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剣の王と七つの魔宝刃  作者: 水無月 平
魔剣エラディオン
8/27

賭け

 


燃ゆる(イヴン・イム)魔弾(・ドビル)



 襲い来るオークに反応して、ニクは咄嗟にオークを一撃で倒すことができその中で自分が最も速く放てる魔法を唱えた。



 そのおかげで一番近づいてきていたオークを葬ることはできたが、生きているオークの半分近くがニクの方へ向かったためニクはそのまま応戦した。



 ニクは村の人を傷つけないよう親指程の大きさまで圧縮し螺旋回転を加えた炎を射出する中級炎魔法で、村の人に近いオークから優先的に狙っていく。

 しかし、ただ炎を形成して飛ばす低級や下級の魔法と違い圧縮や回転などをする中級魔法を、さらに詠唱を破棄して使うことによりニクの精神は徐々に削られていった。



 そうしていくうちにやがてニクに致命的な隙が生まれた。

 村の人へ迫るオークの対処にニクが時間を取られた一瞬の間に、オークらの中で一番大きな個体がその丸太ほどもあろうかという腕をニクの小さな頭めがけて振り下ろした。



「っ!」



 それに気づいたニクはそちらを向くが魔法を唱える間も無く、ただ渾身の力で振り下ろされる巨大な腕を見つめることしかできなかった。



 *



 イルジオがオークを葬り続け自分側のオークの残りが十匹をきった頃、オークを挟んだ向こう側でニクが命の危機に陥っていた。



 それを視界に捉えたイルジオは急いで助けに行こうとするも残りのオークが邪魔で向かうことができない。

 よしんば上を飛び越えたり間をぬって行ったとしてもその間にオークの腕は振り下ろされ、ニクは死んでしまうだろう。



 考える暇も無く、イルジオはあの巨大魔猪を斬った時のように自身が持つ魔宝刃、レムナントを振るった。



 それは一種の賭けであった。

 もしもイルジオが考えたような斬撃を飛ばす能力であったならばオークごとニクや村の人達までも斬ってしまうかもしれない。



 しかし、イルジオはこの土壇場で自身の勘を信じて剣を振るった。

 あのかつて剣聖とまで呼ばれていたらしい師の剣の嵐は、目で見てからでは対処できなかった。

 そのためイルジオは戦いにおける勘が鍛えられ、イルジオ自身も幼い頃から培った自分の勘を信じていたのだ。




 一閃。



 イルジオの斜めの斬り下ろしはニクを攻撃するオークの腕をその体ごと斬り裂いた。

 それもニク達を傷つけることなく。



 さらにはイルジオとニク達の間にいる全てのオーク迄もが同じ剣閃で斬り裂かれていた。



「……ふう。なんとかなったな」



 そう言い、イルジオはわずかに体を弛緩させるのであった。



 *



 オークを全滅させたことを確認し、日も暮れかけているためイルジオ達は朝まで休んでから村へ帰ることにした。



 村の人達を介抱し、ようやく休めるようになったイルジオとニクの二人は先程のことについての話をしていた。



「あれが魔宝刃の力……

 不思議なことだけど、私には目の前のオークを斬る剣の剣身が見えた気がした」


「剣身が見えた、か。

 確かにそれなら遠くのものとその間のものまで斬れたことは説明がつくな。

 だが魔宝刃てもっと凄かったり癖がある剣の筈なんだけどな……まあ、俺がほとんど違和感を感じないほど一瞬で伸び縮みするのは充分凄いんだが」


「……ん。ならまだその剣には秘密があるのかも。それについても帝都でわかればいいけど」



 ニクのその言葉でイルジオは思い出したかのように森で聞きそびれたことを質問した。



「そういえばニクは帝都の魔法学院に通ってる、て言ってたけど帝都はそんなに近いのか?」


「通うといっても私は寮だから。帝都はたいして遠いわけではないけど……私達の村は町じゃない村の中では一番帝都に近い。歩きでも三日あれば着く」


「なるほどねえ。つまりニクは今帰省してるんだよな。本当に俺と帝都へ行ってもいいのか?」


「ん。問題ない」


「即答だな……」



 イルジオがニクの知的好奇心に少し呆れているとそれから、とニクが付け足す。



「ありがとう。イルジオのおかげで私は生きられた」


「どうした。急に」


「少し落ち着いた今になって急に怖くなった。

 あの瞬間は何も間に合わないって考えてから頭が真っ白になって。それからイルジオのおかげで助かって。一瞬のことで感情が追いついてなかった。

 それで今になって怖くなって、ほっとして。

 まだお礼言ってないの思い出してちゃんと言わないと、って……」


「そか。まあ、俺がニクに死んで欲しくなくて勝手に助けただけだ。

 これから帝都で魔宝刃調べ手伝ってくれるんだろ?お礼ならそれで充分だ」



 そうイルジオはやや照れながらも、やはりどこか人との触れ合いに飢えていたのか、どことなく嬉しそうに返答した。


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