能人の類である可能性が極めて高くなる。

 では次に、2人がどんな種類の芸能人なのかを考察するに至っては、隠さなければいけないというのがポイントになる。


 お笑い芸人やカップルチャンネルをやっているような配信者でもネクラさんを応援している人は珍しくないし、むしろ応援まではいかなくとも名前を出せば「ああの人ね。何か凄い人らしいね」くらいの言葉は出てくる。

 なので、推しているのを隠す必要はない。いや、隠れオタクみたいな人は一定数いるのでその可能性も否定できないんだけど、オフ会や打ち上げに数回参加している事からそれは無いだろう。


 では、残った芸能人(職種)はなんなのか。

 それは、ガチ恋営業をしているような配信者やアイドル、女優さんなんかだろう。

 あの人達は視聴者やお客さんに夢を売る仕事なので、誰かを推している(好き)というのは隠さなければいけない種類の人達だ。

 実際、それらの職種についている人で誰かを推していると言っている人はかなり少ない。


「なんでそんな人が平日の真昼間にここに浮上してきてるんだろ……」


 不登校が治ったとはいえ、昨日は夜遅くまで起きていたので学校は休んでいた。だが、アイドルや女優さんは忙しい時間帯だろう。

 実際、この人達が平日の真昼間から会話に参加したことは未だ無かった。


 普通の人なら休みでも取ってるんでしょで終わるだろうけど、私はそこはかとない嫌な予感を覚えた。なぜか。それは本能としか言いようがない。


(確か、この人達もガチ恋勢だったよね……。あ、コロさんもいる。このメンバーは確か......)


 コロさんはイラストレーターさんで、主にネクラさんの絵を投稿してその素晴らしいクオリティで一躍有名になった人だ。かくいうこの人も、平日の真昼間からこんな場所に顔を出したことは無かった。

 これは、不登校ゆえの情報を持っている私が異常なだけなんだけど……なんだか嫌な予感がする。


 私自身もこの嫌な予感というのがなんなのかは分からないけれど、ここで動かないと何かヤバい気がすると本能が全力で警鐘を鳴らしている。

 こういう時の私の本能は半分くらいの確率で当たるので、まずは本能が何を求めているのかを理解するために頭を働かせる。


「私が一番警戒しないといけないのは? ……ネクラさんが他の人に惚れる事。でも、これは無い」


 振られたとはいえ、告白している私をそんな簡単に無下に出来る人ではないので、そこは心配しなくて大丈夫だ。

 ライにも諦めないと伝えているので、それはネクラさんにも伝わっているだろう。

 あれは、こっちが諦めていないと示唆すると共に、来るかもしれない新しい恋を妨害する目的もあった。


「なら次は……新しい敵との接触」


 この間の紅葉狩りの旅行が良い例だけど、あの時は敵が一気に増えた。いや、敵というよりライバルだけど……。


 一番ヤバいのはおまるさんとミミミさんだ。あの人達は元々そんなに熱狂的なファンではなかったけれど、アバターが変わった頃から様子が変わり、旅行でその想いが決定的になってしまった感じがする。

 まぁ、ミミミさんはもっと別の理由でネクラさんを見ていそうだけど、それはいい。


 で、これ以上私の敵が増えるのは出来れば避けたい。

 そして、ネクラさんと誰かが新しい恋に発展することがない現状を考えると、これが一番警戒しないといけない事と言える。


 仮にネクラさんとこの人達が接触するとして、それを止める事は多分無理だ。なにせ、私1人の力は限界があるし、会うことになるのであれば、それはネクラさん自身の意思なので、下手に止めるとあの人自身を否定しかねない。

 ただでさえ最近色々言ってしまっているので、あまり追い詰めるのはよくないだろう。


「……確か、毎回グッズが販売されると打ち上げするよね。そこに、ネクラさんが来る?」


 いや、あの見知りな人が自分から行こうとは思わないはずだ。行くとすれば、誰かから誘われ……ても行かないだろうから「来てほしい」とお願いされたという事になる。

 そして、誰に?という疑問は「マイさん」以外の答えが無い。


 仮に今ここで話している人達がコンタクトを取っても、ネクラさんはやんわり断るはずだ。なにせ、その手の誘いは日々来ているだろうから。


(いや、グッズの件でお礼がしたいって思ってたら行くかもなぁ……。あの人、そういうところは律儀だし……)


 紅葉狩りに勝手についてきたファンの人にサービスタイムを設けた事から分かるように、あの人は自分のファンを凄く大切にしている……というより、何かされたら何かしないとダメだと考えている節がある。

 人間的にそれは素晴らしいことだとも思うけれど、事これに至っては少し問題だ。


「知らない人と話すのは苦手なんだけどな……」


 でも、打ち上げにネクラさんが来るというのであれば、普段こんな時間に顔を見せない3人が話している理由にも説明がつく。

 打ち上げにネクラさんが来るなら、疲れ切った顔なんて見せたくないだろう。可愛い、綺麗だと思ってもらうために、無理にでも数日前から休みを入れるはずだ。


 私が最初にライと現実で会った時、ネクラさんと会える可能性があるとバイトを数日休みにしたのと同様に、彼女達も同じことをしたのではないのか。


(……いや、それは飛躍しすぎ。いくら何でもこじつけがすぎる)


 これだけしか状況証拠がないのに、ここまで推理するのは無理があるというものだ。可能性があると言うだけでそうだと決めつけるのは危険だ。


 改めて考えると、ネクラさんの新しいアバターの人気が凄いので新しいグッズを作るとマイさんが発言していたので、その件を早く決めたくて打ち上げに参加するといったところだろうか。


 普段テレビの中やお客さんの前で笑顔を振りまいているような人達なので、疲れている顔を見せないために前日やその前から休みを入れていてもおかしくはない。

 ただ――


「『常に最悪を考えて行動する……。自分がされて嫌な行動と、それによって伴うこちら側のデメリットを天秤にかけたうえで、それでも最悪なことを回避したい場合は行動した方が賢明』ですよね。ネクラさんに新しい敵が増える事態は絶対に避けたい」


 この件が外れていれば、私が苦手な「知らない人達とご飯を食べる」という状況になるが、当たっていた場合は洒落にならない事態に発展する可能性まである。それは看過できないので、1%でも可能性があるなら参加するべきだ。たとえ、どんな犠牲を払うことになったとしても……。


 マイさんに打ち上げに参加するというメッセージを送ったのはその数分後だ。

投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>

やる気が、出ます( *´ `*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ