ニクの知識
「それはこの剣の力でな」
背負った魔宝刃を示しながら、彼は自身の剣について説明する。
「魔宝刃て言ってな。とてつもなく強大な力を秘めた武器が世界にはいくつかあるらしい。
俺のこの剣はその内の一つで霊剣レムナントて名なんだが、能力はまだよくわかってなくてな。ただ、接近せずにあの魔猪を一刀両断できたのはこの剣の力のおかげだろう」
自分が聞いたことのない話に知識欲が刺激されたのか、ニクは相変わらずの無表情の中で瞳だけは生き生きとして輝いて見えた。
「魔宝刃……名称は聞いたことがないけど、強力な力を持つ剣の話を本で読んだことがあるような気がする」
ニクの思いもよらない言葉に、イルジオはすぐに反応を示した。
「その話詳しく教えてくれないか?」
イルジオが頼むと、ニクは思い出すよう考え込んだあと、言葉を紡ぎ出した。
「……ん。たぶん魔法学院の図書館だと思う。
私は帝都の魔法学院に通ってる。いつもそこの図書館で色々な本を読んでるから、その中になんとなくそれらしい内容のものがあったんだと思う。
むぅ。もう少しで思い出せそうなのに。
……そうだ。例えばどんな能力の魔宝刃があるかわかる?」
珍しく饒舌なニクの意外な一面に驚きつつもイルジオは師匠から聞いた話を伝える。
「本当かはわからないが一振りで大陸を割った、だとかその力に狂った者によって国ごと滅んだ、だとかいう話を聞いたな。
あとはかつて魔族との戦いで力をふるった、だったっけ––––」
「大陸を割る……? 魔族……?」
イルジオの話を聞いていて何か思いあたるのかニクは小さく呟き、そして閃いたように唐突に叫んだ。
「そう! 魔族っ! 確か–––––
『かつて魔族という種族と人間との間では争いが起こっていた。
それを魔王と呼ばれる魔族の王が、その刃を持って大陸を分断し二つへと切り離した。すなわち、人の住むヒルズ大陸と魔族の住むハイレ大陸へと。
大陸が分かたれたことでそれ以来争いはもちろん一切の交流が断たれ平和が訪れた。
それがゼリアド暦元年––––人の世の始まりである』
ヒルズ大陸の歴史について書かれてる本の中にあったの!」
イルジオに被せ気味で話しだしたニクは一息で該当する文を暗唱してみせた。
知的探究心がそれほど旺盛なのだろう。
思い出すことができ、知識と知識が繋がった嬉しさから話す少女は、今までの無表情が嘘であったかのようだ。
「暗唱するなんてすげえな。
そうだ。俺は魔宝刃を探して集める旅をしていて情報集めに帝都へ行くつもりなんだが、このオークの件を片付けたら一緒に行くか?」
ニクの記憶力に感心し、その知識量と探究心を見込んでイルジオが一つの提案をするとニクは、
「! 行くっ」
と短く答えた。
そして話が終わる頃あたりが開けてきたのか段々と視界の光量が増えてきた。
「ニク。止まれ」
イルジオは先導するニクの襟首を掴んでそう言ってからさらに続けた。
「着いたみたいだ」
オークの巣が、その先にあった。