第114話 紅葉狩り一日目 夜の部
書き溜めが30話くらいあるので、明日からこの章終わるまでは毎日投稿します。
無駄に豪華な夕食を食べ終わった後、僕は自室に閉じこもって完全にお祭り騒ぎになっているSNSを見て頭を抱えていた。
チームメンバーが僕のグッズを買えたと僕の部屋に殺到していた時、偶然その場に一般の人が居合わせていたらしく、夕食を食べるため部屋から出た時に顔や姿が盗撮されてしまったのだ。
まぁ、バレるのは想定していたので良いんだけどさ、それでSNSが僕の事でお祭り騒ぎになるのが意外と早かったなぁって……。
寝間着姿が可愛いとか、イケメン過ぎて笑うとか、僕のアカウントにはそんなコメントが数多く寄せられている。
「どう反応したら良いっていうのさ……」
おまけに、顔バレしたせいで朝、ファンの人達に手を振っていた写真までもが拡散されてしまった。
サカキさんに乗せられてやっただけなのに、それを面白おかしく加工したり、余計に可愛くしたりして遊んでいる人が沢山いるのだ。
「はぁ……。明日から気が重い」
予言出来るけど、明日の紅葉狩りツアーと明後日の観光は、絶対ろくなことにならない。
写真撮影とか、サインとか、挙句の果てにツーショットまで求める人が殺到しそうで辛い。
しかも今日、僕のファンの人達が大体年上のお姉さん達だと知ってしまったので、余計に気が重いのも事実だ。
だって、僕のタイプドストライクの人が、僕の事を好きでいてくれるとか、ちょっと現実味がなさ過ぎて笑えて来るもん。
「お兄ちゃん、ちょっと良い? 話したいことがあるんだけど……」
大人しく現実逃避させてくれと言いたいけれど、春香がこんな丁寧な言い方をしてるってことは、隣に誰かいるのだろう。
そして、その予想は正しかった。部屋の扉を開けた先には、春香の他にもう1人いたのだ。
「ミルクさん? どうかしました?」
「え、えっと……ライちゃんのお話とは関係ないんですけど……。その、私もネクラさんのファンなので、えっと……写真をお願いしたいなって……」
「え、そうなんですか?」
ミルクさんとミラルさんだけは僕に興味を示さないと思っていたから、この申し出は凄く意外だった。
ちなみに、この場にミラルさんはいない。春香とミルクさんだけだ。
「はい……。みっちゃんには、ちょっと言いづらくって……。良いですか?」
「もちろん構いませんけど……なんでミラルさんには言いづらいんですか?」
「……みっちゃんはその、男の人が嫌いなので……」
「な、なるほど……」
その後、春香にツーショット写真を撮ってもらって満足したミルクさんは、スキップしながら自分の部屋へと戻っていった。
その後姿を冷たく見つめながら、春香は深いため息をついた。
「はい、本題あるからさっさと中に入る」
「……はい」
なに、今から僕殺されるの? なんか、もの凄く嫌な予感がするんだけど。
案の定、春香はベッドに腰かけて僕は床に正座させられる。
いつもの光景だけど、春香がいつも以上に高圧的なのは、きっと気のせいじゃないだろう。
「まさか、チームの皆があんなにお兄ちゃんの好みドストライクとは思ってなかったわ。これは私のミスね。ハイネスに申し訳ない」
「……」
「なんか言ったら?」
「いや、今の話にどう反応しろっていうの? そうですねとか言ったら殴るじゃん」
「……まぁ、そうね。よく分かってるじゃない」
なんだこの時間。一刻も早く終わってくれないかな……。
ていうか、猫被ってる時と素が出てる時のギャップが凄すぎて、二重人格を疑いそうになる。
「でもさ、お兄ちゃんも色々やらかしてるんだからね? そこ、分かってる?」
「……自覚ないんですけど、何が悪かったのか教えてもらっても良いですか?」
「はぁ……。まず、エレベーター内での一件ね。多分、あの会話を聞いた人達は、お兄ちゃんの学校と本名まで特定するよ」
「え!? いや、そんな大きなミスした!?」
「した! なにちゃっかり不登校って事と学年トップって事バラしちゃってんの!? そんなバカみたいな高校生、この世に何人もいると思ってんの!? お兄ちゃんは都内に住んでるってことも明言してるの! バレない訳ないでしょ!?」
いや、そんなこと言われても……。話の流れっていうか、相手の聞き出した方がうますぎたというか……。
「ハイネスが前に言ってたけど、お兄ちゃんって、頭良いのに詐欺とかに引っ掛かりそうだよね。猫好きだってこともお土産屋でバレてるし」
「......そんなにさりげなく色んな情報収集されるの?」
「女子……特に大人の女の人は、そういう事得意なの! よく言うでしょ、男の浮気はバレるけど、女の浮気はバレないって!」
ああ、なんかその言葉は聞いたことがある。女の人は、浮気とかそういう事を隠すのが上手くて、男の人は逆に隠すのが下手っていうあれだ。
いや、下手ってよりも、女の人が凄すぎるだけな気もするけど……。
「ていうか気付いてなかったけど、私の顔がバレると、学校で色々言われるってのも問題よね。私がネクラの妹って情報が出るのも時間の問題だから、紹介してとか言ってくるバカな人が大勢出てくる……」
「良いじゃん断れば。僕、女の人に興味ないし……」
「初日なのにチームの皆にちやほやされてニヤついてた人が何言ってんの? 殴るよ?」
「……」
しょうがないじゃん。あんなに誰かに褒められた事ないんだし……。
自己肯定感が低い人は、褒められると嬉しくなるものなんです……。
「はぁ。確かにネット上で、私達の美人率が異常なんて記事もあったから分らなくもないけどさ......。でも、ちょっとは自重したら?」
「……肝に銘じます」
「有名な漫画家の先生もいるし、手毬買ったペットショップの店員さんもいるし、ほんと、お兄ちゃんっておかしいと思う」
「……そんなこと言われても知らないよ」
ていうか、有名な漫画家がいるとか、ペットショップの店員がいるとかに関しては初耳なんですけど。
おまるさんは僕のイメージしている漫画家とはかけ離れている存在なので、また別にいるって事だろうけども……。
「おまるさんはミステリー作家らしいわよ。さっき廊下で、笹森さんって人と話してるの聞いた」
「……ミステリー作家ねぇ。なるほど」
だから時々ハイネスさん並みに頭が良かったり、僕がお風呂に入る時間や場所をピタリと当てられた訳だ。
ついでに言うと、編集部がおまるさんを復帰させるために全面的に協力していたところを考えると、それなりに売れっ子なのだろう。
生憎と、僕はミステリー作家さんで名前を知っている人は1人しかいないし、その人は数年前にデビュー作で大ヒットを記録してから一切刊行してくれない人だ。
「ミミミさんとキリスさんも、部屋の前でなんか言い合ってたし、色々大変そう」
「……ミミミさんっていえば、なんであの人は僕に異常に怖い目を向けてくるの?」
「さぁね。お兄ちゃんが虐めたくなるような人だからでしょ」
「は!? 僕、大人にも虐められるの!?」
「……はぁ。お兄ちゃんに説明すると私が汚れてるみたいで癪だから、もうそれで良い」
首を傾げている僕にはぁと溜息を吐きつつ「あの人には気を付けて」と言うだけで説明を終わらせた春香は、明日着る服を指定してハンガーにかけた後、僕の部屋を後にした。
多分、少ししたらハイネスさんと一緒に戻ってくるとも言ってたけど、それまでに僕が寝れば良いのではないのかと天才的な作戦を思いついたのは、春香の背中が見えなくなってすぐだった。
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やる気が、出ます( *´ `*)




