第107話 旅行準備
問題のインタビューから数日経った日、僕は春香にリビングに呼び出され、またいつものように正座させられていた。
どうやら、僕は気付かない内にインタビューで色々やらかしてしまったらしく、その件でここ数日はかなりご立腹だ。
そのせいで、僕は最近手毬に会えてない。いや、会わせてもらえないと言った方が正しい。
「で、いよいよ明日出発な訳だけど。覚悟は出来たの?」
「……まぁ、なんとか」
「今日一日はゆっくり寝る事! 間違ってもくまなんて作ってたら許さないから」
「……はい」
明日は、僕と春香がチームメイトの皆に兄妹だと明かす日でもある。
その時、兄である僕がくまの濃い冴えない男だと、ライとネクラのブランドイメージに傷がつくらしい。
ネクラの名前に傷がつくのは僕にとっても避けたいので、今日はこの後しっかり寝ると心に決めている。
「あと、三泊四日の旅行中、絶対に変な気は起こさないこと! 間違っても今回の旅行中にハイネスを口説こうとかしないで! 他の子達も同様に! 分かった!?」
「……う、うん」
「はぁ。ほんとに分かってんの……?」
腕を組んで肩を竦める春香は、いまにも殴りかかってきそうで凄く怖い。
春香いわく、僕が女性にベタベタする様を誰かに撮られでもしたら瞬く間に拡散されて大炎上する可能性があるとの事だった。
僕自身にはダメージはなくとも、相手の女性はフルボッコにされるだろうとの事で。
僕自身、女の人とは出来るだけ絡まないようにしたいので、その可能性はないと何度も言ってるんだけどね。
「私達が明日から泊まるホテル、もう満室だってハイネスが言ってたから、どこでも隠し撮りされる可能性があるって思っといて! 良い!? 一瞬でも気を抜いて、変な写真撮られたら殺すから!」
「……わ、分かってるって」
ていうか、殺すって今の言葉は、家族だとしてもどうなんだ?
冗談とかそういうんじゃなく、本当に殺されそうなのが笑えないんですけど……。
「はぁ……。お兄ちゃんの顔がバレたら、またファン増えるんだろうなぁ……」
「ど、どうだろうね……。逆に減ってくれたりしない、かな?」
「なに、自分のファン減ってほしいとか思ってんの? 最低」
「なんでそうなるの!?」
いや、確かに今の言葉はちょっとあれだったけどさ!
でも、自分の事を応援してくれたり、好きだと言ってくれる人がいる事は純粋に嬉しい。
ただ、それが多すぎると怖いよねって話であって……。
「ていうかさ、いつグッズの事公表すんの? マイちゃんから貰ったサイン用のグッズ、あれもう全部書き終わって返却したんでしょ?」
「旅行が終わってからの方が良いかなって思ってたんだけど……」
「善は急げって言うでしょ。この話が終わったら発表しといて。出来るだけ顔バレの件で騒がれないようにするための作戦としては、結構有効かもってハイネスも言ってたし」
......いや、多分それは違うと思う。
ただ早くネクラグッズの販売を確定させて、一刻も早く予約したいとか思ってるんじゃないかな。
大体、今のタイミングでそんなことをしたら、顔バレも相まって余計に騒がれるなんてあの人が想像できない訳がないし……。
「分かったよ……。話は、それで終わり?」
「まだ。ハイネスから聞いてほしいって言われたことが何個かあるの」
「……なに?」
「お兄ちゃんは、眼鏡女子と何もしてない女子、どっちが好き?」
「……はい?」
なんでそんな話が急に出てくるのか。いや、ハイネスさんが聞いてほしいっていうのなら、それはハイネスさん自身が眼鏡かコンタクトを愛用しているからだろう。
ここで下手に眼鏡女子と言って、ハイネスさんが眼鏡を持っていなかった場合は面倒なことになるし、その反対もしかりだ。
ハイネスさん自身、コンタクト(もしくは裸眼)の姿があまり好きじゃないのなら、眼鏡をかけていた方が楽なのだろう。
正直、相手の見た目なんて気にしたことはないのでそこら辺はどうでも良い。と言いたいのだけど、多分許されないんだろう。
だから、角が立たないような答えを瞬時に考える。
「眼鏡をかけてる女の人は仕事が出来るって勝手なイメージがあるから、どちらかといえばそっちの方がタイプだよ。春香が知ってるかは知らないけど、僕は引っ張ってくれるような、年上のしっかりした人が好きだから」
「ふーん。じゃあ、そう伝えとく。じゃあ次」
「え!? まだあるの!?」
「これラストだから。お兄ちゃんって、露骨に肌露出した服とかよりは、清楚な感じの方が好きでしょ?」
うん、その質問は通称「ネクラの好み事件」で散々聞かれた問題だから、ハイネスさん自身も答えを知っている気がするけど……。
まぁ、別に答えても僕の立場が危うくなることはないだろう。
「うん。清楚ってより、あんまり派手な人は苦手ってだけ。特に服とか気にしたことないけど、あまりにも僕とかけ離れてると敬遠するかな」
「私が選んだ服、最近流行ってる結構オシャレ目のやつなんですけど?」
「……それはそれ、これはこれでしょ。服で女の人決めないし、僕」
「初恋も経験してない人が何言ってんの? 殴るよ?」
「……ごめんなさい」
そっちが聞いてきたのに、理不尽だ。
まぁ、そんなことは言えないので黙るけど。
「じゃ、それだけ。帰って良いよ」
「……はい。明日はその、よろしくお願いします……」
「ん。素直でよろしい」
なぜか偉そうな春香を横目に、僕はいそいそと部屋に帰った。
ちなみに手毬に関しては、旅行中はペットショップに預けるらしく、僕が部屋に戻った後、小さく嗚咽しながら家を出ていく春香の声が小さく聞こえた。
明日も投稿します。
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やる気が、出ます( *´ `*)




