第96話 整形と衣替え
紅葉狩りに出場することが決まり、会議が終わった後、僕はただ一人、会議室から少し行ったところにある小部屋で腕を組みながら唸っていた。
実を言うと、今日、例の容姿を変えられるアップデートが来たので、どんな感じに変えようか考えているのだ。
容姿を変えるのにお金を使わないといけないって言うので少し荒れてたみたいだけど、そもそも装飾品や服もお金を使わなければ買えないので今更何を言っているのかと言いたくなる。
まぁ、このゲームが話題になったすぐの頃はゲーム内のポイントが現実のお金になるとかいう夢のようなシステムが無かったので仕方ないのかもしれないけどさ……。
いや、そんな大人たちの苦労なんてどうでもいいのだ。
今はこの黒歴史のような姿からどうイメージチェンジするかって話だ。
SNSでファンの人達に聞いてみても良いかもしれないけど、そこで今のままが良いなんて意見が多いと容姿を変えにくくなる。
それに、ファンの人達同士で喧嘩になるとか面倒なことになりかねないので聞かない事にしたのだ。
春香に聞いても仕方ないし、マイさんは最近忙しそうにしているのであまり頻繁に連絡を取る訳にもいかない。
唯一頼りになりそうなハイネスさんに聞こうにも、さっきの会議の様子からしてかなり怒っている気がするので怖くて聞けない。
春香からしてみれば、僕にはセンスという物が欠落しているらしく、ネーミングセンスはもちろん、私服のセンスもまぁまぁ壊滅しているらしい。
自分ではパーカーや服なんてどうでも良いと思っているので、あからさまに恥ずかしい物で無い限りはどんな物を着ていようが同じな気がしているんだけど。
それを踏まえ、僕はどう容姿を変更するべきなのか。
確か、この間行った地獄(ギルドの講習会)では、ほとんどの人達が僕が学生であると正しく認識していた。
それに、ファンの人の間では、僕が学生という線はかなり有名な話であるらしく、成人していると思っている人の方が少ないらしい。
「そんなに大人に見えないかな……」
いや、自分でも大人っぽく見えるとは思っていないけれど、そんなに学生だと確証を持って言われると自信が無くなる。
実際学生なので何も言えないのだけど、そもそも現実での一人称が”僕”なのに、ゲーム内では”私”にしているのも幼く見られないようにする為の苦肉の策だった。
個人的に、”僕”だと舐められ、”俺”だと高圧的に感じる。
”おら”とか”わい”とか、特殊な一人称は違和感がありすぎるので”私”にしたのだ。
ただ、その策も効果を発揮していないのなら、このロールプレイ?は止めても良いかもしれない。
アバターも思いっきり現実の僕に似せて、学生っぽくするとか。
(確か、学生服とかを売ってるお店もあったはず……)
少し頭の中でイメージしてみる。
学生服を着ている一人称が僕のネクラ。……無しだな。
世間的にだけど、ネクラはカッコいいというイメージが定着してしまっているので、そのイメージを変えるわけにはいかない。
それに、現実の僕はどちらかと言えばなよなよしているので、せめてこちら側くらいでは堂々としていた方が良い。
ならば……
(うん、中々良いんじゃないかな?)
僕のアバターは、元々身長や体系なんかを現実の僕とほぼ同じにしていた。
だけど今回は、おもいっきり低くする。それも、小学生のような背丈まで小さくし、傍から見れば子供にしか見えないよう設定する。
不思議だけど、対戦で使う時のアバターと、普段過ごしている姿のアバターは各々設定を変える事が出来る。
なので、普段過ごしている姿のアバターはかなり背丈を低めに設定しておく事で、僕のアバターを見る人に”ネクラといえば小さいアバター”という印象を抱かせる事が出来る。
そうしておく事によって、アバター戦でも有利に働く事がある......かもしれない。
ハイネスさんも言っていたけど、僕がチームに居る時は全体の指揮を取ることが多い。
なので、ハイネスさんの案で逃げ回る人の中に僕がいるとは毛ほども思わないだろうし、逃げ回るという事は背丈をかなり高く設定しなければならないので、その点から考えても上手くミスリード出来るだろう。
それに、ネクラはカッコいいというファンの人のイメージを壊さないために、いつも行っていた怪しい店で購入していたアイテムもかなり役に立つ。
アバターの容姿を考え始めて一時間もすれば、僕の姿はまるで別人のようになっていた。
赤黒かった髪は白髪へと変わり、赤いメッシュが入っている。
赤い瞳はそのままだけど、体中にあった不気味な文様は全て取り外し、黒を基調としたパーカーやズボンを着る。
極めつけは、過去に5万円で買った死神セットだ。
このセットは、身に着けていると自分の背後から巨大な鎌を持った骸骨が出て来るのだ。
もちろんこの骸骨がプレイヤに危害を加える事は無い。単なる飾り――装飾品だ。
骸骨から溢れだす負のエネルギーのような黒い靄と、鎌を持った骸骨なんていうカッコよすぎるビジュアルに一目ぼれして買った物だけど、僕の知る限りこんなセットを付けている人なんてそんなにいない。
まぁ、あの怪しい店でしか売ってないだろうし、トウモコロシさんみたいな粒まで付いてる野菜のコスチュームを着ている人は、探せばいくらでもいるだろうけど。
若干まだ中二病を患っているような気もするし、これを大の大人がカッコイイと思うかは別として、前にマイさんが家に持ってきたネクラグッズはこんな感じだった。
こんな感じって言うか、今の僕のように、ちょっとカッコ良かった。
「……ん~、声の感じも変えた方が良いかなぁ?」
このゲーム、アバターの設定は声まで自由自在だ。
まぁ、大抵はそこまでこだわる人などおらず、現実のままの声で喋っている人がほとんどだ。
マイさんやハイネスさんは現実のままだし、春香は少しだけ大人びているけど、言われてみれば声が似ている。
僕は似ても似つかないほどドスの利いた野太い声だけども……。
ただ、今の野太い声と子供のような姿はあまりにもミスマッチだ。
体は子供、頭脳は大人みたいな、未だに続いている国民的なアニメの主人公じゃないんだから、子供の体系にふさわしい声にするべきだろう。
「……こんな感じ、かな? ちょっと子供っぽいかな?」
まぁ、少しくらいおかしくても大丈夫だろう。
今回の模様替えと整形で10万以上使ったけれど、前の姿よりこっちの方がはずかしくないし、なんならこっちの方がしっくりくる。
後は、ネットに上げる用の挨拶を録画して完了だ。
現実世界に帰還した後、早速今撮った挨拶動画とアバターを変えた事を報告し、久しぶりにゆっくり寝ようとベッドに横になる。
最近、夜逃げする為の部屋を探しているのであまり寝ていないのだ。
それに、僕一人が暮らせればよかった昔と違って、今は色んな人と関わりを持ってしまっている。
嫌でも家に誰かを呼ぶことがあるかもしれない。その時、最低限もてなせるような広さが無いと恥ずかしい。
そのために、物件探しに少しだけ手間取っているのだ。
「あ~あ、手毬とも、もうすぐお別れか……」
あの可愛くて小さな住人は、僕がいなくなった後大丈夫だろうか。
今のところしっかり春香に世話をされているようだけど、いつ飽きるのか不安で仕方が無い。
というよりも、僕がいなくなって寂しがってくれるかどうかの方が問題だ。まぁ、寂しがってくれたら嬉しいな程度だけどさ。
「はぁ~、いやだいやだ……」
鬱になりそうなので、僕はそれ以上考えるのは止めて目を閉じた。
多分次の更新は水曜日か金曜日です。
時間は...多分20時過ぎとかです。
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やる気が、出ます( *´ `*)




