だから皮を剥ぐ-1
太陽が眩しい。そう感じたのはいつからだったか。知らない。どうでもいい。だが、暗いトレーラーハウスでも居心地は悪くない。どこからか入ったゴキブリが這い回っていたかと思えば、青白い掌を歩いていた。黒に近い茶色の外骨格から伸びる触手を忙しなく動かしている。暑さで腐った肉にでも釣られたのだろうか。耳の中にはずっと這う音が響いている。
毛や肉がコーナーのネットに掛かるキッチンだが、今は片付けなくても良いだろう。
窓から差し込む斜陽が眩しすぎて肌が焼かれる。切り落とした鳥の首と内臓をシンクに落とす。調理する胴体には、塩で味付けた。脱水し塩分が効く。一味や香辛料で漬け込む。鉄臭さが香ばしくなった。あとはオーブンの仕事だ。
皮は綺麗に剥がないと駄目だ。あってもいいが、皮があることで妨げになる。キチンと取り除かなければいけない。皮を剥いだ蛙、肉から血の滴る蛙を見ていて、改めてそう思う。今年は蛙が多い。
「ゔぅ!」
下拵えは、もう一つあることを忘れていた。引き出しからバラバラの部品を取り出す。一見では、何か難しい金属のパズルだ。だが、それを組み立てれば、それは鋭利な斧の形を作ってくれた。遥かな昔、ヴァイキングは斧一本でロングシップを切り出したという。それは尊敬する技術だ。
冷蔵庫の隣にある、大型のクーラーボックスのロックを外した。生きの良い189cmがいた。歯を砕き、舌から血を出している。あと、目と耳からも血だ。見えていなければ聞こえてもいない。それは、ただ、呻き、ただ、体をくねらせ暴れている。
予想通り、胃と腸を空にしているから、排泄物で汚れていない。青く肌が変わっている。シメどきだ。
これは、とても悪いことばかりしてきた。何度も手を差し伸ばしたのに、払われ殴られた。残念だ。きっと肌のせいだ。肌があるから、これはこれという絶対をもってしまうのだ。
「だじゅけて、だじゅけて」
声のようなものが聞こえた。きっと、気のせいだろう。
よくわからない声の顔をクーラーボックスの底に、顔を押し付けた。死にかけで、弱っていた。だが抵抗が強い。手早く片付けよう。斧には、ピックのような細い刃がある。後頭部の穴へと、皮と髪を突き破る。すると、びくん、と、痙攣した。グリグリと抉り、脳を掻き回し、切り取った。
好きで殺してしまうわけではない。ただ、居たら不快だから殺してしまう。殺してしまったのなら、何か上手く使おうと考えただけだ。
人はどうして皮を剥いでしまうのか。それは気持ち悪いからだ。透かした皮を見ていると、そう思った。