第136話 策の効果
異変は試合開始20分で現れた。確保情報が次々に舞い込んできたのだ。
この瞬間、晴也はこの策が日本トップレベルのプレイヤーには通じないことを悟った。
マイさんやハイネスさん相手に試すという案もあったけれど、相手が悪すぎる(マイさんが強すぎるだけ)ので、今回大会を開いたわけだけど……。
「ねぇ、どういう事? こんなにどんどこどんどこ捕まるっておかしくない?」
隣にいる春香もさすがにその異変には気付いたようで、なぜかビクビクしながら聞いてくる。
大体予想はつくけど、まだ確証を持っているわけではないんだよね僕も……。
「それでもいいから話して」
「……2人がかりで攻撃されるとか、相手の順応が早すぎるとか、単純にシステム的なアシストがあっても攻撃回避は容易じゃないか、のどれかじゃない?」
「……最初のしか分からないんですけど」
この策の攻略法はぱっと思いつく限り今上げた3つだ。
攻撃を避ける前提でアバターを設定しているので、2人や3人から同時に攻撃されると、当然避けきれずに捕まってしまう。
このゲームの本来の仕様通りに逃げていれば、挟み撃ちされることはあっても、同時に攻撃されるなんて事態にはそうそう陥らない。
だけど、僕らは今回逃げる事を端から諦めているようなものなので、そういった、普段起こりえない事態が起きる可能性はある。
次に、相手の順応が早すぎるっていうのは……
「単純に、相手のフェイントとかが上手すぎるってのが考えられるよね。攻撃避けるって言ってるんだから、フェイントが上手かったらそりゃ捕まるよ」
「そういうことね。確かに、フェイント交えて攻撃してくる人たまにいるからね」
「そういう人に限って結構うまいし、フェイントの癖見破らないと速攻捕まるからね」
「お兄ちゃん捕まったことほとんどないでしょ」
いやそうなんですけども……。
でも、マイさんとかも僕の講習を経てフェイントの攻撃とかを交えるようになっている。
あの人のプレイセンスはちょっと意味が分からない域に達しているので、僕でもたまに捕まったりする。
「じゃあ最後のは? お兄ちゃん、当初は避けるの楽そうだって言ってたじゃん。間違ってたって事?」
「そうじゃなくて……多分、システム的な上限があるんだと思う。ほら、何回も攻撃避けてると急に相手の攻撃が早くなる時ない?」
「……そう言われたら、あるけど」
怪訝そうな顔をして「それがどうした」と言わんばかりの春香にどう説明したら良いのか迷う。
これは、僕がAI相手にずっと攻撃を避ける練習をしていた数年前に偶然気付いたことだし、実践では相手が僕の姿を見つけた瞬間諦めるので、最近は記憶の隅に追いやられていた記憶だ。
「このゲームは鬼からの攻撃を避け続けるとこっちの動きが鈍くなる……もしくは、相手の攻撃が早くなるっていうペナルティが付く可能性があるんだよ。僕が前に試した時は30回くらい避け続けて最初の違和感が来て、その後は10回ごとにそれが増したと思う」
「そんなに連続で攻撃避けれる人いるわけないでしょ。出来ても15回じゃないの?」
「僕がまだ追いかけられてた時はそういう時もあったよ。あくまで仮説だし、実践で試した時も大体は相手の方が先に折れるから確実性はないんだけど」
「そりゃ、そんなに避け続けられたら萎えるでしょ」
でも、この説がもし本当だとすれば、こっちの面々がどれだけ攻撃を避けるのが上手かろうが、そのシステムアシストのせいでいつかは捕まってしまう。
まぁ、その仮説は多分間違ってるだろうけど。
「なんで?」
「だって、僕らは仮にも隠れる編成をベースにしてて、今の鬼のトレンドは加速が2で索敵1の、他は自由枠でしょ? システムのアシストがあるのは多分そうなんだろうけど、それならもう少し捕まり始めるのが遅いはずなんだよね」
考えてもみてほしい。
もしシステム的なアシストで捕まるとしても、それには相手の攻撃を40回程避け続けなければならない。
鬼の基本的な運動性能はアバターの場合設定でかなり左右されるけど、攻撃硬直は一番早くても2秒ほどある。
攻撃を振る時間が1秒だとしても、その間に読み合いやらの駆け引きがあるので、実際一回の攻撃に10秒以上かけているのではないだろうか。
そうだとすれば、見つけてから捕まえるまでが早すぎる。相手に索敵の能力を持った人が複数いるならまだしも、今のトレンドでそれは考えにくい。
「分かんないじゃん。相手がこっちの編成に当たりつけてそういう風に編成組んだのかもよ?」
「僕、ついこの前出した解説動画で『子供を探すためにキョロキョロするのは時間の無駄。そんなことするくらいなら子供じゃなくて仲間の鬼か、他の子供を探しに行け』って話してるんだよ? 向こうもその動画は見てるだろうし、それで索敵重視の編成なんか組んでこないと思う」
「そう言われたら、確かに……」
だから、索敵の方は持ち前のプレイヤースキルで何とかして、上手い事フェイントなんかで子供を捕まえているような気がする。
そうなると、単純に読み合いが強いかどうかの話になるので避けるのに特化させる必要が無くなってしまう。そんな無駄なことをするなら、視力や聴力を上げて自分が捕まるとしても仲間に情報を与えられるようにした方が有用だろう。
もちろん対策しようと思えば対策できるけれど、無敵や瞬間移動なんかの緊急回避用に設定している能力を幻影で固定されてしまうことになる。
要は、透明になった自分の隣に分身を作って、その分身を永遠と攻撃させ続けるという陰険な手法だ。
ただ、見破られるとすぐに捕まってしまうので、あくまで攻撃を避けるふりはし続けるという何ともハードな戦法だ。
「そんなことしたい? 多分、相手終始キレてると思うけど……」
そんなストレスしかたまらないようなゲーム、僕なら数日やらなくなるね。下手すると引退します。
「絶対ヤダ。ていうか、そういうことを瞬時に思いつくから怖いとか化け物とか色々言われるの、分かってる?」
「……だって、対策しようとしたらパッと思いつくのそんなのしかないんだもん」
「はぁ……。ねぇ、世界大会優勝目指してるのに、自分が主催した大会の1回戦で負けるってどう思う?」
「別に何とも」
というより、それの何が悪いのだろうか。
途中経過でいくら失敗しようとも、結局は本番で結果を残せばいいだけなのだ。
授業や問題集でどれだけ答えを間違えようとも、テストで正解を導き出せれば勝ちなように、試合も最後に勝てば良いのであって、途中経過なんてどうでも良い。大事なのは結果だ。
「あっそ……。じゃあどうするの? 降参でもする?」
「しないよ。試練で謎解きが出たら解きたいし」
「……味方なのに、敵だと思われている虫は?」
「……なに急に」
「謎解きしたいんでしょ。ほら、どうぞ?」
「……クモ。理由は、英語」
そういった瞬間、春香ははぁと深い溜息をついて瞬間移動を使ってどこかに消えてしまった。
その直後、携帯にメールが届く。
「なんかイラつくから離れてあげた。欲しいものリスト送っとくから適当になんか買ってね」
こんなにも理不尽な要求が未だかつてあっただろうか。いや、ないね。
ていうか、春香の欲しいものリストって、高校生のそれじゃないんだよね。最低額が5万円って、どこのセレブだよと言いたくなるもん。ほとんどブランド物のバックだし。
はぁ……この試合で負ける云々より、春香の仕打ちの方がよっぽど憂鬱なんですけどね。
そして20分後、晴也を残して全滅した子供の面々は、第1回ネクラ杯で敗北した時のようにハイネスが状況を察したことで1回戦敗退が決まった。
ミルクが終始申し訳なさそうにしていたが、晴也はそんな事よりもライの突き刺さすような視線とミラルの責めるような視線にずっと怯えていた。
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やる気が、出ます( *´ `*)
この章はまだしばらく続きます。




