第112話 紅葉狩り一日目 昼の部3
ほんとは明日更新するつもりでしたけど、いっぱい評価貰って感想もいただいちゃったので更新しますね。
お陰様でやる気がみなぎっております!
旅行初日にお土産を買うなんて意味が分からないと春香に怒られたので、僕は手毬に買っていくものがないと分かるとサッサとその場を後にした。
帰りのエレベーターの中には僕と春香、後はハイネスさんしかいなかったけれど、空気はとても重苦しい物だったと覚えている。
そしてその数十分後、いよいよネクラ公式グッズの予約が始まった。
多分、僕がのびのび出来るのはこの瞬間だけだろうという妙な確信があったので、今のうちに厄介そうな事を済ませておこうと決意する。
それはすなわち、お風呂だ。
「確か……大浴場は最上階と3階だったっけ。本当なら最上階の方に行きたいけど……」
多分、最上階の方には露天風呂があるはずだ。
いや、調べたわけではないのであくまで予想だけど、山のホテルの最上階にわざわざ大浴場を設けるってことは、そこからの景色を楽しんでくださいという意図が込められているような気がする。
分かんないけども。
なので、最上階の大浴場には人が沢山いる可能性がある。
今このホテルに泊まっている約8割の人は僕目当てのはずなので、万が一にも出くわすと面倒なことになりかねない。
そんな訳で、こんな変な時間・ネクラの公式グッズ予約開始・3階の方の大浴場。ここまでの条件が揃っていれば、そうそう人と出くわす事は無いだろう。
とりあえず着替えとお風呂セットを手に、さっさとエレベーターホールへと戻る。
するとそこで、偶然ミナモンさんと鉢合わせる。
「あれ、ミナモンさんもお風呂ですか?」
「ネクラさんもですか? そうなんですよ。僕、夜は彼女と通話したいので、今のうちに入っておこうかなって」
「へ、へぇ……」
なんでチーム内で嫌われてるこの人に彼女がいるのがすごく不思議だけど、学校だとムードメーカー的な立ち位置だと言われると、なるほどと頷く他ない。
前にネットの記事で、明るい人は男女関係なくモテるというのを見たことがある。
確かにミナモンさんと一緒だと、良い意味で退屈しないし、自然と笑顔になるのは確かだ。
まぁ、うちの女性陣はそこが気に入らないって言ってるみたいだけど。
「そういうネクラさんは?」
「ああ、僕は……面倒ごとになる前にさっさと済ませておこうかと」
混浴なんて絶対にないと分かっている。分かっているけど、億が一にも、このホテルに混浴なんてものがあろうものなら、絶対一緒に入れと言われる。
そんなことになったら、僕はお風呂の中で気絶する自信がある。
それに、仮になかったとしても、必ずお風呂までは一緒に行こうという事になるだろうし、僕が早めに上がったとしても数人はお風呂の前で待っているだろう。
そんなことになったら、綺麗なお姉さんがお風呂上がりの状態で迎えてくれることになるので、色々な意味で不味い気がする。
「あはは。そういえばそうですねぇ。大変ですね」
「ほんとですよ……」
エレベーターに乗っても僕の愚痴が止まる事は無く、大浴場に到着するまで続いた。
ミナモンさんも3階の方の大浴場にいくつもりだったようで、その理由を聞いたら「え、最上階にもあるんですか!?」なんて答えが返ってきた。
どうやら、ちゃんと話を聞いてなかったらしい。
「……ミナモンさんって、学校の成績はどうなんです?」
「うわ〜それ、聞いちゃいます? 彼女が居なかったら、とっくに退学してますよ」
苦笑いしながら頭を掻くその姿は、本当に予想通り過ぎて逆に面白い。
お互い服を脱いで浴場に進むと、そこにはロビーと同じくらい豪華な光景が広がっていた。
大理石か何かのタイルが一面に貼られていて、白い湯気がそこら中で上がっている。
大小さまざまな湯舟が、ぱっと見だけでも5個以上ある。そして、こちらには露天風呂は無かった。
横に目を向けると小さな個室があり、その近くに水風呂がある。多分、サウナだろう。僕は使わないけども……。
「誰もいなくて良かった……」
「ですね。ていうかネクラさん、体鍛えてるんですか?」
「……あぁ。少し前まで栄養ドリンクを飲み続ける生活だったので、少しは体動かそうかなって筋トレしてただけですよ」
申し訳程度に割れている僕の腹筋を見ながら、ミナモンさんは驚きの表情を浮かべる。
いや、そういうあなたはなんでシックスパックなのか。僕なんかよりよっぽど鍛えてるじゃん。
そのおちゃらけた性格とは真反対の肉体は流石に驚きだ。
「僕、小さい頃からサッカーしてますもん。彼女も、中学のサッカー部で知り合った子なんですよ」
「へぇ……」
これまた意外な一面というか……。ミナモンさんがサッカーをしている姿なんて想像できない。
確かに顔は結構良いし、明るい性格で人気者。おまけにサッカー少年。これはモテるはずだ。
方や、僕は陰キャで運動音痴、さらには女の人が苦手。でも、なぜかモテる。
うん、意味が分からない。何度考えても、この謎は解けそうもない。
そこからしばらく湯船に浸かりながらお互いの愚痴を吐いていると、あっという間に20分が経過した。
ミナモンさんがそろそろのぼせそうとの事なので一緒に上がり、ミナモンさんはジャージ、僕は寝間着に着替える。
まだ13時を少し回ったところなのに今から寝間着なんてのは早すぎる気もするけど、お風呂に入ったのにまた着替えるのはちょっと面倒だ。
ミナモンさんも、ジャージで寝ると言っていたのでそこまで変ではないのだろう。
「……で、なんでここにいるんですか?」
「え、だって、ネクラさんなら今このタイミングでお風呂に行くかなって」
「……」
大浴場から出たタイミングで僕らを待っていたのは、唯一ネクラファンでありながら、予約が開始されているはずのこの瞬間もフリーで動けるおまるさんだった。
「いや、普通10階の方に行くのでは……」
「いやいや〜。ネクラさんなら、人と会う可能性を最大限少なくする為にこっちに来るかなって。当たって良かったです」
そうにこやかに言いながらサラッとスマホで写真を撮る。
別に気にしないけど、それをネットにあげるのは止めてね……。
「もちろんですよ。待ち受けにしますね!」
「……それも嫌なんですけど」
なにをニコニコしているのか。アイドルの写真を待ち受けにするのとは違うんですけど……。
想像してみてほしい。誰かの待ち受けに自分の写真が使われているなんて、嫌でしょ。せめて僕には言わないところでやってほしいね。
「それもそうですね! じゃあ、今度からそうします!」
「は、はぁ……」
呆れるのも疲れたので、3人でエレベーターホールに戻り、ミナモンさんは自分の部屋へ。おまるさんは、僕と一緒に僕の部屋へと帰っていった。
……なんで当然のように僕の部屋に入ってくるのか。もう、突っ込むのも疲れてきた……。
もちろん明日も更新しますが、木曜はお休みさせていただきます。
投稿主は皆様からの評価や感想、ブクマなどを貰えると非常に喜びます。ので、お情けでも良いのでしてやってください<(_ _*)>
やる気が、出ます( *´ `*)




