第137話 反省会
第2回ネクラ杯の敗退が決まったその夜、チームメンバー全員にハイネスさんから招集がかかった。
要件は反省会をしましょうとの事だったが、こんなにもばっくれたいと思った召集は無い。なぜって? 解説動画をアップしてから初めての反省会だからだ。もう賭けても良いけど、絶対なにか言われる。
そんなことを思いつつ大人しく招集に応じた僕は、反省会が始まって数分は心穏やかに過ごせていた。
今回の主役……と言ったら変かもしれないけど、主役は作戦考案者のミルクさんとうちの頭脳であるハイネスさんだ。
僕が言いたいことは全てハイネスさんが事細かに、それも分かりやすく要点を話してくれるので出番がほとんどない。
まぁ、所々でフォローしたり説明を補足したりはするけども。
「で、結論としては穴がありすぎたって事ですね。ライから聞いたんですが、攻撃を避け続けるとシステム的なアシストが入って永遠にそれが出来ないという可能性もあるそうです。真偽のほどは不明ですけど、事実なら運営がそうなることを危惧しているという事ですね」
「す、すみません……」
「いえいえ、発想自体は面白かったですよ。じゃなきゃ、ネクラさんに主催で大会を開いてもらおうなんて思いませんから。ただ今回みたく、何か面白そうな設定を見つけられたら皆さんで共有しましょう。慢心が一番よくありませんので」
真面目な顔のハイネスさんに全員が首を縦に振り、次の話題にシフトする。
いや、反省会という名目なのであればここで会議が終了してもおかしくないんだけど、そうならない時点で今回の反省会がついでだったことが分かる。
「で、問題はですよ。ネクラさん?」
「……な、なんでしょう?」
「なんでしょうじゃないですよね? 分かってます?」
「……解説動画ですか」
「はい!」
満面の笑みで頷くハイネスさんがこんなにも怖いと思ったのは何度目だろうか。
ていうか、なんで僕が悪い事をしたみたいな空気になっているんだろうか。
「私が聞きたいのはそこじゃなくて、なんで鬼でプレイされたこともないのにあんな変な事ばっかり知ってるんですか? という事です」
「へ、変な事ですか?」
「なんですかあの能力の使い方! 瞬間移動後の数秒はお互い姿が見えないのは前もって知ってたから良いとしても、飛翔なり透視なりのあんな使い方聞いたことないんですけど!」
「こ、子供側でこれ出来るかなぁって試してたら偶然発見しただけですよ……。実戦で使った事もありますけど、結構有用――」
「そういうこと言ってんじゃないんです!」
あの、なんで僕今怒られてるのか分かる人います? 解説動画出しただけですよ?
この世界は理不尽で塗れてるって事は知ってるけど、こんなに酷いの? 泣くよ? たんぽぽの綿毛レベルのメンタル舐めないでもらっていい?
「ちょっと待ってハイネス。それもそうだけど、なんで今回もお兄ちゃんは捕まってないの? そっちの方がおかしいと思うんだけど」
「あ、それは私も思いました! 捕まってからずっとネクラさんの行動見てたんですけど、何してんだろうってずっと思ってたんですよ! そしたらいつの間にかゲーム終了してて!」
「同意です。なんで捕まらなかったんですか?」
ライに続いておまるさんとミラルさんがそれに続く。
今回、僕らは相手の対応が早すぎて早々に敗北してしまった訳だけど、毎度のことながら僕は捕まらなかった。それはなんでかと聞いてきているのだろう。
でも、そのカラクリは単純な物だし、むしろ誰でも真似出来るものだ。
ただ、これには多数の犠牲があって初めて出来る事なので、出来たとしても1人や2人を逃がすのが精いっぱいだ。つまり、全員でこの策を取ることはできない。
「前にもそんなことあったよね。相手が索敵持ってて、お兄ちゃんだけ生き延びたってやつ。なんで?」
「……試合中、何度か皆さんの居場所を送ってもらったの覚えてます? 20分置きに1度くらいのペースで」
春香の視線の圧に負けて渋々そのカラクリを話すことにする。別に隠してる訳じゃないけどさ……。
そして、僕のその問いに何人かがコクリと頷く。
「それで皆さんが今いる位置を頭の中に入れて、確保情報が来たらどこに鬼が居るのか分かるじゃないですか。あの時私は瞬間移動を持ってたので、鬼がいる方向とは反対の方向に瞬間移動するなり徒歩で移動するなりしてたんですよ。マップの隅に追いやられると面倒なので極力瞬間移動は温存しつつ、相手の鬼の位置を皆さんの確保情報から予測しただけです」
「じゃあつまり、私達の位置をマップと照らし合わせて、そこから鬼の居場所を特定しつつ、自分はその反対方向に逃げていたって事ですか?」
「そうです。ただ、これは皆さんの犠牲があってこそ出来る事なので……。それに、移動した先に鬼がいる可能性もあるのでそこまで確実性の高い作戦でもないんですよ。僕の場合はこっちに行ったらなんかヤバいとか、そういう直感でどうにか回避してるのでなんとかなってるだけで」
「幽霊病院でしたよね? 3階建てですよ? 数あるマップの中で、天空城に続いて構造複雑なマップですよ?」
「? そうですね?」
「……はぁ。いえ、結構です」
シラヌイさんがため息をつきながら肩を竦める。心なしかチームメンバーが僕を見る目が怖いような気がするけど、何か変なことを言っただろうか。
直感に関しては野生の勘と同じように知らない間に鍛え上げられたものだし、犠牲の上に成り立っているような作戦なので自分が生き残りたいがためにしているような作戦だ。
自分以外にもう1人逃げ切らないといけないこのゲームの性質上、そこまで有用な作戦ではない。
さらに、僕の隣にもう1人いた場合でもこの作戦はダメになる。
その理由は、この作戦の性質上、鬼の目には一回も触れることなく場所を移動し続けないといけないので、終盤になればなるほど「あれ、なんか2人か3人どこにもいなくね?」みたいになって、こっちの作戦が露見するからだ。
この作戦は相手の位置情報が分かっている前提での作戦なので、逆に言えば位置情報をこちらに勘違いさせることが出来れば容易く攻略出来る。
僕は今まで積み上げてきた実績とか世間的なイメージがあるので、姿が見えなくても「また何かやってんな。まぁネクラだし」くらいに思われるはずだ。
だけど、そこにもう1人加わると作戦の成功率が著しく下がってしまうのだ。
「シラヌイが言ってんのはそういう事じゃないの。幽霊病院っていうマップ構造が複雑な場所で、なんでそんな正確に居場所の特定や暗記が出来るのかって事を言ってんの」
「あ~そういう事?」
「そうですよ! ていうか、15人近い人の居場所を数分で暗記するとか意味分かんないんですけど!」
「えぇ……。でも、競技百人一首とかでも似たようなことするじゃないですか。あれ、何回かやったことありますけどめっちゃ難し――」
「だからそうじゃないんだって!」
春香にピシャリとそう言われ、僕はこれ以上何か反論しても怒られるだけだと悟って肩を落とす。
僕的には百人一首覚える方が何倍も難しかったし、興味のない勉強の暗記をしている時の方が面倒だと感じる。
高校レベルの歴史とか物理は暗記がメインだから余計きついし……。
「はぁ……。あ、そういえばハイネス、それと皆も。ちょっと考えてみてくれる? 『味方なのに、敵だと思われている虫』これってなんだと思う?」
「? 謎解きかなにか?」
「まぁ良いから。分かる?」
どっかで聞いたことがある気がするけど、多分僕は答えちゃいけないやつなんだろう。
人の気持ちが分からない僕からしても、これくらいの事は分かるし、春香のこの質問の意味も大体察しがついている。ほんと、どれだけ性格が悪いのか。
「ん~、私はパス!」
「しーちゃんも? 私もわかんない~」
「私も分かんない。みっちゃん分かる?」
「私は……まぁこれだろうなってのは……」
メンバーの半分以上がそうやって頭を悩ませている中、やはりと言うべきなのか、一番最初に分かったと言い出したのはハイネスさんだった。
ライに耳打ちをして正解の答えを貰うと嬉しそうに跳ねるその姿は可愛いと思うけど、この質問の真意を知っている僕からしてみれば心穏やかには見れない。なにせ、ハイネスさんでも2分はかかったのだ。
「あ、なるほどですね。私も分かりましたよ~」
「……そういうことですか。ああ、面白いですね」
次に分かったと言ったのは、これもやはりと言うべきなのかおまるさんとミミミさんだ。
この2人の後にサカキさんとジョーカーさんが続いて、そこでストップがかかった。
「はい、とりあえずここまでにしましょう。答えは蜘蛛です。その理由は、英語に直すとスパイダーとなって、読み換えると『スパイだ』になるからですね」
『あぁ~』
「で、なんでこんなことを言ったのかなんですけど。お兄ちゃんに同じ問題を出してみたところ、10秒もしないで答えが返ってきました。皆さんどう思います?」
『意味分かんない!』
翌日、僕は猫部屋でずっと手毬に愚痴を吐き続けていた。
いや、もうこれは仕方ないと思うんだ? 我が家のアイドルは僕のそんな気持ちを悟ってか、それとも僕の手にあるチュールに釣られてか、いつもより甘えてくる。
「にゃ~」
手毬の慰めるようなそんな声が、僕の心の傷をじんわりと癒していく。
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やる気が、出ます( *´ `*)




