第十二話 2つの誘惑
今日は三話投稿ですね。初めてです。
2-5の生徒達は誰もいなくなった村で楽しそうにはしゃいで遊んでいた。その様子を二階堂とセラは温かい眼差しで見ている。こうした平和を感じる瞬間が、いつまでも続いてほしいと思っていた。でも、そうはいかないと二人は気付いていた。近くのダンジョン。ダンジョンから魔力を感じる。魔族が住み着いていることはわかった。同時に、魔力が頻繁に大きくなったり小さくなったりしているので魔王がいることも分かった。
「セラ様、魔王と思われる魔力反応が付近で感じます。」
二階堂は2-5を見たまま小声で言う。
「わかっている。次なる相手は魔王ね。逃げる手もあるけど、電車に乗っている間に攻撃を受けて犠牲者が出る筈だわ。ここで仕留めないと。あの子たちにはまだ早い戦いかもしれないけど、どう考えてるの?」
セラの考えはすでに固まっていそうだった。
「勿論、全員で攻略します。我々が二人で攻略するという手もありますが、その隙に他から攻撃を受けると援護に行けずそこでまた犠牲者を出してしまいます。それならば、数で攻めてしまえばいいのです。こちらには柳生君や山本君、本村さんと言った主戦力がある程度います。その上策士、回復役、魔術師がいますので援護も充実しています。これだけの数がいるのですから、きっと攻略できると踏んでいます。もし、皆に危険が訪れれば、私が助けに行きます。」
二階堂ははっきりとした口調で言った。頭の中ですでに勝算を立てていた。
*
「ねえねえ陸斗陸斗ー」
赤座が村のトイレで用を足している石井の背後から話しかける。
「わっ!びっくりした~。ちょ、なんで男子トイレおるん?変態かよ」
石井が笑いながら訊いた。
「え?別にいいやん他に人いないし」
笑いながら赤座が答える。そしてつづけた。「ねえなんか新しいすきるゲットしたよ。なんか、魅惑って奴。ちょっとよくわからんけどどんなのやと思う?」
「知らんわ。優奈エロくなるんじゃね?」
石井が笑いながら言う。赤座も笑った。
「そんなのある?!」
赤座がそう言った直後だった。身体に変化が訪れた。
「あ、ちょっと、待ってヤバイ。なんか体変......ああっ」
「何、喘ぐなよ」
石井が笑って答える。
「違う違う本当に......いいっ」
赤座の胸が徐々に膨らんでくる。服が盛り上がる。下着をつけ忘れたのか、小さい二つの突起物が服に浮き出ている。
ウエストがどんどん絞られてきている。ヒップが引き締まり、丸く上がった。綺麗なヒップラインを描く。身長が僅かに伸びた。大人っぽい、色気のある身体へと変貌を遂げた。
その一部始終を見ていた石井の股間が力強く膨らんだ。湿度の高い視線が赤座に注がれる。石井は魅了され呆然と立ち尽くしていた。
「え、やば!めっちゃ胸おおきくなってんけど。めっちゃ嬉しい」
赤座が自分の胸を触りながら言う。石井は理性を保てず、赤座を強く抱擁すると、洋式トイレの個室へ二人で入った。
「ねえ、俺へのアピールって受け止めていいよね?」
石井は訊いた。答えは求めていなかった。赤座が答えようと口を開く。石井は赤座の唇を奪った。二人は舌を濃密に絡め合う。
「うん、いいよ。」
赤座が短く答えると、二人は服を脱いだ。
*
「ねね、柳生」
民家の屋根で寝ている柳生に話しかけたのは、胸を撃ち抜かれたはずの西村だった。
「なんだ」
柳生は目を閉じたまま反応した。綺麗に生えそろった睫毛が羨ましい。西村はそう思いながら柳生の隣に体育座りをする。
「どこか怪我してない?里奈なら治せるよ?」
「それを訊きに屋根まで上ってきたのか?」
間を開けずに訊いた。
「そんな、屋根まで上ってきたのかっていっても、はしごあったしそんな高くないじゃん、ここ」
西村はクスリと笑った。柳生が寝ていた家の屋根はそこまで高くなかった。今の柳生なら飛び降りても全然大丈夫だろう。高さ約5m。近くに生える木より低かった。
「何が可笑しい?そうだ、訊きたい事がある。」
柳生が身体を起こし、西村の顔を見た。
「......何?」
西村は密かに期待していた。しかし、柳生が放った訊きたい事は、予想とかけ離れたものだった。
「二階堂さんの許へ行っているとき、前方から銃声が聞こえてきたんだが、お前たちの防衛していたところだよな。ゾンビは全員倒したのに、何があった?」
きっと銃声は全員聞いていただろう。でも、誰も聞かなかった。ゾンビ戦で銃声に慣れてしまったからだ。いつなってもなんとも感じないくらに銃声が一夜鳴り響いていたからだ。
「え、里奈は知らん。越田じゃない?」
西村の声が僅かに震えていた。その変化を柳生は聞き逃さなかった。
「嘘だな。これは俺の推測だから無視してくれていい。西村、君が誰かを撃ち、何事もなかったかのようにこちらに来たんだな?」
全く違った。被害者は西村なのに、加害者になっている。西村は密かにショックを受けていたが次の言葉でそれは消えた。
「と、思っていたのだが、東壁から一番最初に帰ってきたのは寺西だ。そして後から石井と赤座が帰ってきた。いつも一緒にいる三人が、一緒に帰ってこない疑問。村長さんが礼をしているときに西村がまだ帰ってきていない疑問。増本が追及しているときに静かにクラスの中に入ってきた西村。何故だ。何故ここまでタイムラグが生じる?答えは簡単だった。あの銃声は、西村が撃たれた音だ。目の周りが赤くなって泣いた跡があったから命乞いをしていたんだろうと思った。犯人は誰だ?石井と赤座か。否、それなら寺西も一緒に帰ってくるはずだ。なら越田か。中川か。其れともほかの誰かか。それも否だ。人を殺す度胸があるものはあそこには石井ぐらいしかいない。しかし女子の喧嘩とは恐ろしいものだな。誰とも一緒にいないのに満面の笑みで走ってきた寺西が犯人だ。俺はそう思っている。君が死ななかった理由は回復スキルで自分を回復させたからだ。増本も同じ推理をしているだろうな。」
柳生は近くの木をみながら自分の推測を話した。正解だ。物凄く正解だった。
「......そんなこと別に気にしなくてもいいじゃん。」
その反応が、認めているようなものだった。
「で、俺に何の用だ?」
柳生は西村の反応を気にするわけでもなく尋ねた。
「え?べ、別に用事なんてないよ。ただ話したかっただけだよ」
西村が頬を赤らめた。そして屋根から飛び降りた。
「......ん?」
柳生はなぜ頬を赤らめ逃げていくように屋根から飛び降りたのかわからなかった。柳生が寝ようと仰向けになった直後、奇妙な視線を感じ、すぐに起き上がって後ろを見た。丸々と太った白い男がこちらを見つめていた。男はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべると、走ってどこかへ行った。
*
「よし、決めたネ!ゴーレムを30体送るネ!おい、スルフス!ゴーレム30体創造するネ!」
丸々と太った白い男はダンジョンに帰ると、スルフスと呼ばれた長身痩躯でやつれた病的な見た目をした男に指示をした。
「わかりました......」
今にも消えそうなほど小さい声で返事をする。魔王より一部の管理スキルを贈与されたスルフスは個室に入ると、机に置かれた赤色の液体を口に含み、創造を開始した。
「創造・ゴーレム×30」
蒼の魔法陣が床に現れる。スルフスが口に含んだ赤色の液体を蒼の魔法陣に吐き捨てた。魔法陣から青色の光が放たれる。光が粒子上になり形を成していく。光の粒子は5~6mの高さまで上った。石でできた生物が現れた。ゴーレムだった。ゴーレムは次々と創造されていく。スルフスの個室にはせいぜい2体までしか入れないほどの大きさなのに、創造は続けられた。二体目が誕生する。3体目が形成され始めた瞬間、部屋にいた二体のゴーレムは消えた。
「瞬間移動だネ」
創造されたゴーレムを広い空間に次々と瞬間移動させていくのは丸々と太った男だった。
男は創造されたゴーレムに触れた。触れられたゴーレムに緑の電気が流れる。その電気は近くのゴーレムにも流れる。そしてまたほかのゴーレムにも。こうして30体全てのゴーレムに電気が流れた。
「創造主は私だネ。私に従うネ。」
男は部屋の窓から村を眺める。太い白い指が指パッチンのような動作を行う。音は鳴っていない。その動作を合図に部屋にいた30体のゴーレムは村の中に瞬間移動した。
「さあて、私のダンジョンが見えるかネ」
書きたかった魅惑と恋模様がかけて気分がいいです。
今回の話はこの恋愛模様を描きたかったのでまた白い男は伸ばされました。十三話もクラスsideの話なので続きます。