ありがとう【短編】
あの日、僕の人生が変わった。あれは、1年前。僕に彼女が出来たのだ。中学生の卒業式後、僕は彼女を呼び出し、
「好きです。僕と付き合ってください。」
と、言った。すると、彼女は、少し戸惑い、頬を赤らめたあと
「お願いします。」
と、言ってくれた。
その日から、僕の人生が変わったのだ。
「ねーねー。」
「ん?」
今僕達はいわゆるお家デートと言うやつをしている。ここは僕の家で、家族はいない。つまり、2人きりだ。
「遊ぼー。」
「ちょっと待てって。」
2人きりと言っても、たまたま僕が家で勉強していたらたまたま家族が出かけ、たまたま彼女が来たと言うだけだから、特にすることが無い。いつものデートだと予定を立てるのだが……。
とは言ってもこのまま彼女を放置する訳にはいかないので、何かすることが無いか考えているが何も思い浮かばない。いや、あるにはあるがこういうのは大人になってからにしよう。
「お前、いつも同じ服だな。そのベンダントも。」
「可愛いから良いでしょ。」
「将来の夢なんだっけ?」
「医者」
「じゃあ、お医者さんごっこでもするか。」
「なんで!?」
最初は乗り気じゃなかった彼女も最後の方にはめちゃくちゃ楽しんでいた。
気づけばもう、午後6時を回っていた。
「今日はありがとうね。」
「全く、いきなり来た時は何があったかと思った。」
「へへ、ごめん。ごめん。」
「次は君の家に行きたいな。」
「うーん。考えとくね。じゃあね〜」
と、言ってくるりと回った。
「あ、そうだ。自分は見失わないでね。」
そんな意味深な言葉を残して彼女は帰ってしまった。
すぐに彼女からLINEが来た。そこには「大好き、愛してる」という文字が打たれていた。僕は、いい彼女を持ったもんだと思って今日は寝ることにした。
清々しい太陽の光を浴びて目を覚ます。しかし、寝起きは最悪だった。昨日の夜に色々とやりすぎて体調を崩してしまった。
「あーあ、今日は大切な日なのになぁ。」
今日は付き合い初めて3年の記念日だった。それなのにこんなに体調を崩してしまった。気になったので熱をか測ったが39℃を示していた。
「オワタ」
僕はもう一度眠りに着くことにした。
起きた時には夜の10時を回っていた。彼女からたくさんのLINEが来ていた。最初は「大好き」や「愛してる」、「ありがとう」などの言葉が並んでいたが最後には「なんで反応してくれないの?」や「愛してのに」というような明らかに怒っていた。
「あー、怒らせちゃった。」
こんな所で焦っても仕方ないので「ごめんね、体調崩してた。来年はちゃんと祝うから。」と、送っておいた。
風というのはすぐに吹いてどこかに行ってしまうように風邪はすぐ治るらしい。案の定1日で治った。
朝起きて、LINEを開くが彼女の既読は着いていない。
「絶対、怒ってるだろ。これ。」
僕は、どう謝ろうか。何を話そうか。来年はどうしようか。などなど色々なことを考えながら学校行った。
学校に着くと昨日来れなかったぶんの授業を受けた。特に面白いことも無く、早く彼女に会いたいと思っていた。そのままぼーっと授業を流していった。
クラスに戻るとどこか悲しいような沈んでるような雰囲気があった。きっと何か先生に怒られたのだろうと勝手に判断した。
結局、彼女に会うことが出来ないまま1日が過ぎてしまった。
家に着いて、とりあえずご飯食べて、お風呂入って、LINEを開いた。案の定、彼女からの返信、既読はなかった。
朝、とてつもなく目覚めが悪かった。とりあえず、LINEを開く。そこには「ありがとう」と彼女からの返信があった。僕は特に何かした覚えもなかったので既読スルーした。
その日から数日間、彼女は学校に来なかった。僕はさすがに異変を感じ先生に事情を聞いた。
全力で自転車をこぐ。Googlemapに表示されているのは県病院の位置。僕は人力とは思えないスピードで自転車をこいだ。そして、そこにつき全力で210号室を探す。
「あった!」
周りの状態など考えず、僕はドアを投げるように開け彼女の元へ向かう。
「御家族の方ですか?」
と、質問される。迷う暇もなく、僕は
「彼氏です。」
と答えた。その後、彼女の様態について説明された。まだ、心の準備が出来てなかったのか、あまり頭に入ってこなかったが一つだけわかったのはもう、治る見込みはないガンだということ。
僕は管をつけられ、点滴を打たれ、人工呼吸のマスクをつけた最愛の彼女を見た。
彼女の親はタバコをいつも家で吸っていたらしい。それが理由で親は離婚。彼女が取り残された。それでも彼女は医者を目指し、将来彼女のようにガンになる父を救おうとしたのだろう。だからこそ、自分がガンだということに気づいたのだ。そして、僕との連絡を切り、僕に嫌われようとした。わざと怒ってるように見せて。しかし、父は娘のことなど興味がなく、ガンということを知っても何もしなかった。だから、僕が初めての見舞いに来た人だった。
僕はそっと彼女の手を握る。ほとんど体温は感じられなかった。心電図は見る気にもなれなかった。医者や看護師も静かにこの光景を見つめていた。僕は泣き崩れてしまった。冷たくなった彼女を抱きしめると何か四角いものが枕元に置いてあることがわかった。
それは手紙だった。宛は書いてなかったが、誰かはすぐに分かった。
大好きな君へ
まずはごめんなさい。こんなことになっているのを隠してて。私は正直にいうと生きる希望を持ったことはありませんでした。タバコにお金を使い、まともな食事も取れない生活の中親は離婚し、家中は常にタバコの匂いがするようになりました。そんな私に中学生の卒業式の後、告白してくれたのは君だったね。
あの時はびっくりしたよ。こんな貧乏な人間を好きになってくれる人なんていないと思ってたから。それから3年過ごして、色々なことを知った。君のいい所、悪い所。笑いあったし、喧嘩したし。でも、全部がいい思い出だった。そいえば君は私の家に来たいって言ってたね。だから、私の机にプレゼントを用意してあります。3年の記念日の。本当は手渡ししたかったけど会えなかったから。こんな形だけど渡すね。
本当はまだまだいろいろ書きたいけどそんなに書いちゃうと君、泣いちゃうでしょ。だから、これぐらいにしといてあげる。
最後になっちゃったけどありがとう。本当に本当に大好きだったよ。愛してたよ。
天国からずっと見守ってるね。
君の愛してる私より
僕はぐちゃぐちゃになった顔をなんとか整え、彼女の家に向かう。手紙にはもののありかを書いた紙と家の鍵が入っていた。
僕はそこにたどり着き、そのものを手に取った。それは彼女のベンダントだった。それを抱きしめて家に帰った。
その日はずっと泣いていた。なんで熱にかかったのか。あの日なんでもっと沢山遊ばなかったのか。色々な後悔が押し寄せてきた。僕は自分の心が壊れてしまいそうだった。カッターを手に取る。その時、はっと彼女の言葉が蘇る。
「自分を見失わないでね。」
そうだ。彼女の人生はもう終わっているかもしれない。いや、終わっている。でも、僕は終わっていない。それなのにこんなことで人生を終わらせていいのだろうか。彼女はそれを望んでいるのだろうか。答えは否だ。きっと彼女は今も天から見守ってくれている。だから、僕は生きよう。彼女分まで。
カッターの刃をしまい、机に置く。そのカッターを持っていた手に彼女のベンダントを持つ。そして、それを首にかけた。
ふと、
「生きて」
と、聞こえた気がした。
今回は人生を大切にという感じで描いてみました。賛否両論の感想や小説のアドバイス待ってます。皆さんもどうか命を大切に。それでは、また会いましょう。