第99話 晴也の死闘 その2
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「で、なんで引っ越そうとしてんの?」
リビングに呼び出されて、正座ではなくご飯を食べる時の席に座らせれた僕が、何を言われるのかと身構えたその時に発せられたのは、そんな言葉だった。
不思議そうに、それでいてなぜか焦っているような様子の春香はこの際放置しても良いけれど、なんでそれがバレたのかが問題だった。
僕は、自慢ではないけれどかなり頭が回ると思っている。
この計画もバレていない自信があったし、愚痴を吐くと言えばSNSが使えない今、たまに手毬に慰めてもらっている時に吐く程度だ。
手毬が春香に告げ口したとも考えられるけれど、それは現実逃避でしか無いのでその可能性は考えない。
では、なぜバレたのか。
……いや、まずはそれよりも、この問いになんと返せばいいのかが問題だ。
すっとぼけて知らぬ存ぜぬで通すのも良いだろう。
だけど、こう言ってきているということは、それなりの根拠があるからだろう。
ハッタリでここまで切羽詰まる程の顔を出来るはずがないのは、春香と長い付き合いなので知っている。
春香は、嘘が絶望的に下手なのだ。少なくとも、僕はそう思っている。
では、ここは認めるしかないだろう。
そして、認めたうえでなぜ引っ越そうとしているかの理由を説明しなければならない。
以前のように、曖昧な答えを出すのであれば春香も着いて来ると言いだしかねない。
今回ばかりはそれはダメだ。絶対に避けなければならない。
「……引っ越そうとしてるわけじゃないよ。ただ、部屋を探してるだけ」
「何のために?」
「最近荷物が増えて来たから、トランクルームみたいな感覚で借りる部屋を探してるんだよ」
かなり無理があると、自分でも思う。
大体、トランクルーム感覚で借りる部屋を探すなんて、どこの大富豪だと言いたくなる。
荷物を預けるだけなのになんでわざわざ部屋を借りないといけないのか。
自分で言っておいてなんだけど、高校生の分際で何を言っているのかと言いたい。
「……普通に捨てるなり、それこそトランクルームに預けるなりすれば?」
「ホイホイ外に出るなら、部屋を借りてそこで作業出来るようにしたいなって思ってるだけだよ」
「……嘘でしょ?」
僕は春香にギロッと睨まれて、思わずビクッとなってしまう。
こんな下手すぎる嘘、バレない方がおかしい。
では、ここからなんと返すのが正解なのか。それを考えていると、再び春香が信じられない事を口にする。
「ハイネスが言ってたんだけど、私に何か不満があるんでしょ? なに、料理が気に入らないの? それとも、頻繁にお風呂に入るのが面倒なの?」
なるほど、ハイネスさんに知恵を借りているのか。
なら、春香に何かしら不満を持っているということくらいは見抜いていて当然だろう。
それをストレートに聞いてこなかったのは、僕が嘘をつけばそれが確定事項になるからだ。
隠したい事があるので嘘を吐く。それが、春香の事であればなおさらだろう。
本当に、ハイネスさんは敵に回したく無い。
単なる顔見知り程度の関係なのに、ここまでこちらの思考を読まれるとかなり怖い。
なんだか、孔明と知恵比べをしているようで微塵も勝てる気がしない。
「……そうだって言ったら、どうするの?」
「それでお兄ちゃんが出て行くって言うなら、最悪食事はお兄ちゃんの好きにしたらいいし、お風呂も一週間に一度入るとかまでは許容するよ」
「なんでそんなに、僕に出て行ってほしくないの?」
「……それは、言いたくない」
絶対ストレスのはけ口が無くなるからじゃん。
ただ、ここでそんな事を言えばボコボコにされるのは目に見えているので何も言わない。
この際、春香に不満があるというのはバレてしまっているので、暴力的なこと以外で引っ越す理由を作らなければいけない。
それでいて、春香が改善できないような、そんな理由を考えないといけないのだ。
「……元々、僕は一人暮らしがしたいって言ったの、覚えてる?」
「うん」
「その思いが強くなったっていうだけ。食事とかお風呂に不満があるかと言われると、正直無いよ。ご飯は美味しいし、お風呂も面倒な事を除けば不満は無いさ。ただ、人と関わるのが苦手な僕にとって、それは家族でも同じらしいってだけ」
これならどうだ。
不満はある。だけど、それは春香自身にという事ではなく、一緒に住んでいる人そのものの存在という事にしたのだ。
こうすれば、僕が一人暮らしをしたいという理由とも辻褄は合うし、春香自身にはどうしようもない。
なにせ、原因は春香ではなく、僕自身にあるのだから。
「……それは、あの子と離れ離れになってまで叶えたい事なの?」
「……迷ってるから、まだ決めれてないんだよ」
正直、手毬を出されると少し厳しい。
手毬に罪は無いし、むしろ連れて行きたいとさえ思っている。
新しく子猫を買うのは簡単だけど、やっぱり家族の変えはそう簡単に埋められるものではない。
「……じゃあ、賭けをしない?」
「はい?」
「賭け」
「......どういう意味?」
「私は、お兄ちゃんにこの家を出られると困る。多分、手毬も悲しむ。だから、お兄ちゃんがこの賭けに勝てば、手毬を連れて出て行く事も我慢する」
なんか、妙に良い話が出て来た。
これ、絶対詐欺だ。もしくは、ハイネスさんの策の一環だよ。
前に、僕を諦めないって言ってたみたいだし、その策の一環だよ絶対。
「僕が負けたら?」
「この家に留まってもらう。それと同時に、チームの皆と旅行に行ってもらう」
「……絶対嫌なんだけど!」
春香は、さっきの僕の話を聞いていなかったんだろうか。
僕は、顔バレしたらプライベートが無くなるので現実では誰とも会わないと言った。
唯一顔が割れているハイネスさんやマイさんとも、旅行になんて行きたくは無い。
元々、僕は家が大好きなのだ。旅行なんて、今まで一度も行きたいと思った事は無い。
「良いでしょ? ハイネスと舞ちゃんも行きたいって言ってたし、チームの皆も反対しないと思うよ?」
「僕の意思は!?」
「賭けに負けた結果なんだから仕方ないって割り切りなさいよ。その代わり、勝てばあの子を連れて一人暮らしが出来るでしょ?」
「……春香は、手毬と別れて平気なの?」
「最悪、たまにお兄ちゃんの家に会いに行くから」
それなら、僕が引っ越してもたまにこの家に遊びに来ればいいだけな気もする。
それを提案してみても大丈夫だろうか……。いや、ダメだな。
この賭けの内容は分からないけれど、引っ越してこの家に遊びに来るとなると、当然外に出ないといけなくなる。それは、手毬に会う為だとしてもちょっとキツイ。
「賭けの内容による。どうやって勝敗を決めるの?」
「今度の紅葉狩り、優勝したらお兄ちゃんの負け。優勝できなかったらお兄ちゃんの勝ち」
「いや、なんで紅葉狩りが勝敗に関係するのさ!」
「チームの皆との旅行は、紅葉狩りの賞品。その事を説明すれば、皆はやる気を出してくれる。それに、今回はハイネスの提案で指揮官不在。お兄ちゃんがいくら手を抜こうとも、皆が頑張れば優勝出来る」
「......もっと簡単に言えば? ハイネスさんが考えた構成で優勝出来たら、僕よりもハイネスさんの方が頭が良いって事になるから、それで僕の負けにする事にしたって」
「……気付いてるなら良いや。そう、要はそういうこと」
ハイネスさんの方が頭が良い事については否定するつもりは無いので、僕の負けでも良い。
ただ、僕が勝った時のリターンがでかすぎるというのもまた事実だった。
「一つ質問」
「......なに?」
「仮に僕が賭けに負けてこの家に留まるってなった場合、出ていって良くなるのはいつ?」
「……お兄ちゃんが結婚してこの家から出るとか、そういう時が来ない限りダメ」
「は……」
いや、それはちょっとキツイ。
せめて世界大会が終わるまでとかなら話は別だけど、僕が結婚なんてする訳ないので、事実上一生この家にがんじがらめにされる?
「嘘。私が高校卒業するまでで良いよ。それまではここにいて」
「……まぁ、それならギリ……」
いや、出来れば今すぐにでも出て行きたいけれど、最悪負けたとしても後2年耐えればいいのだ。
2年も経てば、今は熱心な手毬の世話にも飽きているだろう。
ならば、むしろ喜んで手毬を連れて行ってと言ってくれるはずだ。そこまで考えるのであれば、負けたとしても被害は最小限で済む。
旅行は行きたくないけれど、紅葉狩りにはプロも参加するだろうし、匿名性の高い掲示板で情報を流せば、それなりに強いチームの人も参戦してくれるだろう。
そうする事で、僕らのチームが負ける可能性をあげるのだ。
「分かったよ。ならその賭け、受けるよ」
「ん、ありがと。それとさ」
「なに?」
「裏垢とか掲示板とかで、私達が紅葉狩りに出るっていう情報流したら問答無用で負けだから」
「……はい」
お見通しらしい。
ハイネスさん、やっぱり、この人は怖い……。
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明日も19時頃に投稿します




