だから皮を剥ぐ-3
暑さと騒音は、全てを奪う。
だがZEBの中では省エネと整えられた環境が、外を隔離した。あるいは、世界から孤立しているのか。
天井板がなく、配管やコードが露出する天井からは、クーラーと照明が一体化したものがぶら下がる。壁の中には蓄熱パイプが埋め込まれ、地下から熱を取り出して、自然が快適な温度を保とうとしている。建築学のハイテクだ。デスクのコンピューターも最新であれば、地下には量子コンピューターがある。ネットワーク環境が整い、人間は強い集合を解かれ、曖昧な共同体へと移行する。
時代の先端だ。
しかし、オフィスの話題はとても古く、悲劇的で、おぞましく、マスコミュニケーションの成功例が作り上げた空気だ。
楽しげに、事件を話題していた。恐ろしいと言いつつも、笑っていた。
通勤前の売店で買った、別の新聞紙を解体しながら、耳を澄ませる。何人かの男女の声、世間話、そう言うには話題のネタは生臭すぎる。衝撃のある話題だ。
「スキナーがまた殺したんですって」
「ニュースになっていたな、見たよ。被害者はまだ子供だそうじゃないか。可哀想に……」
「死体が見つかったの、このビルから遠くないそうだよ」
「げっ、ということは近くにスキナーがいるってことになるのかな」
「皆、スキナーを怖がっているからか、銃砲店の知り合いが、最近は護身で銃を買う人間が多いて言っていたよ。ピリピリしているから、余計ないざこざは作るんじゃないよ」
スキナー。
件の連続殺人鬼。人間ではない、鬼だ。常識的な人間の範疇から見た姿は、怪物的であり、狂人と呼べるものだろうか?人間の皮を剥いで、どこかに持ち出すというのは現代の倫理観から見れば異常だ。昔も変わらないかも知れないが。
噂では、剥いだ皮を身に纏い、ドレスを作って、その姿で獲物を探しているのだと、まことしやかに囁かれている。
十七年周期、蝉の喧騒の季節になるとうなされる悪夢の一人だ。スキナーの襲撃は、これが初めてではない。そして、古くを知る人間には、またこの季節が来たと門を堅くする。蝉の声に紛れて、彼はやってくる。
「うちの人間も殺してくれればいいのに」
「おい、アル……おい」
「なんだよ?面倒臭いのが、まだクビを切られずに居座っているだろ?俺は何か裏を握っているから、間抜けでも会社に席が残っていると睨んでる」と言ってのけた男は、ははは、と笑いながら視線をこちらに向けた。悪意を感じた。
スキナーは恐怖だ。だが、恐怖は彼だけではない。スクラップを切りながら、今年も賑やかになりそうだ。そう肌に感じながら、新聞紙を新しく切り裂いた。
特集だ。
この季節には、よく組まれている。