第94話 地獄
いや、違うんです。
ただ投稿できてないと思って改めて投稿したら、ちゃんと前の原稿が投稿されてて、1話だけ消す方法が分からなかったので新しい話にしただけなんです...。
講習会が終わって数日、僕は春香からのノックにも答えず数日前の地獄を思い出してベッドの上で震えていた。
僕は、もう二度とファンの人のギルドに行かないと決めた。それくらい、僕にとっての地獄だった。
初めてマイさんに会った時はちょっとテンション高いなぁくらいで少しきつかったけれど、あの時のマイさんを五倍くらいした人達の巣窟に閉じ込められて、好みの人やらどんな人が嫌いだの、好きな食べ物までありとあらゆる事を聞かれた。
認めたのは僕だけど、ハッキリ言ってほんとにどうかしてた。
時々抜けてると言われる事があるけど、自分ではそんなこと無いって思ってた。
実際、徹夜続きでバカになってる時はあるかもしれないけど、そうじゃ無いなら割としっかりしてる方だと思っていた。だけど、今回の一件で改めて痛感した。
多分だけど、僕は結構バカなんだと。
戦略やゲーム関係の事を考えている時はハイネスさんと並べるかもしれないけれど、それ以外の時は基本バカなんだと。
講習会の前にハイネスさんがやけに心配していた意味がようやく分かって、今度からこの人の事をもっと頼りにしようって思ったし……。
なんか、今回の一件でさらに女の人が苦手になった気がする。
(春香にそんな理由で振るとか最低みたいに言われたけど、僕には付き合うとか無理っぽいなぁ)
そもそも今まで人と関わってこなかった人が急に恋人なんて作るもんじゃない。
普通に考えて、まずは友達からだろう。
僕に友達はいないけど、欲しいと思った事は無いし作ろうともしなかった。その点だけで言えば、彼女も友達も同じだ。
現実逃避なのは分かってるけど、今回の一件ではっきりした。
僕は多分、恋人を作るのにもっとも適していない人種だ。
恋愛感情うんぬん以前に、そもそも人と関わるのが無理なんだと思う。
(殴られるかなぁ……。殴られるよなぁ……)
病院送りにならない事を祈りつつ、のっそりとベッドから状態を起こし、机の上のパソコンへと向かう。
ハイネスさんへずっと先延ばしにしていた件を返答し、ついでにマイさんへとメッセージを送る。
「最近関わったファンの方に言われたのですが、僕のサイン入り公式グッズってマイさんから見て欲しがられると思いますか?」
正直、1人でも欲しがる人がいるのなら僕の気持ちなんて後回しにしてやるべきだと思うけど、グッズを作るのは僕じゃないので一応確認を取っておく必要がある。
自分でグッズを作っているならともかく、そうじゃないのに色々1人で決めるのは問題があるだろう。
幸いにも、返事はすぐに来た。
それも、とても好意的な物で、すぐにでもSNSで確認を取った方が良いとの事だった。
正直、ここ数日はあの地獄を思い出したく無かったので少しネットの世界から遠ざかっていたけれど、チームメイトからも心配のメッセージが来てたし、そろそろ復帰しないとだめだろう。
〖ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。体調を崩していて連絡するのが遅くなりました。
それと、少し前ファンの方と話す機会があったのですが、その時に私のサイン入りグッズを出してはどうかと言われました。皆さま、ご意見ください〗
その呟きにネクラのサイン入りグッズを
『欲しい』『欲しくない』『任せる』のアンケートを張りつける。
僕のサインがなんでそんなに欲しいのか正直理解不能だけど、僕が困るといった事は無いはずなので、とりあえず良い。
SNSにその呟きをして数分後、もの凄い勢いで扉がノックされ、怒りに満ちた春香が僕を呼んでいる声が聞こえて来る。
なんか、僕の人生もここまでな気がしてきた。
(警察呼んでほどほどの所で間に入ってもらおうかな……)
まぁ、そんなことしたら報復が怖いので絶対にしないけど、このまま引きこもってたら許されるとかないかな……。
そんな事を考えていると、数か月前に聞いた覚えのあるセリフが聞こえて来る。
「出て来ないなら、このドア吹き飛ばすけど?」
その魔法の言葉を聞いた瞬間、超特急でドアを開き、腕を組んで仁王立ちしている春香と向き合う。
もう、扉のない生活はキツイ。あの期間で、僕は暗闇と閉ざされた空間が好きなのだと実感した。あんな生活はもう無理だ。
「な、なに……」
「何じゃないでしょ? ここ数日なにしてたわけ?」
「……現実逃避してた」
「は?」
「いや……ほんと、すみません」
大人しくぺこりと頭を下げ、相手の怒りのボルテージを少しでも下げようと努力する。
ハイネスさんの件はまだ伝わっていないのかな。そうわずかな希望を抱いた僕は、数秒後に頭上から振り下ろされた拳をもろに受けて床に顔面を叩きつけられた。
「それはそうとさ? ハイネス振ったんだって?」
「……普通さ、それ最初に言うべきじゃない……?」
殴る前に言ってくれたら、まだ心構えが出来た。
そういう意味の非難だったのだけど、春香は別の意味にとったらしく、蹲った僕の顔面めがけて右足の蹴りを放ってきた。
(あぁ……夜逃げしたい)
この地獄が終わったら、真面目に新居を探そう。
この部屋の家賃は月々春香の口座に振り込むとかすれば良いから、もう、夜逃げしよ。
手毬とはお別れになるけど、もう一匹飼って、心の癒しにすれば良い。
そんな事を思っている間も僕の体には傷と痣が付き続け、二分程してその暴行は終わった。
命を奪うつもりは無いらしく、基本は顔主体だったのがいつもと違うところだろう。
多分僕の顔面はすごく醜く腫れ上がって、全治数週間の怪我を負ってる気がする……。
「あ~あ! ネクラさんがお兄ちゃんじゃなければ、サイン欲しかったのになぁ!」
「……」
「チームに誘われた時も、めちゃくちゃ嬉しかったのになぁ!」
もうさ、それは言っても仕方のない事って言うんじゃないの?
なんでそんなことをこれ見よがしに言ってくるの? なに、虐め? 僕、家でも虐められるの?
「ハイネスが『私は諦めない』とか言わなけりゃ、こんな奴病院送りにしたのになぁ!」
「……」
「あ~あ! ほんと、無いわぁ~!」
その言葉を残し、春香は自分の部屋へと戻っていった。
僕は荒い呼吸をなんとか整えながら隣の部屋へと避難し、そこの住人と最後の別れと言いながら戯れた。
多分、手毬は春香よりも僕に懐いてくれているのでこのまま連れて行きたいけど、この子を連れていった場合、春香が本格的に暴力の化身となる可能性がある。別れなきゃいけないのは辛いね……。
「てまりぃ……。お兄ちゃん、もう生きてるのがキツイよ……」
手毬の頭を撫でながら苦笑気味のそう言った僕は、手毬の無邪気なあくびに生きる希望を与えられた。
ほんと、僕は人間よりも動物の方が好きだと思うよ……。
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やる気が、出ます( *´ `*)




