第四話 召喚魔法
ダンジョン形成が終了した。洞窟の外壁はそのままで中身は完全に変わっていた。地下への扉、二階への階段が一見してわかった。階段は石で造られていて二階の床は木だった。
『魔王契約完了致しましたので、特典を差し上げます。』
ダンジョンを一周して構成を把握し、夢幻は魔王専用の部屋にいた。といっても、机は木の円卓で椅子は夏休みの自由工作で作ったような木椅子だった。
「特典?どんなの?」
夢幻はどこにいるかわからないwizを探すようにしながら話す。そうしていると、目の前に三次元映像としてwizが現れた。夢幻が「うおッ」と短く驚く。
「夢幻様が魔王として契約を果たされたので、私はホログラムとして近くに来ることができるようになりました。」
wizが顔を傾け、笑顔を浮かべた。
「おお~!いいね~なんか、社長みたいだな~!」
夢幻が興奮で机をたたく。机の脚が折れ、壊れた。
「シャチョウ?」wizが首を傾げ訊き返す。
「いやいや別にいいんだ。そんなことより特典を!!」
「了解です。《物体転送》」
夢幻の目の前に犬と剣が現れた。犬はフレンチブルドッグのようで全身黒く、赤い首輪をしていた。床に寝転がり偉そうにくつろいでいた。
「魔犬コドムと魔剣ハーレーです。」
「おお…こ、この犬は?」
犬を指さしwizに訊いた。
「一緒に戦ってくれるペットです。しっかり世話をしてくださいね」
「あ、うん……それで他には?」
「スキルが追加されます。経験値が三倍になる経験値倍増/10、攻撃にボーナスが付く剣術、銃撃、打撃、体術それぞれレベル3。落下軽減、苦痛耐性、水中体制がそれぞれレベル3。隠蔽、鑑定スキルの追加。創造魔法、破壊魔法、召喚魔法が追加されています。あと、ダンジョン経営で欠かせないスキル、管理も追加されています。」
wizが抑揚のない安定した口調で言い切った。
「えーっと?よくわからないんだけど…とりあえずやらなければいけないことって何?」
夢幻が自分のステータスを見て頭を掻きまわした。
「練習として、召喚魔法でゴブリンを召喚してもらいます。一回限り、300マナをプレゼント致します。」
「おお!!よし、やるか!」
夢幻の身体が一瞬青く光った。マナを得た証拠だ。
「呪文・召喚―と、唱えることで魔法陣が出てきます。そしてゴブリンが発生するので是非してみてください。ゴブリン♂1体マナを30消費します。♀1体40消費します。何体召喚するかは、お任せいたします」
「よし、、、呪文・召喚!!」
紫の魔法陣が現れ、頭部から徐々に形成されていく。8体のゴブリンが召喚された。
♂4体、♀4体のゴブリンの召喚に成功した。緑色で背が低く醜悪に歪んだ顔が特徴的だ。典型的なゴブリンだった。♀ゴブリンは胸が膨らんでおり、性別を一見して見分けることは出来そうだ。
少し身長の高い奴や、低い奴。体格の大きい奴や胸が大きい奴小さい奴、毛が濃かったりとすべてのゴブリンが統一されていたわけではなく、個体差があった。
ギャオ、ギャオ、ギャオとゴブリン達が鳴く。俺はゴブリンの召喚成功を純粋に喜んだ。
「やった~!!召喚成功!よしっ、ステータスオープン!!」
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ゴブリン♂:魔族:Lv2:竜
体力 25
攻撃 30
防御 16
俊敏 12
マナ 1
スキル:打撃/1
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ほう、一番身長の高いゴブリンはこんな感じか。他の♂ゴブリンのステータスも見たが、全員同じようなステータスだった。
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ゴブリン♀:魔族:Lv2:竜
体力 45
攻撃 15
防御 20
俊敏 9
マナ 3
スキル:打撃/1
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やはり♀ゴブリンは子供を産まなければいけないからか体力に関しては♂より全然多いな。
よし、もっとゴブリン増やしてほしいから、地下室をゴブリン部屋にしよう!!
俺はゴブリン達を引き連れて地下一階へ行った。そして告げた。「たくさん子供作れよ~」
その一言で十分だった。♂ゴブリン達の鼻息が荒くなった。
『夢幻様、ゴブリンの召喚成功、おめでとうございます。これで召喚魔法に関する基本は終了になります。明日は、スキルについて説明致します。今日はおやすみなさい。』
wizが脳内に直接話しかけてきてくれた。俺は心で(ありがとう)と返し、木で囲まれたちょっと不安な寝室で就寝した。
まあ、ゴブリン達の声でなかなか寝付けなかったのだが。
夢幻、現在のステータス
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六道夢幻:魔王:Lv.30:闇
体力 2500
攻撃 800
防御 670
俊敏 512
マナ 20
運 30
スキル:神の託宣 銃撃/3 剣術/3 打撃/3 体術/3
落下軽減/3 苦痛耐性/3 水中体制/3 経験値倍増/10
隠蔽 鑑定/1 管理 創造魔法/1 破壊魔法/1 召喚魔法/1
魔王
ランク A
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*
「うぁあああ!!疲れたぁああ!!!」
藤堂が汗をまき散らしながら床に仰向けに寝転がる。藤堂の服に滲む汗がはっきり見て取れた。
「うあ、ああ、きっつ~!」
学級委員長増本はおぼつかない足取りで訓練所にある長椅子の所へ向かった。その瞬間、目の前の長椅子を三人の人影が奪った。
「あぁ」
増本が情けない声を上げる。
「はー疲れた。タピオカ飲みたいな~」
西村だ。「それな~」「ここら辺にお店ないの~?」
それに賛同する二つの声は本村と寺西だ。長椅子を占領している。
「何見てんの?」
増本の存在に気付いた本村がきつい口調で言う。
「い、いや、何でもない」
増本はその圧に負け、近くの壁に背を任せ床に座った。
「ねえ寺西寺西ー、練習きつくなかった?」
石井だ。大して疲れてもなさそうな感じが見て取れた。
「本当それなー怠くない?もう帰りたいんだけど」
寺西が服をつまんでパタパタと煽いだ。石井はそのまま寺西の隣に座った。足と足が密着している。寺西の頬が赤く火照った。
「行こ、莉愛」
西村が本村に言うと、二人は相原達の所へ行った。
寺西と石井が仲良く話している所に、ゆっくりと柳生が近づいてきた。
「おい石井。ステータス見せろ」
柳生が石井の目を見据える。
「おう、いいよ」
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石井陸斗:拳士:Lv.3:無
体力 350
攻撃 75
防御 50
俊敏 65
マナ 19
運 200
スキル:打撃/1 体術/1
ランク A
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「あれ何この拳士とか無とか」
「それは種族と属性です。」
いつの間にか石井の目の前に二階堂が立っていた。
「シュゾク?ゾクセイ?」
「はい。種族です。基本的には〇〇族と表記されることはなく、種族が人間なら、そのステータスタイプに合わせ"騎士"やあなたのように"拳士"と表記されるわけです。あなたの場合はスキルが肉弾戦タイプなので拳士となったわけです。属性に関してはまだ何もしていないので付きません。まあ、レベルが上がれば付くというわけでもないですが」
「なあ、属性には有利属性とか不利属性とかあるのか?」
二階堂の背後にいた柳生が尋ねた。
「はい。基本の五属性として火、水、木、雷、岩があります。火は木に強く、木は水に強く、水は火に強いという三角関係があり、雷と岩はお互いに有利属性でもあるし不利属性でもあるという関係になります。」
二階堂が石井の時とは違い明るい声で話した。
「じゃあ、俺の空属性ってどういうことだ?」
柳生がそう言った瞬間、二階堂の表情に一瞬、驚愕が走った。
「空属性を所持しているのですか?なるほどあなたは素質ある人物ですね…ちょうどいい、石井さん、柳生様のお相手をしてください」
二階堂が笑みを浮かべて石井の方を向いた。
「は?俺が?意味わからねえ。あ、でも面白そうじゃん、ボコボコにしばいたるわ」
石井が不敵な笑みを浮かべる。二階堂の中に虫唾が走った。
「いいだろう。俺が叩き潰す」
柳生と石井は訓練所から庭へ出て、木刀を構えた。
「おい!俺拳士だぞ?武器使うなよ。」
石井が二階堂に文句を垂れる。
「じゃあ、木刀なしで戦いましょうか。木刀を置いてください。」
二階堂がそういうと、柳生が木刀を置いた。その瞬間、石井は木刀で柳生に叩きにかかった。
ゴッと骨に木が当たる音が響く。不意打ちに目を覆う観戦者も少なくはなかった。
石井は勝ち誇った笑みをしている。が、苦痛耐性を持った柳生は眉一つ動かさず木刀を素手でつかみ、振り払った。
石井がすぐに木刀を離したことで木刀だけが庭に叩きつけられた。
「その程度か?」
柳生が一歩一歩石井に近づく。
「なわけねえだろ!」
石井が助走をつけて殴りにかかってくる。柳生は無駄のない動作で拳を軽く回避する。殴った勢いでそのままよろける石井の背中を柳生が叩く。石井がうつ伏せに倒れた。石井がすぐに立ち上がりまた殴りにかかる。柳生は素早い動作でしゃがむと石井の腹に拳を叩きこんだ。
「うっ…」
石井が腹を抑えて後ろへ下がる。そして、尻餅をついた。
「まだやるか?」
柳生が殺気を込めた声で言い放つ。
「い、いや今日はこれくらいにしとこう。また次の楽しみで…」
石井は何度も咳き込みながら立ち上がった。
(まだまだ未熟だが素質ある人間だ。これはしっかり鍛えれば優秀な戦士なる。)
二階堂は戦闘を見ながらそう思っていた。とても面白い戦いを見せてもらった。このクラス、まだまだ育て甲斐がありそうだ。