第97話 危機感
昨日投稿しようと思って寝落ちしてしまったので、今日投稿します。ほんとすみません...。
ちなみに、明日も19時~20時の間に投稿します。
お兄ちゃん――ネクラさんが自身のアバターを変えたとSNSで報告し、挨拶動画がアップされて数分後、異常にハイテンションのハイネスから電話がかかって来て私は少しだけため息をついた。
なんでこの子はこんなにもお兄ちゃんの事が好きなのか理解出来ない。
好きになる努力をすると返事をしておきながら、結局何の努力もしていなかったというのに、ハイネスは怒るどころかお兄ちゃんに悩みのタネを増やしてしまったと後悔していた。
今日の会議でハイネスが怒っていたのはお兄ちゃんに対してではない。
お兄ちゃんが数日前に行ったギルドの面々に激しい怒りを覚えていたのだ。
前までのお兄ちゃんは、積極的とまでは行かなくとも、ある程度人と関わりを持っていた。 ハイネスは、それを利用して少しずつお兄ちゃんと親密になっていく作戦を練っていた。
わざと留年してまで学校でお兄ちゃんと話したいと言っていた少女は、それほどまでにお兄ちゃんの事が好きなのだ。
だけど、その策を実行に移す前にあの出来事があって、お兄ちゃんが人との関わりを極端に制限し始めたのだ。
具体的には、チームメンバー相手にもどこかオドオドしているし、ハイネスが話しかけても少し気まずそうにしているのだ。
まぁ、ハイネスというよりも、チームの女の子達に話しかける度に恐る恐るといった感じで話しているのだ。
こんな状況では、恋愛が云々と言っている場合では無くなる。
お兄ちゃんがハイネスを振った理由に関しても、前もって聞いていたのでなんとか理解は出来た。
あの時暴行を加えたのは、ハイネスを好きになる努力をすると言っておきながらそれを怠っていたからだ。別に、振った事に対して怒っていた訳ではない。
だけど、正直言って私には分からない。
お兄ちゃんのどこに夢中になれる要素があるのか。
「もしもし? どうしたの?」
「ライ、見た!? ネクラさんの新しいアバター! 可愛くない!?」
「……やっぱりそれ~? ていうか、本人は可愛いじゃなくて、カッコいいって思ってるんじゃない?」
「いやいや、それはないでしょ! 子供が悪役を妄想してる感じで可愛いじゃん!」
「……うん、そうね」
多分、画面向こうのハイネスはかなり顔を歪めてニッコニコなんだろう。
ただ、私には分かる。
お兄ちゃんは、この格好を本気でカッコイイと思っている。
ハイネスが悪役を妄想してると言っていたけれど、それは骸骨が後ろから身を出している所から来た感想だろう。
それは私も同意見だけど、お兄ちゃんはこれを本気でカッコいいと思う人種だ。間違いない。
「ハイネスは前のと今のお兄ちゃん、どっちの方が好きなの?」
「ん~! 悩むところだけど、私は年下の子が好きだから、今の方かな!」
「ふ~ん。良かったわね」
新しいネクラのアバターは、その声の感じも相まって小学生か幼稚園生にしか見えない。
その癖、後ろから鎌を持った骸骨が身を乗り出しているので、ミスマッチ感が凄い。
ただ、お兄ちゃんはセンスが壊滅的なのでこれをカッコイイと思ってしまうのだ。
いや、センスうんぬんよりも、高校生になっても未だ不治の病――中二病――に冒されているのだ。
「あ、そういえば、あなたに相談したい事があったんだ」
「......ん、私に? どうしたの?」
「実は、あなたに頼まれてたうちの猫とイチャつくお兄ちゃんの動画ね? あれ、撮れたんだけど……」
「あ、撮れたの!? ちょうだいちょうだい!」
「うん、後であげるけど、それよりもね? お兄ちゃん、引っ越すかもしれないの」
手毬とイチャつく動画を撮るのは簡単だ。猫部屋にカメラを仕掛けるだけで良いのだから。
ただ、その映像の中でお兄ちゃんは手毬に別れを告げていた。
人間より動物が好きなお兄ちゃんが手毬を嫌いになるなどあり得ないし、むしろ最近頻繁に猫部屋にいるので、必然的に別れるのはお兄ちゃん自身という事になる。
ただ、私がお兄ちゃんの引っ越しに着いて来たのは自分の成績を上げる為と、あの息苦しい家から脱出する為だ。
今回の期末テスト、お兄ちゃんのおかげで学年1位を取れて、周りの友達からちやほやされた。
あれは気持ち良かったので、次回のテストでも学年1位を取りたいのだ。
ただ、お兄ちゃんがいないとそれは絶望的だ。
是が非でも、お兄ちゃんには私の側に居て貰わなければならない。
「ん~、要するに、お兄さんに家を出て行ってほしくないの?」
「うん。ただ、どうすれば良いか分かんないから知恵を借りたくて……」
「知恵を借りるも何も、お兄さんが家を出る理由は、今の家に不満があるからなんじゃないの? あの人は、自分の利になることしかしない人だから、行動を起こすとなればそれなりの理由があるよ」
「……不満?」
「うん。例えば~そうだな。もっと自由が欲しいとか?」
この部屋に来たその日にお互い決めたルール。そのルールに反する事をした覚えは無いので、それはないだろう。
他に思い当たる節は無いので本人に聞くのが一番手っ取り早いのだけど、それは最後の手段だ。
「他には何かある?」
「他ねぇ……。一人になりたいとか、ライに不満がある?」
「......私に?」
「うん。こう言ったらあれだけど、元々ネクラさんが一人で引っ越す予定だったんでしょ? それに無理やり着いて行ったんなら、引っ越しの理由が一人で暮らしたいとかそんな感じの理由だったんじゃないかなって」
そう言われれば、独り立ちしたいみたいな事を言っていたような……気がする。
確かに、一人暮らしをしたいのなら私の存在は邪魔だろう。
だけど、手毬と別れてまで自分の欲望を優先するのかと言われると少し迷うところだ。
お兄ちゃんの手毬に対する愛情は異常だ。心の拠り所と言っても良い。
そんな存在から離れる理由として、一人暮らしがしたいという理由では弱い気がする。
「じゃあ、もうライ自身になにか原因があるんじゃない? 最近、何か喧嘩した?」
「ん~、プリンの一件以降喧嘩なんかした事無いけどなぁ......」
「なら私にも分かんないよ。ただ、ネクラさんは優しい人だから、話し合ってみたら解決するかもよ?」
「……分かった。ありがと」
そう言って電話を切った私は、すぐさまお兄ちゃんの部屋の扉をノックする。
返事が帰ってくる事は無かったので話し合いはまた後日ということにして、舞ちゃんに連絡を入れる。
お兄ちゃんには知らせていないけれど、もう少しでグッズの大量生産が終わるらしい。
多分、紅葉狩りが終わった頃には発売出来るだろう。
舞ちゃんの運営しているファンクラブの会員はかなり多いので、その人達に手伝ってもらったらしく、量産がかなり早く済んだらしい。
もちろん自腹で作っているらしいけれど、舞ちゃんは最近メキメキ腕を上げてかなり稼いでいるのでそこらへんも心配はないらしい。
「明日、お兄さんにサイン入りのグッズの件を相談したいから、お家に行っても良い?」
「良いよ~。その後予定が無いんだったら、久しぶりに遊ばない?」
「あ、良いね! うん、どっかいこ!」
こうして、お兄ちゃんの知らない所で明日の話し合いが2つ決まった。
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やる気が、出ます( *´ `*)




