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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

育ち盛りの闇 

掲載日:2019/06/12

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共に、この場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 つぶらやの家って、電気代はどんくらいかかってんの?

 俺、さほど家電を置いていないせいか、そこまで金かかっていないんだよねえ。俺、エアコンが苦手だから、夏も冬もぜんぜんつけねえの。それが結構でかいのかもしれないな。

 電気は、今や現代的な生活になくてはならないものになっている。自然の力だけじゃ多大な時間がかかるものを、いとも短時間で終わらせてくれるからな。昔は火がない限り、眠るしかなかった夜を、昼間のように過ごすことさえ難しくない。

 だが、時には明かりをあまりつけずに、早めに休んだ方がいい時もある。子供の時は特にな。俺がそう考えるようになった、きっかけの話を聞いてみないか?


 俺は小さい頃、育ち盛りのご多分に漏れず、食欲旺盛だった。朝昼晩の三食じゃ足りなくて、お菓子もバリバリむさぼっていた。「お菓子よりも、ご飯をおかわりしなさい」って、母親によく注意されたっけ。

 それでも腹は減る。やっかいなことに、布団へ入ってからもだ。

 寝しなにものを食べることは強く禁じられている。「身体に悪いし、子供は早く眠りなさい」とのこと。隠れて食べるよりなかったが、俺が床に入っても親はまだ起きている。

 親がお菓子類の置いてある台所を離れ、部屋で寝入るまでには、日付が変わるまで待たなきゃいけないことがほとんどだ。睡眠時間も長く欲しがちながきんちょボディには、なかなかきつい。

 だけど、俺はやった。うつらうつらしながらも、夜中に親が寝室に入って数十分出てこないのを確認し、そっと自分の部屋を出たんだ。

 

 家には俺の他に父母と祖父母がいて、俺と父母は二階、祖父母は一階で眠っている。

 明かりを点けるのはなしだ。閉じているドアのすき間からも入り込み、それだけで誰かが起き出したことが分かる。

 親に見られるのはもちろん、祖父母が目撃して告げ口でもされたら、結局たどられて、叱られるだろう。闇に溶けるのが上策だ。

 俺は手探りでそろそろと、自分の部屋を抜け出して階段付近へ。途中で90度カーブしているものの、一段ごとにカーペットが敷いてある。はだしだったならば、あまり音を立てずにすむはずだ。

 手すりはあるけど、使わない。下手につかんできしんだりしたら、誰が聞きつけるか分からないからだ。もちろん、転んだらそれ以上の惨事になるので、いっそう神経を張り巡らせないといけない。

 1段……2段……3段……。音を意識すると、どうしてもその歩みはのろくなってしまう。家の階段は全部で15段だ。昼間に数えておいた。

 なぜなら、よそ見しながら階段を下っているとまれにやってしまう、「まだ段があると思って足を出したら、すでに階段は終わっていて、踏み外した時のように体重が集中。猛烈な音と衝撃を伴いつつ、床と足の裏が強烈なキスをかます」事態を避けるためだ。

 13段……14段……。着実な歩みを刻む。手前みそだがだいぶ音が消せているはずだ。

 後の15段目もオッケー。残すは床のみで、そこを越えれば右手には祖母の部屋、正面には玄関、左手には目的地の台所がある。暗闇に慣れてきたおかげで、それぞれの輪郭もおおよそつかめる。

 もうちょっとだ……! と期待を込めて踏み出したのが、やっぱり気のゆるみだったんだろうな。


 ぎゅむっと、踏み慣れたフローリングの感触とは違う、やわい感触が足の裏いっぱいに広がる。そう思う間にプチリとかメリメリとか、いかにも「関節あるものを潰しちまっていますよ」という音が混じってきて、俺は虫か何かを踏んづけていると直感する。

 クモやゴキブリだと最悪だ。母親が特に嫌う生き物のツートップ。こいつらの目撃情報があった場所へは、奴らの死体を見るまでは近寄ろうとしない。

 速やかに処理して何事もなかったかのようにするべきだろうが、あいにく俺は絶賛隠密中。一刻も早く要件を済ませて、寝床へ戻らんとしているところなんだ。構いたくない、というのが正直なところ。

 だが足の下では、まだかすかに動いている気配がし、俺の判断を迷わせる。踏んづけたものは、まだ生きているんだ。

 こいつを放っておいて逃げ隠れてしまい、何かの拍子で母親の前に現れてみろ。盛大な悲鳴をあげながら、「退治されるまで、ごはん作れない! お菓子も禁止!」とか、女子みたいに触れ回って、掃討へ駆り出される恐れがある。二度手間だ。ならば……。


 俺は踏みつけている足に、より力をかけた。関節が折れ砕かれるかのごとき音が、また響き始める。


 ――息の根を止めれば、動きも止まる。動きが止まれば、位置はつかめる。闇の中で手探りをしても、必ず探り出せるはずだ。だから声とかあげるなよ。黙って消されろ。


 そんな思いを力と一緒に込めて、何秒が過ぎただろうか。折れ砕く音も感触も、もう足に伝わらない。ぺしゃんこになったはず。

 それでも不安な俺は、ダメ押しにぐりぐりと踏みにじった後、ようやく台所へ向かった。

 冷蔵庫の中にあるものは却下だ。中の明かりが漏れ出る。その上に載っているおやつかごの中を漁り、個包装のせんべいを3,4枚、その場で食べてしまう。その後、ティッシュを何枚か確保。

 踏んだ足の裏をよく拭き、雑巾がけするような姿勢で階段の近くへ。もちろん、暫定の亡骸を回収するためだ。這い回り続けて、ようやくそれらしき盛り上がった箇所にぶつかり、俺はティッシュでその塊をちょい、ちょいと摘み取っていく。

 追加のティッシュで床のぬめりもしっかりこすり、これ以上ないと思われるコンディションを整えた。念のため、別のティッシュでもう一度足も拭い、まとめて台所のゴミ箱へ押し込んだ。

 大丈夫、誰も気がつかなかったはず。俺は帰りも抜かりなく足音を忍ばせて、部屋へと戻っていった。


 翌日。目を覚ました時、台所から油を使っている音がして、まずは一安心。母親の寿命を縮めかねない生き物の痕跡はなかったらしい。

 足の裏を確かめる。汚れなし。着替えて階段を降り、昨日の現場と思しきところへ目を向ける。汚れなし。

「完璧な仕事じゃないか」と心の中でご満悦。寝る前のせんべいごときに妨げられる食欲じゃなく、ご飯にみそ汁、卵焼き。二人前半くらいいただいて登校したんだが、問題は家に帰ってきてからだった。


 自分の部屋でごろ寝しながら漫画を読んでいた俺。そろそろ暗くなってきたから部屋のかさつき電灯のひもへ手を伸ばしたが、ひとつも点かない。

 蛍光灯は円型が2つ設置されていて、どちらも同時に切れるということはなかった。そもそも、寿命が近づくと見られるはずの明滅が、昨日の時点ではなかったんだ。替えのものに取り換えても同じ。他の部屋のと交換してもらっても、状況は変わらない。

 それだけにとどまらなかった。その空間に俺だけしかいなくなると、ひとりでに明かりが消えてしまい、俺の手では再度、つかなくなってしまったんだ。廊下、風呂、トイレ……俺一人でいる限り、どこもかしこも闇となる。


 俺は親の部屋へ逃げ込んだ。祖父母が眠っている今、もはや俺だけじゃなくなる場所は、ここしかなかったからだ。自分から明かりを放つゲームはともかく、漫画は真っ暗の部屋の中じゃ読めない。

 母親はまだ水洗いをしていて、父親は部屋の隅に置いたデスクトップで作業をしている。俺はパソコンのすぐ近くにある布団をはいだコタツの中で、読みかけていた漫画本を開いていたんだ。

 だが、闇はしつこく追ってきた。父親が部屋を出てトイレに行くと、それに合わせて部屋の明かりが消える。スイッチを入れなおしても無駄。

 部屋へ戻ろうとしても、トイレは寝室の真ん前。廊下は俺の部屋や階段を一直線につないでいて、どうしても廊下を通らざるを得ない。

 俺が顔をのぞかせたとたん、廊下の明かりも勝手に消えてしまう。唯一、明かりの漏れるトイレからは「こらっ!」と声が聞こえた。すぐに水を流して父親が出てくる。

 明かりを点けるように促され、でも点けることができず、あたかも明かりから縁を切られたかのごとき、俺の奇妙な状態は、とうとう父親にバレた。父親が明かりを点けなおした室内で、昨日、何をしたのか洗いざらい白状する羽目に。


「そいつは、闇の親御さんが怒ってんな」


 父親はこともなげに答えた。昨日の話をしたところ、俺が踏みつけたのは暗闇の中で遊ぶ、闇の子供のひとりだったのだろう、と。


「子供は早く寝ろ、とよく言われる理由は、何も健康面ばかりじゃねえ。子供はな、『さわれちまう』んだよ。大人だと触れられないものにな。

 お前の場合は闇だ。人が陽の光の下で遊ぶように、あいつらは夜陰の下で遊ぶ。それを邪魔したから、抗議してんのさ。

 だが、まだ良かったな。この程度の仕打ち、サッカーならまだファウルレベルってところだ。軽い軽い。イエローカードだったら、身体のどっかが持ってかれてたぞ」


「レッドだったら……」


「そりゃおめえ、一発退場よ」


 父親は右手の親指で、自分の首をかき切る仕草をしてみせる。


「しばらくは現状を受け入れて、闇からの心証に気を付けることだな。夜はさっさと休んで、奴らを存分に遊ばせてやれ。俺はもう、関わることも手伝うこともできない世界だ」


 その晩から俺は早く寝るようになったが、時々、布団の上を大勢の何かが、跳ね回る気配を感じた。

 胸、腹、足と、ところ構わず圧迫されて、痛い。翌朝には青あざになっていることもあった。こいつは俺が小学校を卒業する数年間、毎日のように続いたよ。

 最後の6年生の年なんかは、胸に痛みが残るほど激しくやられた。あまりの痛さに病院へ駈け込んだら、肋骨にひびが入っていると診断されたな。

 付き添った母親は、胸へ衝撃を受けるようなことはしてないって食いついたけど、お医者さん曰く、せきやくしゃみでもひびが入るケースがあるとの説明。

 まさか「闇に潰されました」などとはいえず、わざとらしく咳をしながら、バストバンドをつけて過ごした時期が数週間あったんだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] うわァァァ……! ヤダ、ヤダ、ヤダァァァー!!!((((;゜Д゜)))) 「足の下では、まだかすかに動いている気配」を、思わずクモで想像してしまい……ぶるぶる。 それなのに、そのあとまさかさ…
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