第124話 対戦相手
翌日、メッセージを送った相手から返信があったので、その結果をチームメンバーに伝える。
「結果的に言えば、Victoriaの方は断られてしまいました。ただ――」
「ちょっと! なんで去年の世界大会優勝チームに試合申し込んでんの!?」
「……え、だって、僕戦ったことないから……」
「だってじゃないでしょ……。断られてよかったよほんと……」
僕とライは既に兄妹だとバレているので、そんな軽口が叩けるのだろう。
というより、なんでそんなにビビってるのか。僕は、相手が強ければ燃えるタイプの人なんですけど……。
いや、口では絶対無理だとか言うけども……。
「Victoriaはほんとヤバいんだって! 異次元とかそんなレベルじゃないの! 去年の世界大会の中継見てないの?」
「……世界大会とか興味なかったもん。ランクマッチで負けないようにどうしようかずっと考えてたし」
「はぁ……」
段々と春香の化けの皮がはがれてきているけれど、そこは大丈夫なのだろうか。
いや、僕的には春香がどうなろうともどうでも良いんだけどさ……。
「あの、ネクラさん。そのチームは、なんて言って断ってきたんですか?」
「えっと、確か『私達も彼の有名なネクラと戦ってみたい気持ちはありますが、生憎と世界大会に向けての調整で忙しい。本番で戦うのを楽しみにしてる』って言われましたね」
「へぇ〜。ネクラさん、フランス語行けるんですね」
「まぁ、日常会話程度なら全く問題ないですね。いや、そこはどうでもよくてですね……。結局、対戦相手はアメリカのプロチームってことになりました」
アメリカのそこそこ有名なプロチームに交流戦を申し込んでオッケーをもらえたのは、正直びっくりした。
どっちかと言えば、Victoriaの方からオッケーが出て、スポンサー企業なんかの方針とやらでプロチームからは断られると思っていた。
一応どっちから断られてもいいように、他の候補は見つけていたんだけども……。
「へぇ〜。どこですか?」
「確か『railgun』ですね。かなり昔のアニメにそんな名前のがあったような気がしますけど……」
「あ〜はいはい! あれ、結構好きだったんですよね〜……じゃなくて! railgunっすか!?」
「え……はい」
なんでそんなに驚いているのか。
僕が調べた限りだと、世界大会で目立った活躍はないけど、アメリカの大会ではそこそこの結果を残しているプロチームのはずだ。
ちょうど、ライの前のチームみたいな感じの立ち位置だ。
「いやいや、そのチームあれっすよ? 一昨年のアメリカ王者っすよ!? いきなりそんなところとやるの、ヘビーじゃないっすか?」
「そうですかね? 弱いところとやっても仕方ないかなって思ったので、世界大会でもあたる可能性があるそこそこのチームを選んだつもりなんですけど……」
「ちょっとキリス、うるさい! ネクラさんが決めたんだし別に良いでしょ?」
「……はい。さーせん」
ミミミさんの一言でしゅんとなってしまったキリスさんに苦笑を向けつつ、僕が調べた限りの相手の情報を伝える。
といっても、僕はコミュ障なので上手く伝えられるか自信はないけど……。
「えっと、さっきキリスさんも言っていた通り、相手は一昨年のアメリカ王者です。チームが全員男性って事と、子供側の指揮官が3人いるっていうのが特徴的ですね。各々のプレイヤースキルは、過去の試合をザっと見た感じ、僕達とあんまり変わりません」
「あの、ネクラさん……良いですか?」
「ハイネスさん? どうかしました?」
「前におう……いえ、見せていただいた相手の分析ノート。あれを纏めていただいて、皆さんに見せた方が効率的だと思います。口頭での説明だと、一度で覚えなければならないので」
ミナモンさんをチラッと見ながら言うのは止めた方が良いと思うなぁ……。いや、確かに彼は一度じゃ何も覚えられないだろうけどさ……。
でも、ハイネスさんが覚えれば良いだけな気も……
「いえ、流石に20何人分のデータをいっぺんに話されて、一度に記憶出来る程賢くないので……。お手数かと思いますけど――」
「いや、大丈夫ですよ。そういう事なら、2日程あれば問題なく出来ますし。ていうか、あんな汚い纏め方で参考になるんですか?」
「き、汚い……。いえ、あれで十分です。皆さんも、多分凄く助かると思いますので」
「は、はぁ……」
正直、あんな汚い纏め方をしたノートを人に見せたくはないんだけど、皆がそっちの方が良いならそうする方が良い。
ハイネスさんと春香以外は話が見えてないのかポカーンとしているので、とりあえず補足しておく。
「前にハイネスさんが家に来た時に、僕が個人的に纏めてるプロの人や有力チームの選手データを見せたんです。今話してたのは、そのことです」
「……家? それは、ネクラさんのですか?」
「? はい。ハイネスさんと妹がかなり仲が良いので、前に何度か家に遊びに来てるんですよ。その時に、ちょこっと見せたんです」
「へぇ……」
なんでかミミミさんの僕を見る目とハイネスさんを見る目が急に怖くなった気がするけど、何かやらかしたのだろうか。
いや、別に僕とハイネスさんが直接何かをして遊んだ事は無いし、ハイネスさんは僕に会いに来てたってよりは春香に会いに来てたので問題ないだろう。
「話を戻しますけど、そのノートを作ってほしいと今ハイネスさんに言われたので、2日後くらいには交流戦をする相手のチームの情報を纏めて皆さんにお渡ししますね」
「……24人ですよね? 2日で終わるんですか?」
「はい。頑張れば1日で終わりますけど……」
「いや、そういう事ではなくてですね……」
「?」
ミミミさんに呆れたように首を振られたので、とりあえずそこは流していいと判断して話を締めくくる。
「えっと、じゃあ僕は早速情報を纏めにかかるので、今日はここで解散しましょう。お疲れさまでした」
――ペコリと頭を下げてさっさとログアウトしたネクラを見送った後、その場に残ったミナモン以外の全員が「はぁ」とため息をついた。
「なんであんなハイスペックなのあの人……。24人分のデータなんて、1週間かかっても纏めるの難しいでしょ……」
「まぁ、このメンバー集めた時も、1時間ちょっとでリストアップしてきましたからね……。そういう人だって割り切るべきですよ。本人は汚いとか言ってましたけど、ほんと、意味が分からないくらい詳しく纏められてますよ」
「......ライちゃん、ほんと、ネクラさんの体調だけには気を配ってあげてね?」
「……もちろんです。任せてください」
ネクラの知らないところで、また一段階悪い意味で評価が上がった。
次の更新は金曜日です。
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