第123話 日本予選に向けて
紅葉狩りの旅行が終わって数日後、運営から日本予選に関する情報が発表されたので、それにあらかた目を通してからチームメンバーを招集する。
いつもの部屋にいつも通りの時間に集合したメンバーは、なぜか全員僕を見る目が旅行前と変わっているような気がするけど、多分気のせいなので気にせず話を進める。
「えっと、皆さん、日本予選の日程や詳しいルールが発表されましたけど目は通しましたか?」
『もちろんです!』
約1名頭に?マークを浮かべているけれど、彼はいつもの事なのでスルーして進める。
どうせこの話し合いが終わったとに大急ぎで内容を確認しに行くだろうからね。
「で、予想通りアバターの各種設定は試合毎に変えることが可能になりました。それに伴って、数日後に設定を保存出来るようになるアップデートが来るらしいですね」
「今のところ、私達が考えているのがネクラさんが考えた最初期の編成と、私が考えたそれの対になるような編成。後は、まだ試していませんけど、全員逃げる編成ですね」
「そうですハイネスさん。なので、日本予選が始まるまでのここ一か月の間で、少なくとも後1回は大会にエントリーして、その設定を試したいと思っています」
ついでに、旅行中に思いついて煮詰めている設定も試してみたいので、それも検討する。
「質問良いでしょうか?」
「どうしました? あーちゃんさん」
「日本予選が始まるまでの一か月は大きな大会がなかったはずですけど、またネクラさんが大会を開かれるんですか?」
「まぁ、それも良いかなと思ったんですけど、どうせなら海外の人に通用するのか試してみたくないですか?」
「……?」
要は、仮に日本予選で優勝したとしても、そこから世界大会までは3か月程度しかない。
その間に海外の情報を集めて、海外の人達と出来るだけ交流しないといけないなんて、絶対に無理だ。
なので、日本予選が行われている最中も、できれば海外の人とコミュニケーションをとっていきたい。
「つまり、海外の大会に参加するってことですか?」
「まぁ、そう出来たら、今の僕らがどこまで戦えるのか分かるじゃないですか。世界大会の数か月前にヤバイってなるより、半年前にヤバいってなった方が余裕出来ますし」
まぁ、海外の大会に出場するには海外版のESCAPEアカウントが必要なので、改めてゲームを購入しないといけないのだけども……。
それに加え、海外版は当然日本語に対応していないので、英語がダメな人は何が何だか分からないだろう。
課題はかなりある。
「それに大会じゃなくとも、SNSで海外のプロチームかどこかに交流戦を持ち掛ければ良いんですけどね。交流戦なら、日本版のゲームと海外版のゲームで合わせる必要がありませんし」
まぁ、本当に海外の人と戦いたいならその案の方が現実味があるだろう。
海外の大会に出るのなら、英語が全くダメな人は試練を行うのにとてつもない支障が出るからね。
「皆さん、どう思いますか? まだ早計だというなら、以前と同じように僕が大会を開きますけど……」
「いえ、もっともな意見だと思います。私達の中で海外の人と戦ったことがある人は数人しかいないはずなので、経験値を積むという理由でも戦った方が良いと思います」
「私も同意です。この子は海外の人と戦ったことがあるそうですが私はありませんので、相手の実力を知っておきたいです」
ミルクさんの頭を撫でながらそう言ったミラルさんは、僕をキッと見つめてくる。
最初の方は睨まれているのかとも思っていたこの視線も、今では真剣な表情をしているだけという事が分かって、僕の精神は安定している。
他の人達も大体そんな意見を持っているらしく、唯一乗り気じゃないのはハイネスさんだけだ。
「……皆さん、海外の化け物を舐めすぎです。多分、強すぎてやる気なくしますよ? それが、私は心配です。せっかく良い雰囲気が出来ているのに、日本予選が始まる前に海外の人とぶつかるのはリスクが高すぎると思います」
「……そんなにですか?」
「はい。そんなに、です」
ここにいるのは、ゲーム内でもかなり上位のプレイヤーだ。
そんな人達がいるのにそこまで言えるなんて、どれだけ相手が強いのか分かる。
「た、例えるならどの程度なんですか……?」
「そうですね。子供全員のプレイヤースキルやゲームの理解度はネクラさんと同等かそれ以上。鬼に関しては、マイさんみたいな人しかいません。どこに隠れようとも必ず見つけてきますし、必ず捕まえてきます。唯一の弱点と言えば、プレイヤースキルが高すぎるせいで、策に関してはイマイチってところだけです」
「な、なるほど……」
要はあれだ。実力で勝負するか、頭の良さで勝負するかってことだ。
ただ、僕らが海外の人と戦いたいと言っているのは自分達の実力を確かめたいって理由が大きいので、そのままなら打ちのめされかねない。と、そこを心配しているのだろう。
たとえ相手の頭の良さがイマイチだったとしても、それを補う事の出来る圧倒的なプレイヤースキルは十分な脅威だろう。
僕の作戦も所詮は小細工でしかないので、実力が伴っていなければ当然破綻する。
「でも、やるべきですね」
「……なんでですか?」
「忘れましたか? このチームは、僕が本気で世界を取るために集めたチームなんです。海外の人達がいくら強かろうとも、絶対に勝たないといけません。なので、その敵を知らなければ対策も立てられません。努力は必ず報われるという言葉があるじゃないですか」
「……努力が必ず報われるとは――」
「ええ、分かってます。ただ、努力しないとそもそも可能性が上がらないんですよ。努力しても叶わない夢はありますけど、そもそも努力しないと絶対に叶わない。もしくは、叶うかもしれないっていう夢を見ることができない場合もあります」
努力が必ず報われるなら、この世界にスポーツやゲームで悔しい思いをして泣く人はいないだろう。
努力は必ず報われるわけじゃなく、報われる可能性を上げてくれる要素でしかない。
可能性を上げるだけなので報われない場合もあるけれど、努力をしなければ、そもそも報われる可能性を上げる事は出来ないのだ。
「なるほど……。確かに、そういう考え方もありますね」
「仮にボコボコにされたとしても、本番で負けなければ良いんですよ。そして、本番まではあと半年もあります。その期間でプレイヤースキルを上げるなり、新しい戦術を考えるなりすれば良いんです。最初から勝ち続ける事の出来る人なんていませんし」
勝率100%の奴が何を言ってるんだと言われればそれまでだけど、実際その通りだ。
ゲームなんて勝ち続けなければ面白くないけど、勝つためにどうすれば良いのか考えるのも醍醐味の一つだ。
「……分かりました。じゃあ皆さん、一つ約束してください。海外の人と戦っても、絶望なんてしないと」
『もちろん!』
こうして、海外の人との交流戦をすることが決まった。
僕はその日の夜中、前回の世界大会優勝チームのリーダと、そこそこの実力だとされている海外のプロチームのリーダーにメッセージを入れた。
内容は、それぞれの国の言語で
『初めまして、ネクラと申します。
この度、私のチームで海外の方と戦ってみたいという話が出たので、失礼かとは思いましたがご連絡させていただきました。
日時はここ一か月のどこかのタイミングで、お互いの都合が合う日が良いかと思っています。良いお返事をお待ちしております』
というものだ。
いや、前回の世界大会優勝国がフランスで、僕がフランス語大丈夫な人で心底良かったと思っている。
女王の過去について調べた時に勉強した経験がここで生きてくるとは思いもしなかった。
次の更新は水曜日です〜
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