第十話 経験値への欲求
二話目、投稿できました。
東壁はゾンビの襲撃が少なかった。来ても越田と中川がすぐに倒すので大した危機感はなかった。
女子組は中川と越田から離れた所の防衛に向かった。石井の近くで増本が四つん這いになって何か呻いているのが気持ち悪いかったので、寺西も一緒に向かった。
なんで西村おるん?まじで邪魔なんやけど。消えてくれんかな
寺西は心の中でそう思いながらゾンビ討伐を開始していた。西村は珍しく真剣な目つきでゾンビを倒していた。弾を撃った反動で歪む顔が醜悪な顔をもっと醜悪にする。寺西は心でそう毒づいていた。
日はまだ出ていないが、少しずつ地平線の方から光が届いてきた。もう朝だ。
寺西は経験値のために貪欲にゾンビを移動しながら倒していく。そして、ゾンビは残すところ1体となった。
よし、倒せる!
寺西が確信したとき、近くには西村がいた。西村がラストゾンビ目掛け引き金を引く。寺西も引き金を引く。
銃弾は衝突せずに綺麗に交差した。寺西の弾はおかしな方へ飛び、西村の弾はゾンビの頭にヒットした。スキルが発動し、ゾンビの頭の散り方が他と比べてより残酷だった。
経験値を西村に獲られた。怒りが沸々とこみ上げてくる。
「ねえ里奈ー、ちょっときてー」
笑顔で寺西は西村を呼んだ。そして村の民家に勝手に入る。幸いにも、村民は中にいなかった。
「なんで菜奈のゾンビ倒したの?あれ菜奈倒す奴やったんやけど。あんまり調子に乗らんほうがいいよ。陸斗に目付けられたらやばいからね。菜奈の経験値奪ったから、里奈が死んで菜奈に経験値ちょうだい?」
寺西は西村の胸に銃口を当てる。引き金に指を置いた。
「え、なんで、やめてや死にたくない。家に帰りたいしやめてやめてやめてやめて!!!」
西村の目から涙が流れる。寺西は快感を感じていた。必死に自分に命乞いをする嫌いな人間。快感を感じざるを得ないじゃないか。愉しくて愉しくて仕方がない。もう少し焦らして反応を見たくなった。
「みんなには里奈がゾンビに殺されたって言っとくね。里奈の経験値、残さずゲットするから」
「やだよ、やめてよ!まだ死にたくないの!」
恐怖で逃げることができない。身体が硬直している。
「それはー、まだ柳生に告白できてないから?」
寺西は核心を突く質問をした。
「ち、ちち違う、家に帰って、お母さんと話しがしたいの…!」
西村が泣きながら必死に訴える。寺西も両親を思いだす。西村にも親がいるのだ。西村が死ねば親は悲しむ。それを想像すると殺す気が失せた。引き金にかけている指の力が抜ける。
「ごめんね里奈。やっぱり菜奈......里奈殺すことに決めた。」
寺西の結論には変化はなかった。指に力が入る。引き金が引かれた。
——―銃声。
乾いた音が響く。銃口と距離が近く、耳が痛かった。
西村の胸に風穴が開く。血がとめどなく溢れてくる。心臓を撃ち抜いたんだ、と思っていた。
寺西は急に強烈な罪悪感に苛まれた。
嫌いな人だった。でも、涙を流して命乞いをした。親と話がしたくて、平凡な日常を送りたくて死にたくなかった。しかし私は人を殺した。西村里奈を殺害した。もう涙を流して命乞いをしてくることもない。人の命に自己中心的な考えで終止符を打った。
寺西は無言で民家を出ていく。村の澄んだ空気を吸った瞬間、罪悪感は綺麗さっぱり消え去った。どうせ嫌いな人物、これからも自分に害を与えるだけの存在。寺西はそう結論づけると今までで最高の笑顔で、走って皆の許へ行った。
*
「いやいやありがとうございました。助かりました。毎日毎日あの屍人からの襲撃に遭い、本当に怖かったんですよ。昨夜はとても気持ち良い睡眠ができました」
村長は2-5生徒に向けて礼をした。
「いえいえ、私は何もしていないですよ。皆が私が思う以上の働きをしてくれたからです。」
二階堂は感情のこもっていない笑顔を作り、礼をし返す。
「あの、村長さん質問があるんですけどいいですか?」
襲撃が終了したことで計画崩壊を気にしなくなったのか増本が挙手をした。
「ああ、何でも聞いてくれ」
村長は笑顔で返事する。
「失礼のないようにね」
二階堂が増本の方を向いて言った。
「はい。では質問をします。今までのゾンビの襲撃はどのようにして耐え抜いていたんですか?」
1つ目から核心に迫る質問だった。
「家で皆怯えながら耐えていました。」
村長の顔に影が差す。
「では二つ目です。我々でも討伐には苦戦したのに、何故扉一枚だけで防げたのですか?村の被害もあまり大きくなさそうですし...」
またもや核心に迫る質問だった。
「無礼者!!村の被害は計り知れないものだぞ!施設が崩れ、農作物は荒らされ、生活も大変になっているんだ!」
村長が顔を赤くして怒鳴り散らす。その様子を見て石井はニヤニヤしている。
「失礼しました。しかし、ゾンビの親を潰さないことには今日も襲撃があるのでは?そうなると一夜だけの防衛じゃあまり意味がないようにも思われるのですが――」
「止めなさい増本君。」
二階堂が語気を荒めていう。「大変失礼いたしました村長さん、我々はこれにて帰りますので――」
「待ってください二階堂さん。なんであんな大群の襲撃があったのに毎日毎日耐えられるんですか?扉だって簡単に壊れそうじゃないですか。やはりゾンビの親玉を潰さないことには......」
増本が二階堂の言葉を封じ、質問を続けた。その瞬間、村長の様子が変貌した。
「なぜ屍人の襲撃に耐えられたかって?なぜ屍人の大群が押し寄せても死者がでないって?なぜ昨夜だけ屍人から村を防衛させたかって?」
村長の身体が急激に成長を始める。服が破れ、身長が伸び、大きな筋肉が形を表す。肌は赤く変色し、額から二本の角が生えてくる。爪が黄色く、牙のように鋭く尖る。
「そぉおおれぇえええはぁあああ!!!!この村がぁあああ!!!!俺たち村民がぁあああ!!!全員ッ!!鬼だからだぁあああああああ!!!!!!!!!」
村長――否、鬼はそう叫んだ。空気を震わせるほどの大声で、生徒たちは耳を塞いだ。
鬼の声に反応しこの村にいる村民たちが青色の鬼へ変貌を遂げる。赤鬼が吼える。青鬼がそれに応えて吼える。
「皆、逃げるんだ!!」
二階堂が叫び赤鬼の近くで質問していた増本を後方へ押し飛ばす。そして戦闘態勢を整えた。
鬼が襲い掛かってきた刹那、鬼たちの動きは封じられた。
「遅れてすまない二階堂!!君の言う通りだった!近くにダンジョンがあるのにこの村が襲われない理由、それは村人全員が魔王の手下だからだ!魔族に襲われないようにするための結界を張るのに時間がかかってしまってすまない!」
白い翼をはやして空を滑空するのは、――セラだった。
村を防衛していた壁から黄色の光の幕のようなものが放たれている。結界が村を囲み、姿を現した鬼たちの動きを封じる。
「いえいえ、間に合ってよかったです」
二階堂がセラに一礼する。
「おのれぇえええええ!!!!!」
赤鬼が叫ぶ。セラは滑空しながら青鬼たちを斬っていく。鬼は一刀両断され、紫の煙を出して消失する。
青鬼が消された。あとはリーダーの赤鬼のみ。
「空・天・絶・解・斬!」
「うぉおおおおおおお!!!!!」
叫ぶ赤鬼の口から紫煙が吐き出る。雄叫びは次第に弱弱しい者になり、硬直したまま煙と化して消えた。大量の経験値が発生する。セラに経験値が入るその瞬間、セラの目の前に大きな人影が現れた。
「っしゃ~!!!レベルアップ!!!」
石井だ。赤鬼の経験値を石井が一身に浴す。幾分か強くなったように見えた。
「誰、この人」
セラが二階堂に尋ねる。
「石井陸斗でございます。まじめに取り組むことは出来なさそうですが、この卑怯さを利用することはできそうです。」
二階堂は笑顔を見せる。セラは口角を上げ、「そうね。石井陸斗、面白そうな人間だわ」と言った。
鬼のいなくなった村で盛り上がる光景を見る一人の人影があった。
「見ない顔だネ。あいつ等を倒してDPを大量入手するネ。」
紫のマントを着用した大柄な男は村を離れた。
現在のステータス
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石井陸斗:戦士:Lv.35:無
体力 2000
攻撃 370
防御 250
俊敏 130
マナ 87
運 250
スキル:打撃/1 体術/1 銃撃/1
ランク B
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次回は現時点で登場している2-5のステータスを紹介します!!
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