表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/63

だから皮を剥ぐ-3

 暑さと騒音は、全てを奪う。


 だがZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)の中では省エネと整えられた環境が、外を隔離した。あるいは、世界から孤立しているのか。


 天井板がなく、配管やコードが露出する天井からは、クーラーと照明が一体化したものがぶら下がる。壁の中には蓄熱パイプが埋め込まれ、地下から熱を取り出して、自然が快適な温度を保とうとしている。建築学のハイテクだ。デスクのコンピューターも最新であれば、地下には量子コンピューターがある。ネットワーク環境が整い、人間は強い集合を解かれ、曖昧な共同体へと移行する。


 時代の先端だ。


 しかし、オフィスの話題はとても古く、悲劇的で、おぞましく、マスコミュニケーションの成功例が作り上げた空気だ。


 楽しげに、事件を話題していた。恐ろしいと言いつつも、笑っていた。


 通勤前の売店で買った、別の新聞紙を解体しながら、耳を澄ませる。何人かの男女の声、世間話、そう言うには話題のネタは生臭すぎる。衝撃のある話題だ。


「スキナーがまた殺したんですって」

「ニュースになっていたな、見たよ。被害者はまだ子供だそうじゃないか。可哀想に……」

「死体が見つかったの、このビルから遠くないそうだよ」

「げっ、ということは近くにスキナーがいるってことになるのかな」

「皆、スキナーを怖がっているからか、銃砲店の知り合いが、最近は護身で銃を買う人間が多いて言っていたよ。ピリピリしているから、余計ないざこざは作るんじゃないよ」


 スキナー。


 件の連続殺人鬼。人間ではない、鬼だ。常識的な人間の範疇から見た姿は、怪物的であり、狂人と呼べるものだろうか?人間の皮を剥いで、どこかに持ち出すというのは現代の倫理観から見れば異常だ。昔も変わらないかも知れないが。


 噂では、剥いだ皮を身に纏い、ドレスを作って、その姿で獲物を探しているのだと、まことしやかに囁かれている。


 十七年周期、蝉の喧騒の季節になるとうなされる悪夢の一人だ。スキナーの襲撃は、これが初めてではない。そして、古くを知る人間には、またこの季節が来たと門を堅くする。蝉の声に紛れて、彼はやってくる。


「うちの人間も殺してくれればいいのに」

「おい、アル……おい」

「なんだよ?面倒臭いのが、まだクビを切られずに居座っているだろ?俺は何か裏を握っているから、間抜けでも会社に席が残っていると睨んでる」と言ってのけた男は、ははは、と笑いながら視線をこちらに向けた。悪意を感じた。


 スキナーは恐怖だ。だが、恐怖は彼だけではない。スクラップを切りながら、今年も賑やかになりそうだ。そう肌に感じながら、新聞紙を新しく切り裂いた。


 特集だ。


 この季節には、よく組まれている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ