第11話 強制試練
強制試練とは、大会モード限定で発動される試練である。
その内容はプレイヤーからするとやっかい極まりないものが多く、通常の試練とは違い、クリアできなければ子供側の負けになってしまうものだ。
しかし、その強制試練は1試合に1度しか発令されない。
当然、その試練中に確保されるようなことがあれば、その時点で子供陣営は負けとなる。
その多くは試合後半に出るのだが、今回の晴也のように序盤に出ることも稀にある。
話は戻り、現在の晴也の状況は、限りなく最悪に近かった。
なにせ、今いるエリアから出るには、必ず噴水広場を通過しなければならず、さらに噴水広場から別のエリアへと移動する必要があるのだ。
さらに言えば、その噴水広場に狙撃手が居るという事だった。
「能力無しでクリア出来る訳ないんだけど……」
「ですね......。私が壁になって突破するというのは……」
「いや、結局狙撃手に見つかったら意味が無いので止めた方が良いでしょう。上手く行けば試練はクリア出来るかもしれませんけど、連絡を受けた鬼が集まってくるだけです。その後の展開を考えるなら、ここで死ぬのは無駄死にだと思う」
ここから一番近いのは、恐竜系のアトラクションが集まっているエリアだろう。
しかし、そこも直接他のエリアには繋がっておらず、他のエリアに行きたければ噴水広場を通らなければならない。
つまり、仲間を肉の壁にして突破するのであれば、恐竜のエリアにだけは行ってはダメなのだ。
噴水広場を通り、なおかつ他の鬼がやってきて見つかったとしても逃げ道があるエリアは3か所。
ジェットコースター等の絶叫系アトラクションが集められた、遊園地で1番広いエリア。
あるアニメの世界をそのまま再現したようなエリア。
ショーを行うステージがある小さなエリアだ。
問題は、この3つのエリアのどこに逃げるかなのだが……。
出来る限り、味方が居ないところが望ましい。
見つかったとしても、巻き込む可能性は出来る限り排除しておかなくては……。
「とりあえず、皆がどこにいるのかを改めて確認して――」
晴也が一斉チャットにて確認をしようとした矢先、最後の鬼の情報が発信された。
その内容は、晴也をさらに絶望させるものだった。
「絶叫エリアにて、四君子発見。近くにいる人は離れてください!」
四君子。一番最近追加された鬼のキャラであり、特殊能力が使えない代わりに、他の鬼には無い特性を持っているキャラだ。
そして、この状況では恐らく1番存在してほしくなかった鬼だ。
「なるほど。ここまで見つからなかった訳だ……。これ、積んでるんじゃないですか?」
「四君子は……確かに厳しいですね」
「いや、マジで無理なんだけど……」
普段、ネット上では敬語を使うようにしている晴也でさえ、思わず素が出てしまっていた。
四君子という鬼は、瞬間移動や索敵といった能力は使えない。
その代わり、好きな時に体を透明にし、子供から見えなくすることが可能なのだ。
攻撃する時は必ず姿を現すけれど、それ以外の時は基本的に姿を目視する事ができない。
この鬼、実装当時は強すぎると騒がれたが、蓋を開けてみると女王以上に癖が強く、使いこなすのに相当なプレイヤースキルが居るとのことで、ランクマッチではあまり見かけない。
しかし、使っているということはそれなりのプレイヤースキルを持っている。という事に他ならない。
「こうなると、狙撃手が噴水広場にいるって言うのも、多分作戦と見て良いですかね?」
「ですね。探偵と女王で行動し、四君子は単体で動いて捕まえ、中央の噴水広場を固めていれば、大体は何とかなります。私でも同じような指示を出すでしょう」
「いや~流石に慣れてますね……。どうするんですか?」
「正直、とっとと降参して次に行きたい気分ですねぇ......」
どんな絶望的な状況だろうが、どれだけあきらめムードの言葉を発していようが、決して諦めないのが晴也という男だ。
表面上は無理だと言っておきながらも、心の中ではどうすれば切り抜けられるのかを冷静に分析していく。
まず、四君子が居るという絶叫エリアは除外して考えるとして、諸々の距離を考えるならステージエリアに行くのが最善だ。
土産エリアとも隣接しているので、女王と探偵が流れてくる可能性も否定できないが、そうなったら仕方ないと割り切るしかない。
アニメエリアは今いる場所からちょうど対角線上にある。
つまり、噴水広場を堂々と横断しなければならないのだ。
腕利きの狙撃手が居るというのに、そんな命知らずな行動は出来るはずがない。
この試練をクリアするには、消去法でステージエリアに逃げ込むしか方法がない。
「ステージエリアにいる人には避難を呼び掛けておいてください。ここに残るかは任せます!」
「……了解です!」
「もし捕まったら、申し訳ないです……」
「いえ! この状況なら仕方ないですし、ネクラさんなら大丈夫だと信じていますよ!」
「……はは。そう言ってもらえると」
晴也は重すぎる期待を背負い、乾いた笑いを残してその場を後にした。
残されたマチルダは、ネクラが伝説だの可愛いだのと言われる理由がようやく理解出来た気がしていた。
実際、ランクマッチで一緒になったことはあったけれど、行動を共にしたのはこれが初めてだった。
しかし、誰でも諦めて捨て身になるようなこの状況で、諦めずに可能性を模索するその姿勢に流石だと痺れ、去っていく時の乾いた笑いは、女の子達から可愛いと言われるだけあると思ってしまっていた。
そんな事を思われているなんて、当の本人は知る由も無いのだが、そんな鈍感なところもネクラが人気な理由の1つなのだ。
普段から天才的なプレイをし、言動からも育ちの良さと頭の良さが露見しているにも関わらず、少しこちらの感情を隠してしまえばその気持ちを察することが出来ない所は確かに可愛いと言える。
天才だが、少し抜けている。女性人気が高いのは頷ける話だろう。
話を戻して、現状の確認に入る。
晴也は、噴水広場までの短い道のりで、集められるだけの情報を集めようと、狙撃手の目撃情報が無いか、一斉チャットにて呼びかける。
狙撃手は、基本子供から見えないところに隠れているが、遊園地という障害物の多いマップでは、その位置によって撃ち抜けない場所も存在する。
例えば、狙撃手と子供との間に何かのアトラクションがあった場合、狙撃手が放った弾がそれを貫通して子供に当たることは無い。
この入り組んだマップであれば、狙撃手の位置によっては逃れることが出来るかもしれないのだ。
だが、現実はそんなに甘く無い。狙撃手の目撃情報が上がってくることは無く、晴也は地獄(噴水広場)の入口へと辿り着いてしまった。
噴水広場と言う名前の通り、中央に大きな噴水があり、その周りには木のベンチが無数に並べられている。
ポップコーンやお面など、お祭りにあるような様々な出店まで出ており、噴水の中で遊んでいる子供達が微笑ましく映る、のどかな光景だ。
(こんな状況で無かったら、この光景も穏やかに見ていられるのになぁ……)
晴也はそんな事を思いつつ、辺りを警戒しながら西の方角へと足を進める。
ステージ広場までの道のりは、およそ500メートルだ。
走れば2分もせずに辿りつける距離だが、そんな事をしたらまず間違いなく気付かれる。
気付かれる=確保だと、晴也は十分知っている。
自分が捕まれば、その時点でこちらの負けが確定してしまう。
そんな事は、カッコ悪すぎて御免被りたい。
(せめて、試練が終わってから捕まりたい……)
そう考えるのも無理は無い。
最悪、晴也が捕まっても、2人が生き残れば勝ちなのだ。
なら、即負けに繋がる今の状況さえ乗り切れば、とりあえず最低限の損害で済――
「行くぞお前ら~! 強制試練じゃあぁ~!」
『うおぉぉぉぉ!』
突然広場にそんな声が広がり、晴也が思わずその方向を振り向くと、先ほど別れたはずのマチルダが、数人の男女を連れて自分とは反対の方向へ、もの凄い勢いで走っていく光景が目に入って来た。
先頭を走るマチルダは、軍隊が決死の特攻をする時のような顔で、さっきまでの穏やかな男とは別人のようだった。
(なにやってんだあの人達……)
晴也がそう思うのと、マチルダがどこからか撃ち抜かれたのは同時だった。
鈍い銃声が響き、しっかりと胸を打ち抜かれたその男は、その場に倒れ姿が見えなくなる。
しかし、先頭のマチルダが確保されても、走っていた人達の足が止まる事は無く、まっすぐ恐竜エリアへ向けて走っている。
(いらないって言ったのに......)
晴也は、肉の壁など必要無いと言ったはずなのに、自ら死に役を引き受けている彼らに敬意を示し、小さくお辞儀をした後、サッとその場を後にした。
結果的に4人が狙撃手に確保される形となったが、晴也は無事強制試練をクリアすることができ、即負けとなる状況にはならなくなった。
晴也は、自分の為に死んでくれた仲間を思い、必ずこの勝負に勝とうと決意を新たにした。
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やる気が、出ます( *´ `*)




