第二話 祭壇の男
破壊神のおっちゃんがいなくなった後、俺は自分のステータスを確認した。
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六道夢幻
体力 1000
攻撃 300
防御 404
俊敏 256
マナ 4
運 3
スキル:神の託宣 人体乖離
ランク B
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な、なんじゃこりゃ~!!おっちゃんの加護つえええ!!ステータス補強すごすぎだろ…でもなんだ?マナと運は低いままじゃねえか!2ランク昇格はうれしいな。スキルがよくわからん。
と、そんなことを思ってたら、意識が一瞬で切れた。次に目を醒ました時は、天井に龍の絵が描かれている部屋にいた。
「え?どこだここ?」
俺は誰にともなく独り言ちた。
「貴様!!誰だ!神聖なる祭壇を穢す者め!私が成敗してやる!」
濃い桃色の髪の一つ結びをした中学生くらいの少女が剣先をこちらに向けて叫んだ。
「え、何!?」
夢幻はその気迫に押されすぐに立ち上がる。
そして自分が立っている所が何やら文字が書かれた魔法陣の上にいることに気付いた。それと同時に、見たことのある顔が並んでいることに気付いた。
「六道?なんでお前がここに」
石井の取り巻きの一人、山本が言った。
「セラさん、こいつ俺が倒すわ」
石井が拳を構える。
「だめだ。神聖なる祭壇を穢す者は私が直々に手を下す!」
セラが地を蹴って跳躍し、一瞬で祭壇に立つ夢幻に接近する。
「はあっ!?」
夢幻が裏返った声をだした直後、腹部をセラの剣が貫通した。
「うわああああ!!!!!……あれ?痛くない?」
夢幻の視点はおかしくなっていた。自分が倒れているのが上から見える。三人称の視点だ。倒れている自分と、それを見る自分との認識に強烈な違和感を覚える。
「それはスキル、人体乖離のおかげだよ」
耳元で囁く声があった。
「うわ!おっちゃん!!」
「違う!儂はメルダートだ!あんたね、今幽霊だよ。だからさ、痛み感じないわけだ。いま、肉体に戻れば剣が刺さったまんまだから痛いかもね。神経も一緒に乖離してるからさ、痛くないんだわ。あのさ、剣が抜かれたときに肉体に戻るといいよ。」
破壊神メルダートは耳元でそう囁くと、消えた。
「ちょ、まじか…あー...わかった。肉体にどう入るんだ…?」
セラが剣を引き抜いた。「いまだ!」
夢幻は飛び込むように肉体に入った。
*
セラは夢幻をひと思いに貫いた。いきなり目の前で行われた殺人に、石井と増本を除いた全員が目を覆った。一部の女子からは悲鳴が上がった。
セラが剣を引き抜く。出血が一切ない。
セラが不審に思った刹那、夢幻が息を取り戻し、立ち上がった。そして祭壇から飛び降りた。
「なぜ生きている!」
セラが金切り声に近い音で叫ぶ。
「スキル…?」
夢幻は首をかしげる。夢幻は趣味の合う友人、越田の許へ駆け出す。
「おい、どうなってんだよこの状況!なんでお前らもここに?」
越田は涙を浮かべながら夢幻にしがみついた。
「死んだかとおぼっだよぉおお!!よがっだ…グスッ。」
女子たちは目を覆った手を離す。そして夢幻の方を見た。
「なあ六道。どういうことかはこっちが聞きてえよ。どうすんだ?この状況」
藤堂が詰め寄る。
「まあまあ皆様、そう熱くならずに。今日はこの洋館で就寝してください。私が寝室に案内いたします。」
今までどこにいたのか、二階堂が仲裁した。そして、2年5組の面々を寝室へと案内し始めた。
夢幻以外が部屋から出ると、沈黙を続けていたセラが口を開いた。
「今、二人きりよね。あなたを殺すなら今がチャンスってことよ。同時に、あなたも私を殺すチャンスよ。」
セラが背を向けたまま暗い感情を含ませ話した。
「い、いや俺は今どうなってるのか知りたくて…意味がわからないんだ」
夢幻は頭を掻きながら言った。
「沈黙」
セラが低く呟く。その瞬間、白壁に囲まれた部屋は無音となった。
(ちょ、何をして)
夢幻の言葉は声にならなかった。セラのスキルによってこの空間の音がすべて失われてしまった。
セラが剣を構えて少しずつ詰め寄る。ゆっくりゆっくり歩み寄られる。
剣が上から下へ一線、振り下ろされた。夢幻は血飛沫を上げずに倒れる。人体乖離を行った。
(調査)
相手のマナを確認することができるスキル、調査でセラは夢幻の残りマナを見た。
〔0〕
セラは勝利を確信した。これでもう人体乖離を行えない。もう一度剣を振りかざす。そして、振り下ろされた。剣が身体に突き刺さる。血が白い床に赤く染め上げる。人体乖離が解かれていた。
セラは剣を振って血を払う。赤い血が散る。セラは白壁の部屋を後にした。
*
翌朝
「皆様、お早う御座います。お早う御座います。お早う御座います。」
セバスチャンが一人一人の部屋を開け起こしていった。寝室の通路は赤い絨毯が引かれており、薄い黄色を基調とした外壁で高級感が漂っていた。
「ん…六道君……」
相原はベッドから降りると夢幻がどうなったかを考えた。
しかし、考えてみてもこの状況では思考の渦に囚われるだけで答えを導き出せなかった。相原は自分のステータスを見て驚きを覚えていた。
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相原夢
体力 200
攻撃 5
防御 46
俊敏 15
マナ 30
運 75
スキル:苦痛耐性/3 透視/1
ランク C
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それは平均よりも低めだったからだった。自分でも自分が男からの人気が高かったのは自覚していた。それ故に勝手にステータスも高いのだろうと思っていたのだった。しかし、現実はそう甘くはなかった。
ステータスは低く、ランクはC。スキル透視でいつも無口で無感情な蓬莱菜奈のステータスを見たときにランクがBで自分より高くショックも受けた。そのショックの所為かもう蓬莱のスキルは覚えていない。
相原は洗面台に向かい顔を洗った。余計な思考は洗い流そう。いまはこの状況を打破できる何かを考えなければ。相原は思考を上書きするためにそう鏡に映る自分を見て心に決めた。顔のむくみを解消するマッサージをして時間をつぶした。
*
増本はランタンの置かれた机に置いておいた黒縁眼鏡をかけた。洗面台に取り付けられた鏡を見る。毎朝みるこの正義を貫こうとする眼。
学級委員長として、生徒会長として、学校をより良い方向へ導こうと毎晩考えた。答えはいつもすぐに見つかった。
しかし、今はどうだ。石井の恐怖統治で徐々に眼に映る正義が汚れていく感じがしていた。そんな自分に嫌気がさしていた。石井の恐怖統治をやめさせないと学級がよい方向へ向かわない。
しかし、今はそんなこと考えている暇はなかった。
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増本健
体力 99
攻撃 2
防御 17
俊敏 15
マナ 1
運 12
スキル:恐怖耐性/10
ランク C
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自分のステータスを見て思考していた。僕の場合はステータスが全体的に低い。しかし、スキルに恵まれている。恐怖耐性10…おそらく、10っていうのは最大レベルだろう。
じゃあ僕は何をするべきか。恐怖を感じないのなら僕には恐怖統治は効かない。石井と話しをつけてこなければ。
健は自分のステータスを見ながら漠然とそう感じていた。健は部屋の物を物色して朝飯までの時間をつぶした。
*
「皆さん、朝ご飯が出来ました!」
二階堂が廊下で叫ぶ。夢幻を除いた33人が部屋から出てきた。二階堂に連れられ食堂へ向かった。
食堂はとてつもなく広く、シャンデリアがつるされていた。食卓は赤のランチョンマットが敷かれ食器は銀色で高級感漂う食堂だった。椅子も低反発クッションが埋め込まれ、背もたれには金の装飾がつけられていた。
「うわすげえ」
石井が食堂を見て叫ぶ。
「この程度で興奮するとは……まだまだ子供だな。」
目尻がすっとしていて容姿端麗な柳生が呟いた。柳生と石井の身長は大差ないが身体のバランスでは柳生の方がよいといえる。部屋のクローゼットに入っていた洋服をさっそく着こなしていた。
33人はそれぞれ席に着き、次々と出される食事を済ませた。行儀の良い者と悪い者が明確に表れ、育ちの良さが窺えた。
次に33人は二階堂に連れられ訓練所へ向かった。訓練所は広く、木刀やエアガンなど戦闘の鍛錬用の道具が多数取り揃えられていた。
「皆さんには、これから戦闘のための鍛錬を積んでもらいます。」
二階堂は動きやすい服装に着替えていた。
「えー筋肉つくのやだー」「きついのやだよ」「練習したくない~!」「汗かきたくない!!」
女子たちから批難の声が上がる。その声はやがて大きくなり、訓練所を一気に騒々しくさせた。女子たちのやる気のない言葉、罵詈雑言に二階堂の思考がかき乱された。
ここまで冷静を保ってきたがもう限界だ。
「貴様らぁ!!昨日の覚悟はどうなったんだあ!!何も戦えずにそこらで野垂れ死にたいのかぁ!!」
二階堂の声は怒りに震えていた。そして、強烈な殺気が放たれていた。その場は一気に静まり返った。
空気は岩のように重くのしかかり息を吸うのも憚れるような空気になった。増本を除いて全員が黙り込んだ。
「もう、これ以上は失いたくないんだ…」
聞こえるか聞こえないかの声で二階堂は独り言ちた。声は届かなかったが、空気に悲しみが混じっていた。
まだ主人公が魔王でないですが4話までには魔王やります!
安心してください!魔王になるまでが大切ですから!!