第3話『誤解』
“闇夜の魔女”の魂と、影に残った残骸を回収し終わった後の私に待っていたのは仕事のご褒美である見返り。今回は帰り際によったお店でお兄ちゃんが前から欲しがってた物を見つけて、それを誕生日パーティーでプレゼントするという何とも見返りとは思いにくいご褒美だった。
でも頭を撫で撫でしてくれたのは、とっても幸せな気分になったからこんな見返りでも良かったかな。
「いや〜、玲奈ちゃんが頭の切れる強者で驚いたよ。あの魔女は人をイラつかせるのが好きな変態だから、相手のペースに飲まれないか心配だったんだよ」
「ううん、あれは魔女が大きな影にしか潜まなかったのが見えたから出来ただけだよ。もしあのまま方法が分からなかったらきっと、でたらめに武器を振り回してただろうし……」
「確かにそれもありえたね。でも今回は玲奈ちゃんの勝利だ、それは確かな現実。だから玲奈ちゃんは強くなってるし心も強くなってる。もっと胸を張って魔法少女を名乗っても大丈夫だからね」
「そっか…… じゃあ次から名乗ってみようかな」
テレビみたいな決め台詞は恥ずかしくて言えないけど、自分が魔法少女である事を名乗るくらいなら大丈夫かな?
「それじゃあ俺はこれで失礼するね。それじゃあ玲奈ちゃん、おやすみ〜」
「うん、おやすみモート」
モートが部屋を出た直後、誰かが部屋をノックしてきた。
『なぁ玲奈、少し聞きたい事があるんだけど良いか?』
お兄ちゃんが私に聞きたい事?
「良いけど。どんなの?」
『あのさ、樹会長から今電話があったんだけどさ…… 明日の登校を一緒にしても良いかどうか聞いてたけどさ、玲奈は大丈夫か?』
桃子さんが、私と登校したいって……
まさか、あの桃子さんがいきなりそんな大胆な事を……
“でも待って。ここ最近の桃子さんは少しだけ玲奈に対して見方を変えてきた感じがあるから、きっともしかしたらって事も…………”
「うん良いよ。明日一緒に登校しましょうって言ってくれるかな?」
『分かった。じゃあちゃんと伝えとくな』
そしてお兄ちゃんが部屋から遠のく音を聞いてから、改めて桃子さんについての言動について考えてみる。
“おかしいよね。考え過ぎかもしれないけど、あまりにも態度を変えすぎな気がする…… まるで誰かに指示されてる様な、そんな感じがする”
でも桃子さんについては本当に知ってる情報がないからなのか、答えになる情報が全く思い付かない。他人に弱みを握らされてると考える事も出来るけど、それがどうやって私に繋がるのかまでは考えられない。
“でも、それは多分だけど明日分かるかな。とりあえず今夜はもう寝ようっと……”
疲れた身体を休めて学校に通いたいから、もう考えるのは止めにしてベットに潜って目を閉じた…………
「おはよう玲奈さん、今日からしばらく一緒させてもらうわね」
そして次の日、玄関先で本当に桃子さんが待っていた。緊張しながら桃子さんの隣を歩いている光景があまりにも不思議で異様に見えるらしく、同じ制服を着てる生徒達がみんな私と桃子さんを見ている。
「あの、えっとその、皆が玲奈達を見てて恥ずかしい……」
「堂々と歩けば、その内誰も見なくなるわよ。ほら玲奈さん、前を見て歩いて」
桃子さんから「玲奈さん」と言われて、少しだけ悪くない気分になった。これって本当の友達みたい……
「えっと、樹会長……」
「桃子で良いよ。年上だからさん付けになるけどね」
「じゃ、じゃあ…… 桃子さん、玲奈と急にこんな事しだすなんてどういう風の吹き回しなんですか?」
「あれから恋愛について考え直したのよ。最近は世界中で同性婚が増えてるじゃない? かつては近親婚だってあった時代があったんだから、それが確かに流行ってたなら、私達人間は恋愛対象に縛られる必要は無いんじゃないかって考えてね」
あっ、つまり自分が抱えてる恋愛に関する偏見を見直して……?
「だからさ、玲奈さんは悪くないってなったの。でも流石にお兄さんと一線を越えたら案件行きだけどね」
それからしばらくは桃子さんと一緒に歩き、他愛もない普通の会話が続いた。
「桃子さんはもうすぐ卒業ですけど、その先での将来って考えてるんですか?」
「えぇまぁね、とりあえずは進学をしてから確実に夢を掴もうかなって考えてるわよ」
「大学…… やっぱり名門校ですか?」
「えぇ、それなりにね」
校門をくぐって玄関で靴を履き替えていると、かなえちゃんと目が合った。私に声をかけると同時に桃子さんと一緒にいる光景を前に驚き、不安そうな目で見てきた。
「大丈夫だって、玲奈が何かやらかした訳じゃないから。それに監視されてる訳でもないし……」
「良かったぁ〜、玲奈が退学になるのかと思ったよ……」
「別にあれくらいで退学にはならないわよ。ただ少しだけ学校での居場所が無くなるくらいかしら?」
「それでも十分玲奈にとっては地獄ですよ……」
その後は廊下で桃子さんと分かれて、私はかなえちゃんと一緒にそれぞれの教室へ向かった。今日も教室に入った途端に生徒達のうるさくも聞き慣れた話題で溢れていた。
「あのさ玲奈、昨日の夕方頃に近くの街で玲奈を見かけた気がしたんだけどさ……」
えっ⁉︎ まさかあそこの近くにかなえちゃんがいたの⁉︎
まさかだけど、私の魔法少女姿を見ちゃったとか……⁉︎
「玲奈って、昨日の夕方は何か大事な用事があったりしたの?」
「あっ、あのね…… 昨日お兄ちゃんの誕生日だったからさ、急いで買いに出掛けてたんだよ‼︎ お兄ちゃんが一番欲しがってた物があそこにしか無くてさ……」
「え、そうかな? 私には少しだけ、玲奈が違う雰囲気に感じたけど……」
あっ、コレは少しまずいかも。このままだとかなえちゃんまで魔法少女になりそうだもん、それだけは阻止しないと‼︎
「それは多分見間違いだよっ、きっと玲奈だって確信が無かったから変に見えただけなんじゃないかな⁉︎」
何だか自分で言ってて滅茶苦茶なごまかし方だなとつくづく思った。でもそのおかげでかなえちゃんはこれ以上、私に対しての深追いはしなかった。
「ほら、もう授業始まるから席に着こうよ」
「う、うん……」
とりあえず半ば強引にかなえちゃんを私から引き離して席に座らせて、話を終わらせた。
それから授業中は特に何も考えずに、ひたすら先生の話をノートに纏めては頭の中で復習して覚えるだけの難しい作業。ただ書いて覚えるだけじゃ勉強とは言えないからね。
難しい勉強を乗り越え昼休みがやってきた。今日の私は珍しく三年生の教室に訪れる事にしてみる。
「桃子さん、普段何してるんだろう…… 意外とお絵描きとかだったりして」
桃子さんがいる教室に入ってみると、やっぱり三年生の教室なだけあって賢そうな人が何人もいる。中には難しそうな本を真剣に読んでる人だっているし、逆に友達とバカ騒ぎしてる人もいる。
その中に一人、桃子さんは静かに復習をしてる様子だった。私が三年生の間をすり抜ける間に何人かから不思議そうな目で見られたけど、多分珍しく下級生がいるからなのかもしれないと勝手に考えた。
「桃子さん、今ってお時間大丈夫ですか?」
私の声に気付いてすぐにノートを閉じる桃子さん。そのまま私はしゃがみ込んで視線を合わせて会話を始めた。
「玲奈さんがこっちに来るなんて珍しいわね、今日はどんな用事なの?」
「あの、桃子さんって小さい頃とかの夢って覚えてたりするんですか?」
「私が小さい頃の夢? そうねぇ〜、昔は子供向けの変身系アニメを観てたから、それからはあんな女の子になりたいって思ってたわね。そういう玲奈さんは何か夢とかはあったの?」
「玲奈は昔も今も、お兄ちゃんと結婚ですよ‼︎」
あの懐かしい時間を思い出す。お兄ちゃんとおままごとで「結婚したい」ってお母さんの結婚指輪を勝手に使って告白し合ってたなぁ〜。
「それは随分と難しい夢ね…… でもその気持ちは分からなくもないわよ。私も昔は父親にくっついてばかりだったからね」
「そ、それはちょっと…… 驚くほど意外でした」
「でも、流石にお兄さんと結婚は諦めてほしいかな。法律を破ったらお兄さんはきっと悲しむし、玲奈さんの人生もお終いになっちゃうから……」
「そう、ですよね……」
本当にお兄ちゃんと結婚したいのになぁ〜、どうして日本は兄妹との結婚が駄目なんだろう?
私もお兄ちゃんも、一人の人間なのに。
「でもね玲奈さん、人生は何があるのか分からないから。もし何かあって他人を好きになる可能性だってあるし、お兄さんとの恋愛関係が終わってしまう事も少しは考えておいた方が良いと思うわよ」
「うぅ、それもそうですけど…… 玲奈にはお兄ちゃん以外で好きな人なんていませんし、好かれる要素なんてありませんし」
私に魅力なんて全然無いもん。胸だって大きくないし、可愛くないし……
「あんまり気を落とさなくて良いのよ。ふとした事をキッカケに恋が始まる事だってあるんだから、少しでも自分に自信を持てる事を探すのも悪くないと思うわ」
「あ、ありがとうございます……」
それなりに良いアドバイスを貰って、そろそろ昼休みの時間も終わりそうになった。
「それじゃあ桃子さん、下校になったら一緒にしましょうね」
「えぇ、午後の授業頑張ってね」
午後の授業が終わって玄関で靴を履き替えている時、近くを通りかかる人達が何故か私を見ながらヒソヒソと話している気がした。
やっぱり桃子さんと一緒にいる事がかなり不思議なのか、噂が広まってるみたいだね。
「今日は桃子さん、急用で一緒になれなかったなぁ…… そういえばかなえちゃんは今どこだろう?」
「れ、玲奈〜…… やっと見つけた……」
かなえちゃんが走って私の所までやって来た。そして私と一緒になったらすぐに靴を履き替えて外へ出た。その様子が少し普通じゃなく感じるのは私だけかな?
「ね、ねぇかなえちゃん? 一体どうしたの……?」
「ごめんね、今すぐには話せないの。だからもう少し歩いてくれるかな?」
かなえちゃんがいつもの平和な雰囲気とは一転して、とても真剣な雰囲気で私を連れてひたすら歩かされた。そしてしばらく歩いて生徒がいない事を確認してから、かなえちゃんはようやく立ち止まってくれた。
「え、え? 人が聞いてたらまずいくらいに大変な用事なの?」
「うん、そうだよ……」
振り返って私を見る。しかもかなり目つきが怖いから何か怒られるのかと少しだけ身構えてしまう。
「私ね、今日の昼休みに周りの人があの噂を話してるのを聞いてたんだよ。そしたらね、あの事件の犯人が玲奈だって言ってる人が多いの」
ダラダラと冷や汗が出る。それはあまりにも的確で正確な推測だからだったからだ。いくら一般人に真実が暴かれないからと分かっていても、やっぱりこの瞬間はものすごく心臓に悪い。
「私はね、それは違うと思うんだよ。だって玲奈は血とか苦手だし人を殺すなんて酷い事はしないよね?」
かなえちゃんの声が少し霞んで聞こえる。今の私は、それくらい動揺している。
「もしかして玲奈……」
黙り込む私から後退りするかなえちゃん。このまま私から離れてくれれば……
私は、心残りなく……
「……って、え?」
ネガティブな私を待っていたのは、親友からの絶交じゃなく擁護だった。私は突然の展開に付いていけず戸惑った。
「ずっと我慢し続けて無理してたんだね。親友なのにずっと気付かなくてごめんね、玲奈……」
「あの、えっと…… かなえちゃん? これって一体……」
「私はね、玲奈が人に言えない秘密を持ってるんだなぁ〜って薄々気付いてるんだよ。それは多分私と同じ秘密だと思うの。だから私は玲奈の気持ちが何となく分かるし、それを隠したくなる気持ちだって分かるんだ」
かなえちゃんの腕が、より強く私の身体を抱きしめる。
「玲奈、あんな嘘に負けないで。きっとこの状況を楽しむ人が玲奈を陥れようとしてるはずだから、玲奈はその人を暴く必要が必ずあるから」
「そう、かな……」
「うん、私からはこれ以上の事はもう言えないよ。ここから出来る事は全て玲奈次第だよ」
「……ありがとう、かなえちゃん。玲奈はちょっと用事が出来たから学校に戻ってるね」
かなえちゃんに背中を押された私は、急いで学校へ戻る。私を犯人扱いしてる人に制裁を加える為にも、学校へ入るなりすぐに魔法少女に変身した。
「ねぇモート、改めて確認だけど魔法少女は絶対に真実を見抜かれないんだよね?」
人気のない廊下に来てからモートを呼ぶと、私の目の前を立ちはだかる様に現れた。
「もちろん。魔法少女でない限り、玲奈ちゃんがした事には気付かないよ。それにしても……」
何か言いたそうな感じで口籠るモート。きっと私の様子を見てるんだ、何となく分かるし。
「いや、止めはしないよ? これは全てタイミングが悪かったんだ、俺だって責任はあるし玲奈ちゃんは悪くないから」
「ごめんねモート。玲奈がもう魔法少女が出来そうにないかもしれなくて」
「謝らなくて良い、玲奈ちゃんがそれで満足するならそれで良いからね。ただ自分が魔女化するかもしれないという覚悟だけは忘れないでほしい、短い間だったけど楽しかったよ……」
そして私の行く手を塞ぐ様に立っていたモートは、拒むのをやめて目を見ない様に道を通してくれた。
「…………それじゃあ玲奈ちゃん、行ってらっしゃい」
「…………うん、じゃあね」
不甲斐なさと心の弱さを自覚しながらも後戻り出来ない状況を作った自分にケジメを付ける為、私達は一切後ろを振り向かずにその場を走り去った。もちろんモートは私を止めるはずもなく、黙って涙を堪えながら立ち尽くしている。
だからこれが、私とモートとの最後なんだと悟った。
フェイクニュースを流した犯人を確実に追い詰める為にある教室へと向かっていく。その道中で何人もの生徒に魔法少女姿を見られたけど、今はもうどうでもよくなっている。
それにいまさらこの格好を見られたところで、それで誰かなんて分かる訳ないし。
“あっ、八宮さん…………”
犯人の許へ向かう途中、向こうから八宮さんとすれ違った。八宮さんは私を見るなり表情一つ変えずに視線を逸らし、すぐにすれ違う。
あの目つきから何を思って私を見たのかは分からないけど、少なくとも私を変質者だと思ってたのかもしれないと考えながら突き進んで行く。
“よし、犯人はまだいる……”
その教室に、犯人は呑気に友達と会話している。こんな私が言うのも何だけど、やっぱり加害者ってとってもお高い立場でいられるんだ……
私も犯人も、最低な人間だ。
「すみません桃子さん。少しお時間良いでしょうか?」
「あら玲奈さんじゃない。一体どうしたの、私に話しかけるなんて」
「えへへ、ここで話すのも何ですから場所変えませんか? 生徒会執行室とか借りられますかね?」
「分かったわ。急いで鍵持ってくるから扉の前で待っててくれるかしら?」
そう言って桃子さんは教室を小走りで出て行った。それを見届けた私も小走りで執行室へ急ぎ、計画を進めていく。それからしばらくして桃子さんが執行室の鍵を持って来て鍵を回し、完全に二人きりの空間を作る事に成功した。
「お待たせ玲奈さん、それで話したい事って何かしら?」
「あの…… 何だか教室にいると皆が玲奈を変な目で見てくる気がするんです。これっておかしいと思うんですよ」
「玲奈さんが言う変な目っていうのって、それは性的な視線? それとも軽蔑的な視線?」
「う〜ん、どっちかと言うと軽蔑的な視線が近いと思います。まだほんの一部の人からですけど、視線を感じたと思って見つめ返したらその人達は玲奈から視線を逸らしたんですよ。これってもしかして無視されてるって事ですよね⁉︎」
「ちょ、ちょっとそれはいくら何でも早とちりが過ぎるんじゃないかしら?」
少しだけ桃子さんの表情が曇った気がした。もしかしたら私が最近周りから変な目で見られる事を、あの人は何か知ってるのかもしれない。
「違いますっ‼︎ 周りの人が玲奈を見てはヒソヒソと話してるんです‼︎ これって明らかに仲間外れとかになりますよね⁉︎」
「で、でもまだそうと決まった訳じゃ…………」
「いいえ、きっとそうです‼︎‼︎」
ハッとした頃にはもう遅かった。私から何かしらの意思を感じ取ったのか、桃子さんの表情が少しずつ強張っていく。
「う、嘘…… 貴方って、もしかして……」
まずい、マズイ、不味い、マズい。
気付かれた…… 焦って失言した所為で何もかも終わっちゃう‼︎
隠さないと、証拠全てを隠さないと‼︎
「…………ッ‼︎」
そして私は激しいパニックに支配された結果、今まで見せていなかった海老鉈を使って桃子さんの右腕を、勢い任せに斬りつけてしまった。
「ッな、コレって…………」
「ぅああぁあぁぁぁ‼︎」
今度は首元、次に手首を思いっ切り斬って押し倒す。
「アァッ‼︎ ッ‼︎ グゥ‼︎ ンッ‼︎ ハァ、ハァ、ハァッ‼︎」
伸びている刃先で何度も、何度も犯人の胸元を刺しては抜いて刺しての繰り返し。その間に桃子さんは声にならない悲鳴を上げているが、その声が部屋の外に漏れる訳がなかった。
「死ねッ、死ねェ………… 早くさっさと死にヤがレェ‼︎‼︎」
そしてこれが何回目なのか数え切れないくらいに刺し続けた後に私を待っていたのは、頭に血が昇った事による興奮と、血溜まりの上に倒れ込む桃子さんの酷たらしい亡骸による二度目の罪悪感だった。
「ハハ…… ハハハ……」
何故か笑いが止まらなくなる。
「ハハハハ……」
笑えてくる。
「ハハッ、ハハハハハ……」
とてもおかしい。
「アハハハハハハハハ‼︎ アッハハハハハハ‼︎」
やっぱり変だよ、こんなのっておかしいよ。
こんなのが、私なわけない……‼︎
「死んだ、死んだァ‼︎ 無様に死んだぁ、アハハハハッ‼︎ 自分が嘘を垂れ流した元凶のクセして魔法少女である私に、この私に刃向かった‼︎ あ〜ぁ、だからそうやって死ぬんだよ。最初から大人しく玲奈に従ってれば良かったのにね〜…… そうやって真実を突き止めるから死んだ、だから死んだんだよ‼︎ あぁそうだ、玲奈がやったアレの真実に辿り着きそうな人は皆殺しにしよう。うん、その方が良いよね。こんなに可愛い女の子に殺されるなら特に男子達は嬉しいだろうし本望だもんね、きっと喜んで斬られてくれるよね……」
その時後ろから気配を感じた。強い魔力を感じサッと身構えるとそこには私と同じ様に不思議な格好をした女の子がジッとこっちを睨みつけていた。
「……そっか。もう魔女なんだね、私って」
相手は何も言わず静かに先が三つに分かれた槍っぽい武器を向ける。その槍を向ける魔法少女の目つきからして、どうやら私はもう魔法少女じゃなくなったのかもしれないと悟った。
私は、とうとう魔女化したんだ。
「……やってやろうじゃないの。そんな槍なんてね、弾き返せば良いだけだよッ‼︎」
不意打ちで姿勢を一気に落とし相手の懐に迫ってみる。すると相手は一歩下がって私の視界から逸れて、足で力強く蹴り飛ばされた。
「ぐぁっ‼︎」
体勢を崩してよろめいていると、目の前が暗くなり見上げた時には槍が突き上がっていて、振り下ろされる直前だった。
「くっ……‼︎」
振り下ろされる槍先の間を海老鉈で必死に抑え、お互いに力の限りをぶつける。しかし相手が突如槍の向きを変え海老鉈を狙いを定め、たった一突きで弾き飛ばされてしまう。
「あっ……‼︎」
思わず弾き飛んで床に刺さる海老鉈へ右手を伸ばした瞬間、伸ばした右腕に魔法少女の槍が素早く突き刺さった。
「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ‼︎‼︎」
ならばと思いもう片方の腕を伸ばすも、今度は足蹴で手首を容赦なく踏み潰されていき、骨が折れる音とその感覚が全身へ一瞬で伝わった。
「うあぁぁぁッ、あぁッ、ぁぁあぁ〜、あぅぅッッ––––」
相手が私の痛みをしばらく眺めた後、今度はもう片方の足が私の首元を無慈悲に勢いよく踏み潰し、喉仏をかかとで全体重をかけて踏み潰すと同時に首の骨が良い音を鳴らしてへし折れた。
「ハァッ……‼︎」
その痛みによるショックで気絶する事は無かったが、声にならない悲鳴と自分の死を悟った涙しか出てこなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ…………」
痛い。苦しい。辛い。
そして、死にたくない。
こんな形で死ぬなんて、嫌だ。嫌だ。
『…………ごめんなさい』
相手の魔法少女が、ポツリと呟いた気がした。
「ぇえ?」
やっとまともな声が出た直後、右腕に刺さっていた槍が抜けた思ったらすぐに胸元に突き刺さる感覚があった。
「あ、あぁ…………」
分かる。身体から血が流れていく感覚が。
「……ハハハ」
もう私はダメなんだ。私の人生ってこんなにも残酷な殺され方で終わるんだ。もうすぐ死ぬからなのか、物凄く頭の回転が良くなった感覚がある。その感覚を頼りに思い出すと来海玲奈という私の人生がとち狂った原因が分かった気がする。
「……ッ‼︎‼︎」
槍がもう一回私の胸元を刺してきた。そして何回も何回も刺しては少しずらして刺し続けていき、刺す度に出血が酷くなり同時に意識が遠のいていく。
「……ッ‼︎‼︎」
また刺した。また刺した。また刺された。
“……………………”
もう頭で考えるのも限界に近付いてきた。そして相手の魔法少女は私がもう死んだと思ったのか、その場から少しだけ離れ座り込んで泣き始めた。
身体が動かないから相手の姿は見えないが、静かに泣いている様子で何だか自分がした行動に対する悔しさを噛み締めた泣き方に感じる。
“……………………”
小さな部屋に惨たらしく殺されて血溜まりの上に転がる少女が一人、おぞましく恐ろしい凶器で惨殺されて死にかけの私、そして魔女になった絶望的に最悪な私を殺してしまった魔法少女が一人。
私達三人はこの瞬間、学校で起きてしまった凄惨な事件をキッカケにそれぞれ大きく狂い、歪み、そして変わり果ててしまった。
––––––––これが、一人の魔法少女が辿った末路である。