第九話 破壊神の託宣
目が覚めた。専用部屋を建設するのを忘れていた。今日も床で寝てあまり気分のいい目覚めとはならなかった。
どれだけラード貯まったかな.......管理スキルからステータスを選択する。視界に俺のステータスが表示された。所持ラードを見てみる。
――760ラード。
え?オークの労働力半端なくないか?10ラードはもとから持っていたから収入は750ラード。
ゴブリンは一体一日50ラード、オークは一日フルで働かせたわけではないから確実な数値はわからないが昨日だけで一体あたり250ラード入手可能......ゴブリンの5倍じゃないか。オークの労働時間も5時間なのか?
とりあえず今日は一日中働かせてオークの労働可能時間を測ろう。そしてビールをやろう。
もし1日5時間労働なら12日で元は取れる。採算はいいな。
しかしまだこの世界の時間というものを時計を所持していないからわからない。創造魔法で時計を作ろうか。っとその前に、オークとスライムのステータスでも見ておくか。
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スライム:スライム:Lv.1:無
体力 5
攻撃 3
防御 300
俊敏 1
魔防 2
マナ 0
スキル:無
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オーク:オーク:Lv.3:土
体力 80
攻撃 70
防御 55
俊敏 2
魔防 65
マナ 30
スキル:武器製造/1
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他のスライム、オークに関してもステータスは似たようなものだった。あとから知ったのだが、オークはつるはしややっとこといった物を自分で創造できるという特徴があるそうだ。そのため3体とも同じスキルを持っていた。
「創造魔法・創造 時計」
これは創造魔法なのでマナを消費した。今ある20マナすべてを消費して腕時計を創造した。アナログとデジタル両方の表記が可能な腕時計を創った。
「wiz、おはよう。今の時刻は?」
まるで人工知能に尋ねるような面白みのない話し方で訊いてしまった。
『......起動。おはようございます。早起きですね。現在の時刻は5:45です。』
腕時計の時間を合わせる。
「wiz、この世界の時間はどうなってる?」
『1日は24時間で1年は一月32日で16か月の512日です!』
聞いておいてよかった。一日24時間変化なしなのはありがたい。しかし一年が地球より147日多いのは驚きだ。幸いにも、創造した腕時計はこの世界で創られたものだから時間もこの世界の物になっているらしい。
ていうかwiz、この前もらったお試しマナ300で俺のステータスの上限が300になってないんだけど?
『当然です。お試しですから。』
wizは笑顔で言った。
どうすればマナ上限上げたりマナ貯めたりできるんだ?
『5分で1マナ回復致します。一時間で12マナ。一日で288マナ回復致します。しかし、マナの上限が288を越えましたら、昼の12:00と、夜の0:00に全回復致します。
マナ上限は夢幻様がレベルが上がれば上限も上がります。また、マナを消費するスキルが増えたりスキルレベルが上昇することでマナの上限が増えます。』
なるほど理解した。にしてもマナ上限は20。あまりにも少なすぎないか?
*
俺は1時間と40分wizに七つの大罪のことについて質問して時間を潰していた。マナが全回復したので、オークに差し入れとしてビールを上げようと思い、創造することにした。
ダンジョンの創造から創造可能一覧を開く。
創造可能一覧
リンゴ 15マナ
木刀 80マナ
日本刀 120マナ
・・・
などなど。本題のビールを探し、カテゴリー別で検索することにした。酒類で検索をかける。ビールは見つかった。
ビール 35マナ
足りなかった。
仕方なくリンゴを1つ創造し、採掘エリアへ行く。オーク達は余所見したりサボったりすることはなく、一生懸命働いていた。
「おーい、差し入れだぞ~!」
オークからしたらとても小さいだろうがリンゴを三等分にしてそれぞれに渡した。
オークはリンゴを不思議そうに見つめ、一口で平らげた。オークの口からみずみずしいリンゴが噛み砕かれる音が聞こえた。
オーク達はリンゴは小さかったものの、美味しかったのかとても喜び、顔中に皺を作って満面の笑みを見せた。
オーク達は今にも鼻歌を歌いだしそうなくらい愉快で再び採掘に戻った。
リンゴが効果あったのか、1時間で獲得できるラードが通常三体で150なのに、二倍の300になっていた。
*
新たに造成されたアメジスト色の外壁をしたダンジョン。まだ若い魔王が中にいることは知っていた。
空からダンジョンを俯瞰する者の姿があった。鳥の頭をし、人の身体をした人間とは言えない、魔人だった。装束を身に纏い、横笛を手にしている。装束の種類では狩衣に見えた。布衣は黒色をしており、布衣の下に着る単は橙色だった。
袴も黒く、平緒は橙だった。平緒は炎の模様が描かれていた。
赤い翼が白い翼に生え変わり、鳥頭がだんだん人間の顔に近づいてくる。髪は白く、瞳は橙で顔はバランスよく整っていた。普通に町にいても溶け込めるだろう。その翼を除いては。
魔人はゆっくりと飛行し、ダンジョンの前に降り立つ。着地したときに羽毛が舞い散る。翼は背中に吸い込まれるようにして消失した。
魔人は歩みを進め、一歩一歩確実にダンジョンに近づいていった。
ダンジョンを睨め回す。罠がないことを確認すると鞘を掴んだ。鞘から炎のような波紋をした黒い布の巻かれた柄の長刀が引き抜かれた。
ダンジョン入り口の寸前で地を蹴って跳躍し、一瞬で円柱形の機械まで接近した。ダンジョンの床に足を着くことなく刀を振った。
円柱の機械は真っ二つに切断され、水色の液体が勢いよく流れ出した。破壊された機械が火花を散らす。
魔人は翼を展開し、壁や床、天井に触れないように滞空する。物音に気付いたのか魔王が二階から降りてきた。ようやくお目にかかれた。若き魔王を。
「なんだお前!!」
魔王は凄い剣幕で迫る。
「私は迦楼羅。異世界から転生、転移してきた部外者を倒す者。」
魔人は迦楼羅と名乗った。翼を閉じて床に着地する。
迦楼羅は切っ先を魔王に向け、地を蹴って一瞬で魔王の目前へ接近する。魔王が回避する暇も与えず突きを繰り出した。突きは魔王の喉を貫いた。刀身がちょうど半分の当たりまで刺さる。
しかし、魔王は声一つあげるどころか血液一滴も垂らさなかった。
*
危なかった。かるらとか言う白髪の男が一瞬で目の前に現れたから反応が遅れた。ギリギリ人体乖離でダメージを無効化する。迦楼羅が喉から刀を引き抜いた。喉に穴のあいた自分を見るのは決していい気分ではなかった。迦楼羅が刀を振りかざす。
しかし、刀を振り下ろすことはなかった。刀を鞘に納め、倒れた俺に背を向ける。その隙を狙い肉体に飛び込む。いつの間にか目の前に置かれていた魔剣ハーレーを手に取り立ち上がる。
その音に反応し迦楼羅が気付く。振り返る速度は迦楼羅の方が速かった。夢幻が振り返り終わったころにはもう刀を振りかざしていた。
迦楼羅が斜めに刀を走らせる。それを防ごうと夢幻も魔剣を振るが虚しく空を切るだけだった。迦楼羅に腹部を斜めに斬られる。苦痛耐性が効いているのか問いたくなるほどの激痛だった。
「ぐああああ!!!!」
夢幻が激痛に悲鳴を上げる。同時に、口から血が吐かれた。
またもや仰向けに倒れようと身体が傾く。辛うじて体制を整えれた。腹からの出血が止まらない。夢幻はこの期に及んでこの世界にも出血性ショック死とかいう死因名があるのかなどと考えていた。
迦楼羅が刀を縦に持ち、意識を集中させる。迦楼羅が橙色にほんのり光ると、頭部が鳥頭に変化し、赤い翼が生え、炎のように燃え盛る闘気が放たれる。
夢幻は痛みを耐えながら"鑑定"を行う。迦楼羅のステータスが視界に表示される。
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迦楼羅:魔人:Lv126:魔、闇、破、炎
体力 900/900
攻撃 2050
防御 650
俊敏 890
魔防 700
マナ 850/1000
ラード 34753
スキル:異人キラー/10 大富豪/1
破壊魔法/5 神の翼/4 スマッシュ/10
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まずい......攻撃力が半端ない。幸いにも体力はそこまで多くないから削り切れないこともない。
しかし、レベルといい、属性といい、攻撃力といい、マナといい桁違いの数値だった。俺とは比べ物にもならないな。
迦楼羅が突きの構えを見せ、攻撃する隙もなく突きが放たれる。夢幻の喉に直撃する。破属性の効果が攻撃に乗る。
喉に触れた切っ先から衝撃波が放たれた。衝撃波は夢幻をダンジョンの奥の壁まで吹き飛ばした。夢幻の喉に大きな穴が開く。酸素の通り道が途絶えた。夢幻の意識が薄くなる。
しかし、迦楼羅は攻撃をやめなかった。刀に炎を纏わせ、夢幻のもとへ飛んでくる。そして刀を心臓目掛け振り下ろした。高熱の熱波と、爆発が夢幻を襲った。
――。
―――。
――――。
上も下も右も左も真っ暗な空間に俺はいた。この空間、一度来たことがある。
「破壊神のおっちゃん!!どこにいるんだ!!」
俺は破壊神を――名前は忘れたけど――呼んだ。周囲を見渡すが出てくる気配はない。立つ大地すら漆黒のため平衡感覚がたまにおかしくなる。
すると目の前がスポットライトがあるかのように照らされた。
「パパパパーン、パーパーパーパ~ン!!......おっちゃんじゃないわあ!!」
スポットライトが照るところを上からゆっくりとおっちゃんが歌いながら降りてきた。
「よかった……助けてくれよ!おっちゃん!ていうか今までどこにいたんだよ!」
「あんた、自分のペットの存在覚えてる?」おっちゃんが首をかしげて訊く。続けて「魔犬コドム。ドラゴンに襲撃されてから行方不明になって以降あんた探してないでしょ~?」
「あ!本当だ!コドムのことを忘れてた!ああ今大丈夫かなどこにいるだろう早く探さないと!」
俺はコドムの存在を思い出し頭の中でダンジョンのどこにいるかを考えた。
「阿呆!コドムは儂じゃ!お前を監視していたんじゃ!!ドラゴン襲撃後から何にも世話しなくなって育てるきあんのか!!」
おっちゃんは怒鳴り散らした。まさかおっちゃんがコドムだったなんて。
「ドラゴン来た時どこにいたの?ていうか今どこにいるの?」
矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「地下で、ゴブリンをみとったんじゃ~!!あんたが儂を育てなくなってから儂は犬として監視することをやめたわい。全く。」
ゴブリンの光景を......ああ、心情、お察しします......
「......ん?てか今こうしてここにいる間って現実世界はどうなってるの?」
おっちゃんはニヤニヤし始めた。
「時間は動いているよ~ん」
「は!?急いで戻らないといけないじゃないか!ちょっと、戻してくれよ!」
俺は焦った。あんな窮地でこんなところで雑談なんかしていたら残り僅かな僅かな余生が無駄になる。
しかし、おっちゃんは怒号を散らした。
「馬鹿もん!あんた自分のステータスみてみたんかい!体力は残り1じゃ!今戻れば100%死ぬ。ここの精神空間はあっちの0.1秒がここの空間の1時間じゃ!ここで1時間お茶を嗜んでも問題はないんじゃ!」
俺は急いでステータスを確認する。
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体力 1/3000
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本当だ、九死に一生を得た感じだな。死にかけじゃん。これじゃ現世に戻っても――
「これじゃ現実世界に戻ってもおまえはただ死ぬだけ。だから儂は決めた。お前は神の中でもトップクラスに偉い儂にも臆せずタメ口をきいてきやがる。そんなお前がみとるのが楽しいから儂がサインして託宣を渡そう。」
「・・・託宣?神の託宣ならもう持ってるけど……」
おっちゃんはまた神の中で偉いとか嘘をついている。
「お前の持つ神の託宣はただステータスを補強するだけだ。しかし、儂の署名入りの【破壊神の託宣】は破属性に関するスキルをあげちゃうすごいものだからね。
あんたに破属性追加、破属性耐性、破壊魔法、、、はあんた持ってるからスキルレベル10に。ステータスはうーん......なんかかんがえるのが面倒じゃ、二倍にしたるわ~!!!その代わりワンランク下げてやるわ!!」
おっちゃんはそういってサイン入りの託宣を渡してきた。それを受け取ると託宣が俺の中に吸い込まれた。
「なんで俺なんかにここまでしてくれるんだ?」
俺は率直な疑問を口にした。
「あのねあのね、年を取ると徐々にできることがなくなってくるんだ。特に創造神と儂は全ての神々の親で一番高い位だから年もめちゃくちゃとってるわけ。
若い衆はいいよな、ヤることあって。儂はもうそんな元気もないし暇じゃからなんとなくお前さんに目を付けたんじゃ。」
おっちゃんは意味深なことも交えて話した。
「俺に…?魔王になる俺に?」
神がなぜ、悪い魔王に味方するのか。神はいつも正義に微笑むのではないのか?
「所詮あんたらは人間族だ。神からしてみれば邪魔な存在にすぎない。なぜなら儂らの母なる大地を穢しているのだからな。だから良いも悪いもない。儂は面白いと思った者についただけじゃ。
ただ、これだけは約束してくれ。儂だって魔王が悪い者だということはわかる。人間すべて悪者にしか見えないが、人間界の意見を尊重するなら......魔王の中でも良き魔王になれ。
最低で、最悪で、残忍な魔王になるのではなく、最高で、最良の優しい魔王になれ。魔王にしかできないことはあるじゃろう?それをあんたが魔王として、良き方向に導き、それを成し得るんだ。その方が、人間にとっても幾分か増しだろう」
最高で、最良で、優しい魔王......今の俺なら成し得る気がする。しかし、おっちゃんが次に言ったことは真逆の言葉だった。
「......残念ながら、あんたにはそれは無理じゃ。」
「え?」
「儂が破壊神の託宣を贈ったことで条件が整い、新たなスキル【大魔神】が追加された。そして【大魔神】と【管理】が反応し、さらに新たなスキルが出来た。【生と死】じゃ。あんたは不死身になった。
しかし、死ねば死ぬほどプラスの感情を失い、対価として強力な力を手に入れる。迂闊に死ねば徐々に最低最悪の残忍な魔王に近づいていく。この意味が分かるか?」
「そんな、そんなのは嫌だ!、、、そうだ!!おっちゃんが俺が今みたいに死にかけたときに精神空間に持ってきてステータスを上げてくれれば死なないで済むじゃないか!」
我ながら名案だと思った。しかし、そう上手くいくことが地球でないように、この世界にもないことは推測できた。
「無理だ。今のあんたが耐えられる最大の補強を託宣と共に贈ったからな。
今のあんたに、渡すべきではなかったのかもしれないな。一度渡したものはもう取り戻せない。
あんたには【我慢】とか【底力】と言った体力ギリギリで有利に働くスキルも送りたいが、生憎儂は破壊神。そんなスキル持ち合わせてはいないんじゃ。」
おっちゃんは悲しそうな顔をして言った。
「じゃあさ、ほかの神なら大丈夫なの?」
「一度託宣を受け取れば、ほかの神から恩恵を与えられることは出来ない。破壊神の託宣は実質儂じゃ。じゃから儂はこうして姿を成して現ることはもう出来ぬのじゃよ。短い期間だったが楽しめた。
あとは儂は神界であんたを見ていることにするよ。」
そんな......もう会えないなんて......
「そうだ、コドムだ!コドムはおっちゃんがなった奴だろ!じゃあ大丈夫じゃないか!」
おっちゃんは険しい顔をして一喝した。
「コドムは死んだ!迦楼羅に焼き殺されたんじゃ。もう、儂の入る器もない。」
破壊神はいつもの表情に戻った。
「迦楼羅、ぶっ倒してこ~い!!」
杖を振って光を放つ。衝撃波で精神空間から抜け出す。
死なない程度に、死ぬ気で戦おう。
俺は心にそう決めた。もう二度と会えないだろう破壊神のために。
今回もとても長くなりましたね。今日は二話投稿はせず、1話投稿にします。できれば月曜に二話投稿します。
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