第12話 報せ
仲間の犠牲のおかげで無事にステージエリアへと逃げ切ることが出来た晴也は、とりあえず物影に隠れて様子を伺う事にした。
相手もバカではないのだ。あれが壁だという事は分かっているはずだ。
ならば、仲間に連絡してこのエリアに鬼が来る可能性がある。
壁だということが分かっていながらもあの4人を撃ったのは、壁ではなく本物である可能性――本当に強制試練を行っている――を捨てきれなかったからだろう。
壁であったとしても、4人を捕え、その後に仲間に連絡を取れば良いだけなのだ。
狙撃手目線からすれば、例え晴也を見つけていたとしても、あの4人を無視出来るはずがないのだ。
そんな事を考えながら、ステージ裏に隠れていた晴也は、予想通り女王と探偵のペアが今いるステージエリアに足を踏み入れるところを目撃した。
マイに教えた時に見たのと変わらない姿の女王と、ブラウンのコートと帽子を被った、如何にも探偵ですと言いたげな優男だ。
やはり、予想は間違いではなかったらしい。
あの4人が強制試練中だったのならば、確保した瞬間にゲームは終わっている。
それに、壁であるならば、守るべき対象とは反対の方向へと走るのが普通だ。
そりゃ、このペアがこちらに来るのは頷ける。
(見つからない事が1番だけど……最悪能力消費か)
とりあえず、仲間全員に女王と探偵の情報を知らせ、相手の行動に注意を払う。
流石に強制試練をしていたプレイヤーの中身までは分かっていないだろう。
普通のプレイヤーならば、即座に他のエリアへと逃げる。
つまり、少しの間動かずじっとしていれば、あの2人はどこかへ行ってくれるという事だ。
バクバクとうるさいくらいになっている心臓に手を当てながら、晴也は心の中で早く去ってくれと祈る。
――鬼視点
強制試練と騒いでいた連中を撃ち抜いたとメンバーから報告を受け、急いで一緒に行動していた仲間とステージエリアに来たのは良い。
だが問題は、ここから先どうするかだ。
「どうしますか? 普通ならここには長く留まらないと思うのですが……」
「同意見。ここに長く留まるなど愚策。8段以上であるならば、そこら辺の判断力はあるはず」
「......でしょうね。仮に無かったとしても、あの人が居るんだから、的確な指示を出すでしょうね」
「そうだろうな」
相変わらずゲーム中だけはクールぶっている仲間に対し、思わず苦笑を漏らす。
普段はオロオロしていて人見知り全快のくせに、ゲーム中だけはこの……クールキャラを貫いている。
まぁ、現ランキング3位の実力者だから何も言わないけどさ……。
2人がステージエリアの捜索をそうそうに諦め次の場所へと向かおうとしていた時、四君子を使っているメンバーからの着信が入った。
この4人の鬼のメンバーは何カ月も前から同じで、ライと共に様々な大会を優勝してきている。
四君子を使い始めたのはここ最近だけど、この人から試合中に電話がきたのは初めての経験だった。
「どうしたの? 何か問題でもあった?」
「……」
「あの……聞こえないんだけど」
「今の、状況を教えて……」
今にも消えてしまいそうなか細い声、そしてどことなく自信なさげなその声を聞くと、いつもこちらが不安になってくる。
携帯で聞こえてくる相手の声を最大にしていてもやっと聞こえる程度の小さな声だ。まぁ、彼女は普段からこんな感じなので、もう慣れてしまったが......。
「今の状況を教えてって言ってるの?」
「……」
「ねぇハイネス? 電話なんだから、そっちで頷いても私達には分からないわよ?」
「……あ、そうだ。ごめん。そう、そう言った……」
この子はハイネス。うちの鬼陣営の頭脳と言って良いプレイヤーだ。
この子が作戦を立て始めてから、鬼側の勝率はかなり安定し始めたのだ。
しかし天然なところがあり、時々今みたいな事を起こすという、なんとも微笑ましい子だ。
天然ではあるけれど、天才にも弱点があると思えば話しかけやすくなるのと同じように、ハイネスはチーム内でマスコットのような役割を担っている。
まぁそんなことはどうでも良く、今までハイネスが言った通りに動いて間違ったことなど1度も無いのだ。
ここは大人しく、向こうが望む事を教えてあげた方が良いだろう。
「知らせを受けてミアと一緒にステージエリアへ移動。普通なら他のエリアへ即避難と考え、今別のエリアに行こうと思っていたとこ」
「……なるほど。じゃあ多分、そこはもう少し探した方が良い」
「それは、なんで?」
「えっと……。ただの壁に4人も使うのは、不自然。多分、強制試練中だったのはネクラさん……。あの人なら、こっちの裏をかいてくる可能性がある」
そのハイネスの言葉を、横で腕を組みながら呑気にライダーショーを見ていたミアにも伝える。
相談した結果、私達2人の意見は同じだった。
「ハイネス。そう思う根拠は? 私もミアも、ネクラさんなら壁なんて必要ないと仲間に指示を出すと思っているのだけど……」
「......確かに、私もそう思う。だけど、広場にケイが居て、土産エリアにミアとノアが居るって情報は共有されているはず。私がミスしちゃって姿を現してから5分もしないで、壁があったとケイから報告が入った。そんな短い期間でステージエリアに逃げると考えられるのは、私の知る限りあの人だけ」
「待って? あなたのいる絶叫エリアが消えるのと、広場を横断しないといけないアニメエリアが消えるのは分かるわよ? でも、恐竜エリアとの2択で、たまたまこっちに来たって可能性は無いの?」
「……無い。普通なら、距離が近い恐竜の方を選ぶはず。試練の内容に指定のエリアへ向かえというのは無い。せいぜい、何キロ先の場所に移動しろって言うものだけ。となると、今後の展開まで見据えてエリアを選定したと考えるべき。時間をかければ誰でも気付く。だけど――」
「短い時間でそこまで考えられるのは彼だけってことね。なるほど。確かにそこまで言われると信憑性があるわね……」
「……私が言いたかったのに……」
少しいじけたような声が電話越しに聞こえ、思わず苦笑してしまう。
こういう可愛いところがあるのも、この子がマスコットとして扱われる要因となっている。
頭は良いのに子供っぽくて天然。これ以上可愛い存在が居るだろうか……。いや、いないね!
「とにかく、分かった。もう少し探してみるね」
「……うん」
電話を切った私は、ハイネスに言われた事をそのままミアへと伝え、双方納得してからエリアのさらなる捜索を始めた。
――晴也視点
(どういう事だ?)
晴也がステージ裏から鬼のペアを眺めていると、明らかにエリアを立ち去ろうとしていた2人は、慎重にステージエリアを調べ始めたのだ。
遠目で見ただけだが、女王の方が電話をしていて、それが終わった直後から捜索を始めたように思える。
普通ならさっさとこのエリアを離れるはずなのに、なんでここを探そうと思ったのか非常に興味がある。
これが誰かの知恵から出たものだとするならば、その人とは1度話してみたいところだ。
なぜそう思ったのか、その考えを詳しく聞いて、今後の参考にしてみたい。
(とはいえ……マズイな)
実際のところ、このエリアにいるのは現状ネクラだけだ。
それは晴也自身も仲間との連絡で分かっている。
広場には相変わらず狙撃手が居て、今自分の目の前には鬼が2人。
実質鬼を3人相手取っている形なので、この状態が長く続けば、味方が楽になるのだが……。
(あの行動の引き金が四君子だとしたら……マズイな)
普通に考えるのであれば、狙撃手が自分を見つけていて、念のため探せと言っていると考えるだろう。
しかし、最悪の場合を考えておくにこした事は無いのだ。
「女王・探偵、共にステージエリアにて捜索を開始」
最悪の場合は能力を使用してこの状況を打破するしかない。
2人のペアに確保されるのは良いとしても、狙撃手に撃たれる訳にいかないので、とりあえず見つかった場合は噴水広場から出来る限り距離を取った方が良いだろう。
まぁ、これは最悪に最悪を重ねった結果だけど……。
晴也がそんなことを考えていると、手元の携帯が小さく震える。
もう次の試練の時間なのか。
そう憂鬱な気分になりながら通知画面を見ると、鬼チームの勝敗が決したとの連絡が来ていた。
(はやくね!? まだ……52分しか経ってねぇけど!?)
そこには、鬼チームが相手チームの子供、23人を確保したとの報告があったのだ。
このゲームは、子供側の勝ちの目が無くなった瞬間強制終了となる。
つまり、大会モードで言うなら、強制試練中の子供が捕まる。
もしくは、子供の残り人数が1人になった場合だ。
それにしても……いくらなんでも早すぎる。
まだ試合の半分しか経過しておらず、試練も1つしか出ていない。
よほど簡単な試練で無ければ、ほとんどの人は最初の試練などスルーする。
その状況で……? しかも、相手が全員初心者ならいざ知らず、大会の優勝候補だぞ……。
「どうなってんですか!? まだ試合半分も終わってないっすよ!?」
「試合の流れがこんなに気になる展開は初めてだわ……」
「残った1人って、絶対ライだろw」
そんな一斉チャットが次々と送信されてくる。
今はほとんどの鬼が晴也の近くにいるので、すっかり安心しているのだろう。
一応「まだ気は抜かないでください」とチャットを送り、晴也自身も気を引き締め直す。
向こうの試合の録画を見るのを楽しみにしながら、目の前のペアをどう対処するか、作戦を練り始めた。
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やる気が、出ます( *´ `*)




