第十一話 汝は何のために?
次こそは死んだだろうと思い、迦楼羅はダンジョンの出口へ向かう。ダンジョンコアの破壊を忘れていたことに気付き、円柱形の機械――w.i.zの親機の許へ行く。土台の中心に水色に光る大きなクリスタルが浮かんでいた。美しい輝きを放っている。思わず見とれてしまいそうなクリスタルだった。迦楼羅は安らかに油断していた。ゆっくりとコアに接近する。w.i.zが隠していた、ダンジョンの核、コアの存在が今明らかにされた。
柄を握り、深呼吸をして集中力を高める。固いコアを一発で斬るには圧倒的な速度とそれに釣り合う威力が必要だった。精神統一が終わりかけたその時、揺らめく炎の動きが乱れたのが集中力を妨げ
た。
炎を消すのを忘れていた。迦楼羅は炎の方を向いた。目に映る光景は、認識するのに僅かな時間を要した。
炎の中に人影が有った。先ほどとは比べ物にならないくらいの闘気を放っている。人影は腕を振って燃え盛る炎を消した。夢幻の生還だ。
「何故君が生きている?」
迦楼羅は目を見開いたまま尋ねる。
「無駄にはしない、この力......破属性を試すにはいい機会か」
この力、半端ない。おっちゃんが最後に俺にくれた託宣、本当にステータスが二倍になってやがる。火傷も、喉の穴も、腹部の痛みも、全て治っている。まだまだ戦えそうな気までする。マナの上限が爆増してるんじゃないか?
俺はハーレーを手にし、迦楼羅に近づく。破属性はどれほどの力なのか。破属性耐性はどれだけダメージを抑えてくれるのか。おっちゃんは俺の心の中にいる。もう会うことはできないだろうけど、この力がおっちゃんだと思えばいい。破属性をスキルを全てレベルマックスにすれば再び破壊神に会えるかもしれない。ならば、これはスタートラインに立つために乗り越えなければならない障壁だ。
「お前を、倒す!」
勢いよく地を蹴り飛び出す。自分が走る速度があり得ないほど速く抑えきれずに壁に衝突してしまう。全く痛みがない。夢幻は体勢を取り直すと再び迦楼羅に突進する勢いで飛び出す。迦楼羅もそれに答えるように赤い翼を広げ、夢幻との速度差を埋めた。
迦楼羅の目の前に夢幻が現れる。迦楼羅は夢幻を視認した刹那、夢幻の背後に回る。夢幻は迦楼羅が背後に回ってくる間にその場から移動し、迦楼羅の背後をとる。
「何ッ!?」
「俺の速さは越えられない」
夢幻は低く告げると魔剣を振った。体術のスキルレベルは変化なかったのか、託宣を受け取る前とあまり変わらない無駄の多い動きだった。隙だらけの攻撃を迦楼羅は回避し、間合いを取る。
「さっさと終わらせる。部外者は、私が潰す。」
迦楼羅の持つ刀に炎が纏われる。抜刀の構えを見せる。集中力を一気に高める。纏う炎がどんどん大きくなる。
「お前は、俺が倒す!!」
「焔一閃!!」
「呪文・破壊」
焔を纏った刀が走る。魔剣ハーレーが焔刀を捉える。金属と金属がぶつかり合う音が響く。二つは迫り合わず、そのまま互いを打ち合い迦楼羅と夢幻が背後を向け合う形になる。
「――?!そんな......馬鹿な......」
迦楼羅の伸ばされた刀身の上半分が消失していた。焔が一直線にならず、激しい湾曲を描いていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、割ったか。」
呟く夢幻の近くに、切断された刀身の上半分が突き刺さった。
「刀を…破壊した……?」
「破壊魔法レベル10......とんでもない力だ。だって、即席で罠作っちゃうもんな。」
迦楼羅がその言葉に反応し、急いで天井を見る。正方形の穴が開いた。上の空間から2体のスライムが降ってくる。
刀身を破壊されたことの衝撃で反応が遅れた。動こうとしたころにはもうスライムが二体身体に引っ付いており、身動きが取れなくなっていた。スライムが形状を変えて動きを封じる。
「俺の攻撃に破属性が乗るはずだ。剣先を突きつけただけで衝撃波を撃てるか」
夢幻は独り言をぶつぶつと言いながら動きを封じられた迦楼羅に接近する。
「待ちたまえ。汝は、何のために魔王になった?」
迦楼羅はこの危機的状況でも異常なほど落ち着いた口調で尋ねる。
「俺は――復讐のためだ。俺の人生をめちゃくちゃにした奴に復讐を果たすために俺は魔王になった!!」
唾を飛ばしながら咆える。メルダートから言われた最高で最良の魔王になるということを忘れて。
「汝は、英雄にもなれたはずだ......軍を導く英雄となり、蔓延る魔力から世界を救うこともできたはずだ。魔王になってまで、復讐する必要があったのか?」
迦楼羅の声は何処か寂しげだった。
「お前には関係ない......!!確かに、その道も選べたかもしれない。しかし、俺はあいつ等とは違う場所に転移し、違う形で力を手に入れた。他とは違う境遇に遭ったのに、それを無駄にして復讐相手のいるクラスメイトと共にこの世界でも生活すると思うと今にでも死にたくなる!!俺は屈しない。屈するわけにはいかないのだ。
あの不良にわからせてやるしかない。同類の人間が固まってできた群れを群れと呼び、弱者を蹂躙し、イキり散らして......それが青春の形なのかもしれないが、誰かの犠牲の上に成り立つ幸福が青春と呼ぶならば、俺は概念を破壊する。それだけだ。」
夢幻の顔は紅潮していた。語気が強まる。
「何の話をしているか判らんが、私には推し量ることのできないことがあるのだけは理解できた。私は目的もなく異世界から来たものを殺していた。目的のない殺生は、唯々虚しいだけだ。」
迦楼羅が鳥の姿から人間体に戻る。二つの眼は強く、真っ直ぐだった。両目は夢幻の眼をはっきりと捉える。
「どうか、私をこの虚しいだけの地獄から救ってくれないか。私に生きる目的を与えてくれないか」
迦楼羅がスライムにまとわりつかれながらも夢幻に対して土下座をする。
長い静寂が訪れた。迦楼羅にはそれが永遠に感じられた。張り詰めた空気の中、夢幻が大きく口を開いた。大きく息を吸って吐く。欠伸をした。
「俺の下に付く気はあるか?」
夢幻の声から怒りは消えていた。たくましい、強い声だった。
「勿論。私の生に意味を与えてほしい」
迦楼羅は強く言い切った。夢幻の顔に笑みが広がる。
「よし、これからお前は、俺の配下だ。ちょうどよかった。パーティーを組みたいと思っていたところなんだ。このダンジョンにおける位構成として幹部にしようか。それがいい。スライムやゴブリンだとパーティーが組みたくても組めなくて暇だったから丁度いい。」
そうだ。俺は最高で、最良で、優しい魔王にならなければならないのだ。
たとえ運命が壁となって立ちはだかろうとも。
たとえ神が道を阻もうとも。
俺自身が、良い人間になることが、大切なんだ。
やるしかない。
『迦楼羅がパーティーに加わりました。』
通知が届いた。それと同時に、もう一件通知が届いた。
『オークが休憩に入りました。現時点での獲得可能ラードは、200です。』
ラードを獲得せず、そのまま今日一日分の回収に持ち越した。
それから俺は、迦楼羅に張り付いたスライムを剥がし、w.i.zの修復作業にかかった。
「おい。お前がw.i.zの本体なのか?」
俺はむき出しになったクリスタルに尋ねる。
「はい。すみません、今まで黙っていて。ダンジョンには必ず核となるクリスタルが存在します。クリスタルはとても強固ですが、破壊されればそのダンジョンは崩壊いたします。魔王は魔王でなくなり、ラードも全て失います。それと同時に、管理スキルも失います。残るのは仲間となった元配下達だけです。
私は、私自身の安全が確認できるまで黙っておこうと、勝手な判断をしてしましました。申し訳ございません。」
いつものw.i.zの腰を折って謝罪をしてる光景が脳裏に浮かんだ。修復方法を知らないので、とりあえずクリスタルに触り、創造魔法を使った。
「創造・w.i.z。」
合っていたのかは知らないが、所持しているマナ全てを消費して親機が再び元通りになった。
『......起動。復元を行います。成功しました。』
脳にw.i.zの起動音声が流れた。いちいち流れるのかこれ。
こうして、ダンジョンに新たな仲間が加わった。一日の食料の消費量は上がるけど、賑わっている方が楽しいし好きだ。ああ、どっかの石井さんとは違った賑わいだ。あれだけは不快な騒ぎだ。
夜を迎えた。オークの労働時間がそろそろ終了に近づいてきている筈だ。と、思ったらもうとっくに終わっていた。一体の一日当たりのラードは400ラード。8時間労働までが可能なようだ。三体で1200ラード。一日でここまで集められるのは効率がいい。3日で元をとれる。そして一週間でドラゴン討伐時の6000ラードを越える。これはいい。
俺は迦楼羅を部屋に招待し、寝具もないのでそのまま一緒に床で寝た。他意はない。
現在のステータス
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六道夢幻:魔王:Lv.90:破、闇
体力 6000
攻撃 1900
防御 1554
俊敏 1576
魔防 2000
マナ 400
スキル:破壊神の託宣 銃撃/3 剣術/4 打撃/3 体術/3
落下軽減/3 苦痛耐性/5 水中体制/3 経験値倍増/10
隠蔽 鑑定/2 管理 創造魔法/1 破壊魔法/10
破属性耐性/5 魔王 人体乖離/1 生と死 大魔神/?
ランク AA
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