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俺は幼馴染を守りたかっただけなのに  作者: ハイブリッドベタ
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気が付けばそこは。

最初は夢でも見ているのかと思った。

夢にも種類があり、景色がモノクロだったり、あるいは色がついていたり、人それぞれ違う。

俺の場合は少なくとも夢の中はふわふわした感じで、基本的に全体的にまとまりがない。

ただ、今回は違った。知覚が連続し、はっきりしているというか現実のように感じられるのだ。

これにはひどく狼狽した。

誰だって今この現実が現実じゃないかとかそうじゃないかとか考えないだろう?

夢だったら覚醒夢といって、夢の中に居ながら「ああ、これは夢だな」と自覚することができる。

ではなぜ現実世界にいる我々は「ああ、これは現実だな」なんて99%の人間が思わないはずなのに、なぜ夢になると夢を自覚するのか。

それは言葉にするのはひどく難しく概念的なモノなのだがそちらは認知科学の学者様に任せるとする。


では、俺の目の前に広がっているこの光景は何だろうか。

広い農耕地に牛(?)のような家畜らしき動物がいる。それに人が台車を牽かせている。

しかし俺の知っている牛は少なくとも黒か白かあるいは茶色で絶対に青色なんて存在していなかったはずだ。

後ろを見てみると家が建っており、掘立小屋とまではいかないがログハウスのようなものが点在し、煙突からは煙が出ている。

ザ・牧歌的風景だが、ここに来るまでの記憶がない。

すわ、拉致か?なんて思ったが拉致される縁もゆかりもない。

まず、そもそもの問題としてどうにも視界が低い気がする。

足を切り取られた可能性は俺の足が動く時点で除外している。

つまり、単純に背が低くなっているのだ。


ここで俺は至極単純かつ、正直拒否したいような結論に至った。

「これが異世界転生か・・・。」

発声した言葉は日本語とは違うものだったが、なんとなくこれが自分の話すことができる母国語なのだと気づく。


さて、この状況に至っては特殊な記憶喪失の状態で見知らぬ土地、いや世界に放り投げられたのだが、ある程度の問題は隣にいる少女と話を合わせれば行けるだろう。赤い髪を持つ、子供特融の元気溌剌とした様子の彼女はさっきからずっと俺の手を握っている。


「ラルフ!行こうよ!」

「え、どこに行くんだっけ?」


「だから、ヨークおじさんの家!チーズもらいに行こうって言ったのラルフだよ!」

「あはは、ごめんごめん。」


俺の名前はラルフというらしい。なんともまぁ、日本人離れした名前である。

この世界での自分の名前を知った俺は名前に考え耽っていたが、少女は待ち遠しいと思ったのか一つのログハウスに向かってかけていった。

「ヨークおじさんの家まで競争よ!負けたらチーズ2個ね!」


走りながらこちらを振り返り叫んでいる。いきなりのことで呆気に取られたが、そうだ、これこそが子供特融の行動なのだ。

いいだろう。この若々しい体を得たラルフ(?)様に勝てると思うなよ!


頑張った。頑張ったが、勝てなかった。

「ちくしょう。まだこの体に慣れてないだけだし。本気出したらこんなもんじゃないし」

息も切れ切れになりながら愚痴る。

「まだまだ私には勝てないわねー。全然ダメじゃない」

どことなく馬鹿にしたような顔で言うのはやめろ。


ログハウスの前で喋っていると、扉が開いて中からガタイの良いやさしそうなおじさんがが出てきた。

「おぉ、よく来たな。今日もルーは元気だなあ。」

「おじさん!こんにちは!」

ルーと呼ばれた少女は走る前と同じような元気さでおじさんに返事をした。

「おじさん、こんにちは。」

俺も続けて挨拶をするが、俺にとっては顔見知りでも何でもない赤のおじさんである。


だけど話は合わせないといけない。

「おじさん、今日はチーズ貰いに来たんだ。」

「あぁ、来ると思って用意してたよ。3個だね?」


そういうと一つ5キロはありそうな円盤状のチーズを持ってきた。

「ブルージャージーチーズだよ、ほらしっかりと持ちなさい。」


チーズにはヒモが括られており背負うことができるようになっている。

「おじさんありがとう!はい、お金!」

そういうと銅貨らしきものを30枚程渡した。


おじさんは確かめもせずにポケットに入れると、

「しっかりと落とさない様に持つんだよ」

過去に俺は落とした経験でもあるのだろうか。

おじさんは注意を促すと、背負いやすいようにチーズを持ってくれた。


背中を向けて、ひもを括りつけてもらうとかなり安定して持てるようになった。

ただ、子供の体で10キロは重いよなあ。

ルーは一つをおじさんにつけてもらうと先程来た道を戻っていく。

「ラルフー、落とさないでよー?」


落とすかどうかよりも体力的な心配があるんだが・・・・。


そんな先程の競争など棚の上に置いた心配をしていると、ほのかにルーはひかり出した。

人間が発光するという前世ではあまり見かけない光景に絶句していると意気揚々と5キロのチーズを背負って駆け出す。


「えっ、なんなの?この世界って実は戦闘民族的なところだったりするのか・・・」


前世の大人でも5キロで小走りで駆け出すのは結構きついというのに

立ち止まることなくルーはかけていった。


ふと先程から背中で激しい主張をしている10キロのものチーズを見る。


おじさんもルーも俺が10キロのチーズを背負うことに対して何も心配はしていなかった。

正確には心配はしていたが落とすなとかそういう心配だけで運べるか否かには言及されていない。

ということは、だ。


「う、うおおおおおおっ!滾れ!俺の何かァ!」


・・・・


「くっっうぅぅぅっ!!このおお!!」

・・・


「・・・えー?・・・」


どうあがいても体が発光することはなかった。

謎に力んだせいか、全身がだるい・・・


10キロ背負って歩くって何の罰ゲームだと思ったが、それ以上にこの世界の可能性について

ワクワクの方を感じていた。



まだこの世界にきて異世界の要素といえば青い牛だけだったが、目の前で女の子が光ってほぼ超人的な動きを見せられれば

俺もやってやろうという気になる。


あの口ぶりからして俺が前世を思い出す前までは普通にやれていた感じだった。

だとすればいけないことはないだろう。


途中へばったりして先に帰ってきたルーに呆れられながらもチーズを1つ持ってもらい、どうにか家に辿りつくことができた。


家に辿り着くといっても記憶にございません状態なのでルーに先頭に行ってもらうようにしながらの行程だったが。


ただいまーと何食わぬ顔で扉を開けると美しい女性がそこにはいた。


一瞬惚けて姉ではないのかと思ったが、その人を見ていると体の奥底からなんとなくこの人は母親なんだろうなと腑に落ちた自分がいることに気づく。


「おかえりなさい、ラルフ。どうしたの?先にルーちゃんがチーズを届けに来てびっくりしちゃった。」


「今日はちょっと調子が悪くてね。」


やはり何食わぬ顔でやり過ごす。


この世界での異世界の扱いがどうなっているかはわからないが、自分の息子の記憶がとんでもないことになっていたということは少なからず問題になるだろう。


とりあえずチーズを渡したところで今日のお使いは終わったとのこと。


そのうちイカつい格好をした父親も帰ってきて、みんなで夕食を食べてそのまま休むことになった。


それから一週間がたった。チーズのお使いや、農作業の手伝いなどをしつつわかったことが多々ある。


まず俺はラルフ・イングルスという名前だということ。前世で言えばイングルスというのは家名だろうか。

普通家名というのは貴族かそれなりの地位にいる人しか与えられなかったと思うが、まあいい。


イングルス家は俺と父親のゴードン、母親のエリス、俺の3人家族だ。

俺は7歳であと3年で10歳となりこの世界の成人となるらしい。


前世の7歳といえば小学2年生あたりである。転生する前は26歳という年齢だったので19歳も若返ったことになる。

7歳の自分がどうだったかを思い出しながら無邪気に両親や村の人に情報収集を行うことは難しいものではなかった。


また、この世界には外敵が存在するという。

正確にはこの世界というよりは人間に対する外敵の存在なのだが、やはり魔物という形でいるらしい。

魔物の定義として魔素と呼ばれる物質が動物や植物などに蓄積され、一定ラインを超えると魔物と呼ばれる存在になると言われている。


人間の歴史はまさに魔物との闘いの歴史だという。

生息圏や文化といったものは基本的に魔物に合わせたものとなっている。


まだ見ることなんてないと思うが、村からでれば大きい街や王都といった都市などもあるらしい。


そして一番個人的に重要だったのが、魔素の存在だ。

魔素は魔物を発生させるだけではなく、人の生活になくてはならないものとして存在している。そしてこの魔素から作り出されるのが魔力だ。


魔素と魔力は似たようなもので、簡単に言うとエネルギー(カロリー)と体力の関係にある。魔素エネルギーを消費して魔力(体力)に変換するという。

チーズ運びの時に見た、ルーの体が光った件についてもあれは体内の魔力を利用したものだ。

これは人類全体ではないが一定の確率で魔素をためることができる器官を持つ者が存在し、魔力をつかって身体能力を向上させたり、あるいは発火や電撃といった魔法を現界することができるそうだ。


「これは・・・滾るな。」


記憶を思い出した初日は魔素や器官のことなんてわからなかったが、説明され体の中に意識を持って行ってみると胃のあたりくらいに何か熱く重いものを感じることができた。

「おお・・・あっはっは・・・」


ある!俺にも確かにある!

「あはははは・・あっはは!」


自分の体の中に意味が分からない臓器があってしかもそれを意識することができるという不可解さに自然と笑いが出てしまった。


おっと、危ない。さすがに息子とはいえ夜に自室で、しかも一人で笑っているとなると不審に思われる。


そうなると方針は決まった。別に英雄になりたいわけでもなく、また強い魔物を狩って地位や財を得たいわけでもない。

正直言って異世界にはあこがれていたが実際自分が行くとなると不安で仕方なかった。

前世でもそれなりに平穏な生活を送っていたが魔物という明確な外敵がいる状況で安穏と暮らしていくつもりはない。

まずは自分の住んでいる村を魔物という脅威から守る。

今のところはという接頭辞はつくがとりあえずは自分の体を鍛えることから始めよう。



初投稿です。拙いですが、温かく見守って頂ければ幸いです。お願いします。

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