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魔法少女は業をみる  作者: 華永夢倶楽部
「魔法少女は業をみる」一期
5/28

第5話『決意』

 あの出来事があってからすぐに学校からメールが届き、学校を一週間の臨時休校が決定した。私はあの日からずっとベットに寝たきりの一日を昨日から過ごしている。

『玲奈…… 夕食の時間だけど、食べるか?』

「……食べるけど、一人で食べる」

 部屋に用意してくれた夕食を黙々と食べながら、あの時の出来事を冷静に思い出す。あの時は気が気じゃなかった所為もあって、「魔法少女をしたくない」なんて事を言ってしまった。でも今は違う。

 ()()()()()()()()んじゃなく、()()()()()()()()()()()いいんだと考えている。モートが我を忘れていた私に「魔法少女は三十歳を過ぎるまで契約は続くし、契約した後は戦闘でわざわざ変身しなくても構わない」と言っていた。

 そういう曖昧な魔法少女活動は果たしてどうなのかと考えたけど、私みたいな戦いを積極的に出来ない沢山の魔法少女からの要望で改善され今に至るらしい。

 とにかく私が見たのは紛れもない現実で、魔法少女を殺したあの女の人が魔女なんだ。最終的には私はあの人と戦わなくちゃいけないんだ……

「……怖いよぉ」

 何とか夕食を食べ終え重い足取りでお風呂へと向かう。すっかりぬるくなったお湯に浸かりながら今日するはずだった戦闘をするかどうかを決めなきゃいけない。

“相手は玲奈と同じ強さになる様にしてるってモートが言ってたけど、勝てるかなぁ……”

 魔女を無理して殺す必要が無いと分かって、少し心に余裕が出来た。でもやっぱり戦うのは怖いし出来ればしたくない。

 でも私は望んで魔法少女になった。だから少しでも責任を持って戦いに挑まなきゃいけないはず。いずれ戦うであろうあの魔女と戦う為にも……

「んっ……‼︎」

 お湯で濡れた手で両頬を思いっきり叩く。

「……よしっ、負けるな来海玲奈‼︎」

 もうすぐ夜になってモートが私の様子を見に来るから、急いでやる事を済ませないとね。


「さてと、冷静になったかな玲奈ちゃん。今日やるはずだった魔法少女活動をするかどうかを聞きに来たんだけど……」

「玲奈、やるよ魔法少女。あの時はごめんね」

「別に謝る必要は良いって。玲奈ちゃんみたいに人が死ぬ所を目撃しちゃったら、誰でも魔法少女活動が嫌になるから…… その子達のメンタルケアも出来なきゃ雇い主失格だもん」

「モートも、色々と大変なんだね……」

 魔法少女活動、最初の場所は私が毎日通っている八王子の学校に決まった。でも時刻はもう夜の八時過ぎで当然誰もいないし警備も作動している。

 でも魔法少女として侵入してしまえば、魔法少女特有の隠蔽魔法でベルが鳴らない様になったらしい。これも前の魔法少女からの要望で実現した事例みたい。

「そういえばだけど、“闇夜の魔女”だっけ? その魔女はどんな魔法で来るの?」

「あの魔女は人の影や暗闇に溶け込んで、あらゆる人間の住居に侵入して金品を盗んでいく魔女さ。魔女の中でもかなり性格の悪いクズだから、玲奈ちゃんの初陣にはちょっと辛い相手になるかな……」

「そうとは限らないよ。玲奈の機転の利いた作戦で案外勝てるかもしれないよ?」

「それは楽しみだねぇ〜」

 その時、遠くから足音が聞こえてきた。私はまだ魔法少女に変身せず、物陰に身を潜める。

「言っとくけど、魔女には潜伏技がほとんど効かないよ。影があれば背後に回り込めるから」

「それは厄介だね……」

 足音がどんどん近付いてくるけど、一向に姿が見える気配がない。これが“闇夜の魔女”の能力って事なのかはまだ分からない。

「…………ッ」

 息を殺して、ただ一点を見つめる。

『そこで何やってるの?』

 女の子の声がした。それもかなり近く、耳元で言われるくらいの距離で。

「うわぁッ⁉︎ 誰⁉︎」

 思わず魔法少女に変身し、海老鉈を構える。

「……って、あなたは」

 目の前に立ってるのは、一昨日に私の目の前で人を殺した魔女だった。

「ま、魔女…………」

「…………」

 魔女は武器を持っておらず、体術で攻めてくる様子もない。戦うなら今がチャンスだ。

「ねぇ、戦う前にいくつか聞きたい事があるんだけど」

 突然向こうから質問の返答を求めてきた。おそらく戦う意思が無い事を私に示す為なのかもしれない。

「質問によっては、即座に斬るからね。本気だからね、人殺し」

「……それは貴方も同じになりそうだけど?」

 核心を突かれて自分の武器を握る手が緩んでしまう。このままだと相手のペースにのまれてしまうから、早めに警戒を解いた。

「それじゃあ一つ質問だけど、あなたの名前は来海玲奈で合ってる?」

「えっ……?」

 一瞬だけこの人が言ってる事が理解出来なかった。でも魔法少女特有の隠蔽魔法が働いているんだとしたら、知り合いが魔法少女になった途端に名前が分からなくなるのも納得だった。

「う、うん…… 来海玲奈で合ってるよ」

「そう。それじゃあ二つ目は、これから相手にするのは“闇夜の魔女”で合ってる?」

「そう、だよ……」

「ふ〜ん、そう…………」

 そう言うと向こうは顎に手を付けて考え始めた。こうして見てると、私と同じ魔法少女に見えてくるのは気のせいだろうか……?

「あの、あなたの名前は?」

「八宮由衣よ。貴方が毎日のように会っている、あの八宮由衣よ」

 そう言われてやっと何かの記憶が繋がった。学校で見てきた八宮さんと、魔法少女らしき少女の八宮さんの共通点である冷たい声と整った顔立ち。

 今まで全く気付かなかったのがおかしいくらいに、目の前の少女は八宮さんだった。

「それじゃあ早速退治に向かうから、付いて来て」

 そう言いながら一人で勝手に歩き出したから、私とモートは焦りながら付いて行った。

「“闇夜の魔女”は闇に入ったらこちらからの攻撃が通らなくなるから、何かしらの方法でこちらに誘き出す必要がある。その作戦の一つがここ、音楽室よ」

 モートに鍵開けの指示をして、私達音楽室に入った。打楽器のそばまで歩み寄った所で八宮さんは慣れた手つきスティックを手にして私に手渡した。

「まずはこれでティンパニを軽く叩いて。思いっ切り叩くのは駄目、呑気に魔法少女をやってる風に軽くよ。叩いたらすぐ音を出さない様にしゃがむから。“闇夜の魔女”は影に潜んだらこっちを見る事が出来ない代わりに音を頼りに行動するから」

「な、なるほど……」

 手探りでティンパニを探して、狙いを定める。力を入れ過ぎないように慎重に距離をとって構える。

「いきますよ……」

 よく心霊動画で聞く様な音量を意識しながら、そっとティンパニを叩いた。

「…………」

 叩いたと同時に静かにしゃがんで、向こうからこっちに来るのをひたすら待つ。それまでは呼吸の音にも注意しないといけない。

「…………」

 しばらくすると、床から何者かが現れた。真っ暗でよく見えないけどその人が“闇夜の魔女”なんだとすぐに分かった。

『う〜ん、もう移動しちゃったかな? さっきまであの魔法少女を捜してたら、途中から聞き慣れない声もしたから新人さんを連れてたりしてね……』

 ブツブツと独り言を言いながら辺りをうろつく“闇夜の魔女”。どうやら暗い場所での人の気配にはかなり鈍感なんだね、魔女の割には。

「…………」

 辺りを見回して“闇夜の魔女”が何処にもいないのを確認してから、そっと立ち上がる。

『––––見ぃつけたぁー‼︎‼︎』

「……うそッ⁉︎」

 気が付いた時には既に両足を暗闇から掴まれ、ここから逃げれなくなってしまった。

「動かないで、危ないから」

 そう言うと八宮さんは躊躇いなく足を高く振り上げ、私の足を掴む“闇夜の魔女”の手首を思いっ切り踏みつけた。

「さぁ、急いでここから出るわよ」

 痛がる“闇夜の魔女”を目にもくれずに音楽室から立ち去り、全速力で階段を降りていく。こっちから話しかけても反応せず、やっと話を聞いてくれたのは女子トイレに入ってからだった。

 もちろんモートはここに入っちゃいけないから、女子トイレの外で待機してもらっている。

「ねぇ八宮さん、女子トイレに入ってどうするの? もしかして体調が悪いの?」

「そういうのじゃないわ。これも作戦の一つよ」

 すると八宮さんはここで三叉槍を取り出し、仕切りの壁に向かって構える。そこには当然“闇夜の魔女”がいるわけでもないのに、八宮さんは確信と自信に満ちた目で向こう側を見つめる。

「ここに魔女は来る。何度も経験してるから間違いないわ」

 何度も“闇夜の魔女”と戦っては逃してる事に焦りと悔しさを感じてるのか、三叉槍を握る八宮さんの手には力んでる様子があった。

“それにしても、どうして八宮さんは女子トイレに“闇夜の魔女”が来るって断言出来るのかな?”

『うぅっ、寒ぅ〜…… 大分お腹冷えてきたんだけど、大丈夫かなぁ……』

 しばらくして女子トイレの扉を開けて入って来たのは、なんと“闇夜の魔女”だった。音楽室で彼女の声を聞いてたから確信があるけど、それならどうして闇に潜まずにわざわざ扉を開けて入って来たのかが分からない。

『トイレトイレ〜っと』

 そして“闇夜の魔女”は、私と八宮さんの前の個室に入って下着を脱ぐ音が聞こえてきた。でも八宮さんはまだ奇襲をかけないし、躊躇っている様子もない。

「…………今だ」

 そう呟いたと同時に三叉槍を勢いよく振りかぶり、一気に壁を貫き“闇夜の魔女”を突き刺した。壁の向こう側から痛みに耐えきれず苦痛に悶える声が聞こえるが、八宮さんは容赦なく穂先をさらに深く刺しこむ。

「ねぇ、少し可哀想だよ…… トドメを刺さなくても良かったんじゃ」

「……私はね、あなたの様に優しくはない。今まで何人もの魔女から不意打ちを受け学んだの。これは命を賭けた戦い、相手に同情なんていらないの」

 私の魔法少女活動に対する意識を否定しつつも、最もな意見を述べながら壁越しの相手に追い討ちをかける。

『ぐぁぁああぁあ‼︎‼︎ あぁッ、アぁ〜‼︎‼︎』

 多分向こうにいる相手“闇夜の魔女”は、八宮さんの武器を自分の身体から抜き取ろうとしてるんだろうけど、私はそんな事をしたらどうなるかを想像出来ている。

「…………無駄な事を」

 すると武器を一瞬だけ抜いて、今度は多分腰元の辺りを深く突き刺していく。

『ぐぅぅぅゥゥ…………』

 声にならない悲鳴が聞こえてくる。八宮さんはそれを何度か繰り返していく内に向こうから声が聞こえなくなっていき、やがて向こうから何も聞こえなくなった。

「……死んだわ」

 そう呟くが、実際に八宮さんは恐ろしい事をしてるはずなのに、私は不思議と冷静でいられた。これも魔法少女特有の魔法なのかは分からないけど、とりあえずそういう事にしておこう。

「さぁ、魔女の遺体を運ぶから手伝ってくれる? 女子トイレから出さないと処理出来ないから」

「う、うん…………」

 隣の個室のドアを開けると、そこに血塗れで酷い姿の“闇夜の魔女”が三叉槍に刺されたまま絶命していた。まだ刺して間もないから床に滴った血はそんなにないけど、それでも十分に目を背けたくなる光景になっている。

 八宮さんの指示通りに遺体を丁寧に運んで女子トイレから出すと、モートが待ちくたびれたのか仮眠をとっていた。

「おっ、お疲れ〜。魂は無事回収してるから安心してね〜」

「モート、遺体処理をお願い」

「はいよー、いつものね」

 遺体をどう処理するのか気になったから覗こうとした途端、八宮さんに目を覆い隠された。

「見ない方が良いわよ。きっと吐くから」

「えっ…………」

 その時、モートが鼻歌を歌いながら何かをし始めた。何かを黒い袋に入れてる様だけど……

「うわぁ……」

 モートが“闇夜の魔女”の遺体を包丁で分解し、丁度いい大きさにして袋詰めにしていた。なのにいつもの私ならグロくて気持ち悪い光景のはずなのに、不思議と怒りや嫌悪感は沸いてこなかった。

「…………予想外ね、吐かないなんて。もう魔法少女に慣れたの?」

「い、いや…… 気持ち悪いものは気持ち悪いんだけど、魔法少女活動を繰り返せばコレが普通なんだなって思うと、玲奈がいちいち血を避けるのは駄目な事なんだなって思って。例えば生理の時に玲奈は自分の血を見るのが嫌だったのは、少し反応が過剰だったって事なんだね」

「そうね。生理の時に毎回自分の血に嫌悪していたら、それこそ身がもたないわよ」

 やっぱり私は大事な事から目を背けてたんだ。目の前にあるこんな残酷な光景を耐えられたんだからそれよりも出血の少ない生理なんかでいちいち気分を悪くしてたら、せっかく訪れた刺激的な日々を送れないからね。

 これからは少しずつ、自分の嫌いな事を克服してみようかな。例えば暴力的な映画とか。

「さて、これで今日の仕事は完了だけど二人はこれからどうするの? 親睦を深めるなら今がチャンスだけど」

「……そうね、じゃあそうさせてもらうわ。そういう事で玲奈、付いて来て」

「あっ……」

「どうしたの?」

「今、八宮さんが()()って呼んでくれたなぁ〜って」

 すると八宮さんは「しまった」と言わんばかりに口を覆ったけど、すぐに切り替えて私を見る。

「…………玲奈、魔法少女姿なら警備に引っかかりはしないから私と少し話しましょう」


 学校のとある教室、しかも私達がいつも使ってる教室の机を挟んで話をした。

「あの、八宮さんっていつ魔法少女になったんですか?」

「そうね…… 八才くらいになったかしら。随分と長い間魔法少女をしてるから曖昧だけど、その辺りなのは確かよ」

「それじゃあ、八宮さんって何か大きな目的を持って魔法少女をやってたりするんですか?」

「それは…… 昔はあったけど、今は特に目的なんて呼べるものは無くなったわね。玲奈は兄との結婚が目的なの?」

「は、はい…… 出来ればしたかったんですけど、多分無理ですよね……」

「そうね。それは諦めた方が良いわ。いい加減魔法少女だからって夢をみるのは、あまりにも花畑過ぎると思うわ」

「うぅ……」

 改めて自分の子供っぽさを痛感させられる。

「それに、私達には“孤独の魔女”を倒す使命がある。そう言われてるでしょ?」

「え? 使命とまでは言われてませんけど……」

 すると八宮さんは何か表情が怖くなった気がして、慌てて話を合わせる。

「あっ、そ、そう言えば言ってましたよ‼︎ その“孤独の魔女”を倒せばこの街は平和になって、魔法少女活動が完全に終わるんでしたよね‼︎」

 嘘の吐き方がどこか変だと思ったけど、言ってしまった以上はこの嘘を貫く必要がある。その所為か八宮さんの表情は緩くはならなかった。

「……まぁ、そうね。間違ってはないけど」

「えっと…… ちなみに“孤独の魔女”ってどんな奴なんですか?」

「そうね、一言で言うなら………… “嫌悪”ね」

「嫌悪、ですか?」

「アイツは私達にとっての嫌悪を知り尽くしてるのよ。アイツの魔法の一部は私ですら手を焼いてるし、正直言って相手にしたくないわ」

「もしかして、姿が気持ち悪い変身とかするんですか……?」

「そんな大層な事は出来ない。どっちかと言うと…… 痛ッ」

 突然八宮さんが足を押さえて痛がり始めた。よく見ると何ともなさそうだけど、もしかしたら捻挫とかしてる可能性もあった。

「だっ、大丈夫ですか⁉︎ 病院とか行った方が……」

「大丈夫よ。この程度の損傷、私だけの魔法で治せるから……」

 私だけって言われると少し気になるけど、あんまり八宮さんの事を知り過ぎるのも良くないと思い聞かない事にする。

「玲奈が大人になれたら、私みたいに強くなれるかもしれないわね」

「えっ、いきなり過ぎる予言ですね……」

「そうね、確かに急過ぎるけど……」

 突然八宮さんは私の肩を掴み、自信に満ちた表情で予言する。

「これはね、私の経験から導き出した予言。玲奈はきっと強くなるわ、アイツと同等に戦える程にね」

「八宮さん…………」

 最初は八宮さんの事を「魔女」だの「人殺し」とか言ってた自分が恥ずかしくなった。八宮さんは魔法少女活動を長く続け、それまでの経験があったからこそ今の八宮さんがある。

 私は少しだけ、八宮さんの事を勘違いしていたんだ。

「さぁ、もう夜も遅い事だし…… どうかしら? 少しの間、一緒に帰らない?」

「はいっ、喜んで‼︎」

 八宮さんの顔が少し緩み、微笑んだように見えた。そんな笑顔を見て私は八宮さんとなら仲良くなれると勝手に思っていた。


 あれから一週間くらいが経って、少しずつ夏が近付いてきた。八宮さんとはあれ以来よく向こうから話しかけてくる様になってきて、気付けば前よりも表情が普段から柔らかくなった気がした。

 相変わらず男子達からは「冷たくてクール」って言われてるけど、男子ってどうして女の子の明らかな変化に気付かないんだろう?

 かなえちゃんが短いツインテールを結ぶリボンの色をピンクから紅色にしたのに、気付いたのはよりによって二人だけだったし。まぁその二人は前からかなえちゃんの事が気になってるから、あの子達なりの好意アピールなんだよね。

 あぁいうアピールは間違ってはないから、そういう些細な違いに気付ける男子になってほしいと心から願ってるよ。

「ねぇ玲奈、モートから仕事の通達が来たんだけど良いかしら?」

「あぁ八宮さん、今度はどんなの?」

「私達をコンビとみて、少し強めの魔女を相手にしてもらいたいとしか言ってないから名前や日付までは…………」

「そっか…… その日がくるまでのお楽しみなんだね」

 あれから二回ほど魔女を八宮さんと一緒に行動して戦う様になって、モートから正式なコンビとして見られる様になった。

 そしてこれがコンビとして三回目の活動。段々と血には慣れてきたし、少しだけど自分の武器で相手の魔女に傷を付ける事に抵抗も無くなってきた。

 小さい子供達って、テレビに映る変身ヒーローがやってる事に何の疑いなしに応援してたんだと思うと、少しヒーロー側と子供側それぞれの気持ちが分かってきたなぁ……

「うわぁっ、蜂が教室に入って来た‼︎」

 男子のその一言をキッカケに、クラスが軽いパニックに陥る。蜂に刺されれば毒が身体に入って大変な事になるのをみんなが知ってるから、刺激しないようになっている。

 網で捕まえようが殺虫剤で殺そうが、失敗したら蜂の仲間が一斉に教室にやって来るという最悪な展開を避ける為にも、誰もが慎重に行動しなきゃいけない。

「––––よっと」

 しかし、他の男子が何の考えもなしにノートで蜂を打ち倒してしまった。しかし蜂の群れが訪れる事はなく運良くそれで事態は収束した。

「……あの子、後で死ぬわね」

「えっ?」

 八宮さんが唐突に物騒な発言をして驚く。たかが蜂を殺しただけで呪い殺されるのか、それとも実は既に刺されていて毒が身体中に行き渡って大変な事になるのか。それは八宮さんとさっき蜂を殺した男子にしか分からない。

「……何でもないわ。帰りましょう」

「う、うん」


 帰りの間は八宮さんが話しかける事はほとんどないし、私から話しかけても八宮さんは淡白に答えるだけ。

 特に八宮さんはプライベートについて何も話してくれないし、家に行きたいと言っても「来ないで」の一点張り。まだ私を信用しきれないのか、家に人を寄せ付けない何かがあるのかのどっちかなのかも教えてくれないから、私的にはなおさら気になって仕方がない。

「ねぇ八宮さん、あの蜂がどうして男子を殺すって思ったの? 蜂の毒って確かに人を殺す事があるけど、それは沢山注入された時だけであってすぐに抜き取れば命の危険は無いんでしょ?」

「そうね、あの時の彼は刺されたけど死ぬとは限らないわね。少し言い過ぎたかしら」

「そうだよ。少し大げさだよ」

「…………そうね、大げさだったわね」

 少し歩いてしばらくすると、道路の横に大きなアミューズ施設が建っている。ふと何を思ったのか八宮と寄り道がしたくなってきた。

「ねぇ八宮さんっ、少し遊んでいかない⁉︎ 部屋を少し可愛くしてあげるよ‼︎」

「いや、寄り道したい気分じゃ……」

 乗り気じゃない八宮さんに、強めの目線を送ると諦めて私の案に乗って一緒に寄り道してくれる事になった。

「あ、コレしようよ‼︎ 八宮さんってクレーンゲーム出来るかな?」

「いえ、クレーンゲームはやった事が無くて…… でも折角だからやってみるわ」

 コインを入れてボタンに手を置いてぬいぐるみにアームを近付けていく八宮さん。その目つきは素人には思えないくらいに真剣な眼差しで、まさか初心者なのは嘘なんじゃないのかと勘違いする程だった。

 八宮さんが狙っているのは、とてもゆるくて可愛いマスコットキャラのぬいぐるみ。慣れた手つきでボタンを押しアームをぬいぐるみの真下に近付けて下ろしていく。

「これでどうかしら……?」

 アームがぬいぐるみをしっかりと掴み、そのまま上へと持ち上げていく。

「あぁッ、ぬいぐるみが落ちた‼︎」

 アームがてっぺんに到達した時に必ず発生する軽い振動で、ぬいぐるみがポロッと落ちてしまった。八宮さんの顔をチラッと見てみると、冷静な顔を装ってる様で、裏で実は悔しがってる様な表情をしていた。

 実は八宮さんって、クールな割に負けず嫌いなのかな?

「……もう一回するわ」

 そう言って八宮さんは財布を取り出して千円札を両替機に入れる。その時にお札入れに入ってる何枚も入った一万円札が目に入った。

「へぇ〜、八宮さんってかなりお金持ちなんだね〜。一体どんなバイトをしたらこんなに稼げるのかな?」

「……ッ‼︎」

 私に財布の中身を見られたのがとても恥ずかしいのか、八宮さんは財布を私から隠して顔をほんのり赤くした。

「あぁゴメンね‼︎ プライバシーの侵害だったかな?」

「……いえ、そこまでじゃないから大丈夫よ」

 気を取り直してコインを入れ直して再挑戦する。ボタン操作をしている時の八宮さんの表情は真剣そのものだけど、ぬいぐるみを掴んだ途端に力不足で落ちた時や持ち上げる時に掴みきれずに動かなかった時、少しだけ「ぐぬぬ」な表情を浮かべてすぐに元のクールな表情に戻す。

 こんなにも表情がたくさんある八宮さんを隣で見ていると、八宮さんの意外な一面を見れて少し得した気分になっている。

「……駄目みたいね。どうやら取り方を知ってるだけじゃ無理みたい」

「残念だけど、八宮さんがこれで満足なら玲奈は止めないよ。じゃあそろそろ家に帰ろうか」

 割と長くゲームで盛り上がって門限が怪しくなってきたから早く帰ろうと、早足でゲームセンターを去ろうとしたけど八宮さんの姿が消えていた。

「あれ、八宮さん?」

 トイレに行ったと思ったけど、八宮さんは裏にあるクレーンゲームで遊ぶ人を後ろで眺めていた。

「八宮さん、何してるんですか?」

 私の声に反応したけど、「しーっ」と口に指を当てて目の前に立つ人のプレイを黙って眺める。少し軽装でサングラスをした若い女性がいくつか獲ったぬいぐるみなどの景品を入れる紙袋を足元に置いて、鼻歌を歌いながら新しくチョコの箱を獲得して喜んでいる。

「クレーンゲーム、お上手ですね」

 普段の口調でちゃんと敬語を話す八宮さん。

「褒めてくれてどうもありがと。何か欲しいのあったらあげるよ、そこの連れの女の子にもね」

 私の目を見ながら子供のような可愛い声で話しかけるお姉さん。

「そ、そうですか…… ではお言葉に甘えて」

 お姉さんが獲った景品の中から、私は元気っ娘魔法少女のぬいぐるみを手に取った。一方の八宮さんはチョコの箱を手に取った。

「それじゃあ玲奈達はこれで失礼します。これありがとうございます」

「あの、一つお願いがあります」

 八宮さんがお姉さんを見ながら、強い目力で話しかける。

「どうしたの? サインなら今度やるイベントで……」

「再来週やるイベントの事は分かってます。貴女が私達の顔を覚えてくれれば、今はそれで満足ですから……」

「は、はぁ……?」

 八宮さんの意味深な発言に私もお姉さんもハテナを浮かべる。もしかしたら何か目的があってお姉さんに顔を覚えてもらっているのか、実はお姉さんは何かで有名で、八宮さんはファンの一人として顔を覚えてもらいたいのか。その真相は全く分からない。

「じゃ、じゃあアタシはこれで帰るね。じゃあね二人とも、また会える事を願ってるから」

 お姉さんがクレーンゲームを去ってしばらくしてから、私は八宮さんにさっきの発言の意味を探った。

「ねぇ八宮さん、さっきの発言ってどういう……?」

「そうね、これは玲奈も知るべき事だから教えなきゃね。一回しか言わないからよく聞いて、彼女の正体は魔女よ」

「えっ、魔女……?」

 一瞬だけ自分の耳を疑ったけど、でも八宮さんは確かにあのお姉さんの事を魔女と呼んだ。

「魔女って、たしか魔法少女にとって敵のはずなんじゃ……」

「いいえ、彼女は魔女の特異点…… 魔女に没落しきらなかった人畜無害な魔女よ」

 八宮さんから告げられた言葉は確かに、魔女と言っていた。でもさっきのお姉さんが本当に魔女なら、今ここで倒せば良かったのに八宮さんは手をかけなかった。

 つまり本当に人畜無害な魔女って事になる。

「人畜無害って…… そう断言出来るのはどうしてなんですか?」

「それは、魔女になる条件が物語ってるからよ。玲奈は魔女になる条件について『曖昧』というイメージが付いてるでしょうけど、実際は少しだけハッキリしたタイミングが存在するの」

「魔女になるタイミング……?」

 そのタイミングについて、ある何かが思い浮かんだ。

「もしかして、成人したタイミングとか……?」

「正解よ、とても見事な視点ね。私が知ってる限り魔女に没落するタイミングは成人した瞬間よ。でも未成年の内に精神疾患を患い殺人を犯して魔女に没落したケースもあるから、あくまでこれは目安程度に見ておいて」

「それがあの時八宮さんが階段で殺した…… あの魔女も?」

「そうね、彼女はカップルを徹底的に潰して喜ぶ奇人だから早めに殺しておいたのよ。あぁいう魔女は生かしておいて得が無いからね、悪質な魔女は躊躇わずにトドメを刺さないと後が地獄よ」

 何年も魔法少女をしてきた八宮さんの言葉に、とてつとない重さを感じて思わず体を身震いさせる。

「……さて、じゃあ帰ったら公園に集合よ。今夜の戦闘はとても厄介な相手だから」

「はいっ、分かりました‼︎」

 ゲームセンターを出て八宮さんと私はお互いに家のある方向へと歩き、今夜行う魔女との戦闘に備え気持ちを切り替えた。

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