第9話 初対面
翌日、約束の10時前にログインした晴也は、そのまま行きつけの装飾店へと足を運んだ。
どうせ後10分もしたらマイさんがログインしてくるのだ。
少し時間を潰してギルドへ向かえばちょうどいいくらいだろう。
相変わらずの怪しいマネキンをスルーして店の中へと入ると、そこには珍しく先客が居た。
自分以外の客がいることなど初めてだったので、晴也は思わずその人物を二度見した。
背中にはライフルのような大きめの銃を背負い、ピシッとした黄緑のスーツでカッコよく決めている。
背は晴也と同じくらいなので160ちょっとか。
綺麗な黄緑色の髪が背中まで伸びているところを見るに女の人だろう。
普通の店ならばそこまで不自然ではないだろうが、この店に限ってはこんなキチっとした格好の人がいるのは不自然極まりない。
なぜなら、ここにはまともな物など1つも置いておらず、身につければ呪われるような物か、見た目がいかつい物しか置かれていないからだ。
良く言えば厨二病の男が好みそうなラインナップなのだが、間違っても女の人が来るような店ではないだろう。
「あの……」
恐る恐る声をかけると、振り返った人物はやはり女性だった。
見た感じは20歳過ぎの女の人だが、アバターの見た目と現実の見た目が必ずしも一致するわけではないので、そこら辺は気にしない方が良いだろう。
「なにか?」
「あ、いえ。この店で私以外の客を見たのが初めてだったもので……つい」
「そうですか。……ならひょっとして、ネクラさんってあなたですか?」
「はい? そう、ですけど……」
突然自分の名前が出て来て少しだけ驚いた晴也だったが、とりあえず対応する。
こんなアバターは見覚えがないけれど、人気のアニメキャラに寄せず、自分で考えて装飾しているところを見るに、この人は上位プレイヤーだろう。
下手なことはせず、ただいつも通りに接すればいい。
「良かった。アバターは見たことがなかったので、目撃情報からこの店で揃えているのかと思って、ダメ元で待っていたんですよ」
「はぁ……。私に何か用ですかね?」
「用って言うほどではないんですが、一応一目見ておきたかったというか……。まぁ、またすぐ会えますよ!」
「話が成立していない気もするんですけど……」
呆れている晴也を見ながら「そうですね」と苦笑したその女性は、用は済んだとばかりに店を後にした。
残された晴也は意味が分からず呆然とし、マイがログインしたと通知が来たことで意識を取り戻した。
とても商品を確認する気分にはなれなかったのか、結局何も確認しないままその店を出た晴也は、その足でギルドへと向かった。
ギルドに着くと、案の定マイが落ち着かない様子で待っていた。
まだ約束の時間までは15分以上あるのに、相変わらず準備が早い人だ。
「私の為にセッティングして貰ったのに、私が遅れる訳にはいかないので!」
「まぁ、私も相手を待たせるよりは自分が待つ方を取るので、気持ちは分かりますけど……。いくらなんでも早すぎませんか?」
「なんとなく危険な匂いがしたので、急いできたんです!」
「......危険な匂いとは?」
「いえ! こっちの話です!」
ふふっと笑った彼女は、それ以降その話をすることはなく、まるで晴也をギルドから出さないようにしているかの如く、必死で世間話を振っていた。
マイがいう『危険な匂い』の正体は結局分からなかったけれど、ギルドメンバー全員が揃う頃には晴也の頭からその言葉の存在は消されていた。
約束の時間から5分程経った後、ギルドの扉がノックされ、来客を告げる。
練習会の相手には、全員合意でギルドに入ってもらい、お互いで軽く自己紹介をしてからカスタムに行くことになっている。
こういう時、元々入っていたギルドの長が承認していれば、いちいちそのギルドを抜けなくても他のギルドに入ることが出来るシステムが役に立つ。
いくらなんでも、何度も入ったり抜けたりを繰り返すのは面倒だしね。
「ライとその一行です。参りました~」
「はい~。ちょっと待ってください」
どこかで聞いたことのある声だったが、そんなことは気にせず呑気に扉を開けた晴也は、その先にいた人物を見て雷に打たれたような衝撃を受けた。
さっき例の店で会った、あの女性だったのだ。
「……ライ、さん?」
「はい! さっきぶりですね! だから、すぐ会えると言ったじゃないですか!」
「……」
思わず1度扉を閉め、慌てて考えをまとめる。
なに、新手のドッキリか何かか……?
そもそも、なんでライがわざわざあの店で自分を待っていた!? 何もかもがおかしく無いか!?
「あ、あの~?」
気まずそうに扉の向こうから語りかけてくるライの声が聞こえてくるが、そんなのは全部無視だ。
ライって、アバターは見たことがなかったからてっきり男だと思っていた。
仲間思いの熱い男。そう、思っていた。
しかし実際、女の人だという。それだけでだいぶ混乱するんだけど……。
このゲームは、アバターでの性別偽装はできない。そういうシステムなのだ。
なら、目の前の現実を受け入れるしかない。
自分が密かに凄いと思っていたプレイヤーが女性で、話し方から察するに、歳もあまり変わらないだろう。
余計に凄いという気持ちが強くなる。
「失礼しました……。てっきり男の方かと……」
「よく言われます~。あんまり気にしないでください!」
「ありがとうございます……。じゃあ、後ろの方々も、どうぞ」
『お邪魔します』
ライの後ろにいた23人も一緒に登録し、そのままギルド内へと向かい入れる。
さすが優勝候補と言われるだけあって、有名なプレイヤーが多い。
ザッと見た感じ、ランキング上位者も何名かいるみたいだ。
さすがにパッと全員の名前が出てくるかと言われると厳しいが……。
その後こちらのチームが揃っている部屋へと通し、晴也と同じようにライが女性だとは知らなかった数人は、晴也と同じような反応を示した。
唯一マイだけは、なぜか敵意を向けていたが……。
「じゃあ、改めまして。ネクラと申します。今日はよろしくお願いします」
「どうも~。ライです。お噂は聞いていますよ~。今回はお願いします~」
「じゃあ、ルールは大会と同じで、ステージはランダム。ということでよろしいですかね?」
「問題無いですよ~。もう充分という場合は、その方から連絡する。という形で良いですかね?」
「はい。では、始めますか」
この場にいる全員に確認すると、異論のある人はいないらしく、そのままカスタムの設定画面へと移る。
設定と言っても、カスタムマッチで通常ルールから大会ルールにすれば良いだけだ。
「鬼陣営の皆さん、頑張ってくださいね」
『はい! 子供陣営の皆さんも、ご武運を!』
そう交わすと、晴也は手元に表示されたゲーム開始のマークをクリックする。
すると、ギルド内にいた全員がロビーに似た空間に転移する。
このゲームのロビーが魔王の玉座があるような部屋だとするなら、今晴也達が居る場所はまさに食堂のような場所だ。
横に長いテーブルがいくつか並べられ、その周りに晴也が集めた子供陣営の面々が勢ぞろいしている。
ライが集めたメンバーも、今頃はこんな感じの場所に待機させられているはずだ。
ついでに言うと、テーブルにはランダムな料理(触れられない)が映し出される。
今回はクリスマスに食べるような丸焼きの鳥が何個も並べられている。
これが、ゲーム開始前のキャラ選択画面だ。
この場所に転移して1分後に試合が始まるのだ。
ランクマッチではここが食堂ではなく、周りにぎっしり本が並べられた図書室になるのだが、それは本筋から逸れるので今は省略する。
晴也も含め、各々が自分の愛用しているキャラを選び、試合開始を待ちわびる。
隣を見てみると緊張している人は1人もおらず、全員がこの戦いを楽しもうとしているのがありありと伺える。
そして、頭上に表示されたカウントダウンが0になると同時に、視界が一時的に真っ白になる。
次に目を開けた時、1番に彼の目に入って来たのは、メリーゴーランドではしゃいでいる5歳くらいの女の子だった。
練習会、第1試合が開始されたのである。
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やる気が、出ます( *´ `*)




