再び森へ
実はイルジオは、オークを倒したあと少女を横たわらせてからすぐに解体作業を始めたので、あまり少女のことは見ていなかった。
その事に気がついたイルジオは事情を話すニクという少女のことを改めて眺めた。
ニクはこの大陸––––ヒルズ大陸という––––では少なくない金色の髪を短めに切り揃えており、目がくりっとしているのと童顔ともいえる顔、全体的に小さめな体があいまってどこか幼く見える。
しかしながらこの少女は大きく表情を変えることがなく、またその口調も落ち着いた静かなものであるため雰囲気は大人びており、イルジオは自分と同じくらいの歳、つまり成人の年齢である十六歳前後であろうと考えた。
そんな事を考えながらイルジオはニクの事情もしっかりと把握していた。
「じゃあ行くか」
ニクの話を聞いたイルジオはそう言って立ち上がった。
「……? どこに?」
ニクはやはり表情を大きく変えずに、しかしよく見れば困ったような顔で、イルジオに尋ねた。
「どこってオークの巣だよ。今の話聞いて『それじゃ、俺はここで』なんて言えないさ。そのさらわれたっていう村の人達を助けに行くんだよ。
……ああ、その前にニクは村まで送って行くけど」
イルジオの言葉を聞いてニクは僅かに表情を変えるも、すぐさま元の顔に戻りイルジオに返した。
「……驚いた。普通はあなたみたいなことは言えない。オークはそれなりに強いしその巣へ行くなんて考えたくもないから。だから、ありがとう」
ニクは微笑みながらお礼を言ったあとすぐに表情を引き締めて続けた。
「村まで送る必要はない。魔力もだいぶ回復したし私も戦える。
今までの調査でオークの巣の場所はおおよそ絞れていたし、私を拐ったオークが向かった方向を考えれば巣の場所は特定できる。
私が案内するから、ついてきて」
それにイルジオは軽く頷いて、ニクの後に続いて再び森へと入っていった。
*
オークの巣へと向かいながらも、二人は緊張し過ぎた様子もなく言葉を交わしていた。
イルジオは自分の腕に自信があり、ニクはニクでイルジオが傷一つ無くオークから自分を助けたことを見抜き、また前衛がいれば自分の魔法だけでなんとかなると考えていた。
「イルジオはどこから来たの? イルジオは私達の村のこと知らないみたいだった。だけどあの道に続いた他の村から歩いてきたにしては荷物が少ない」
「山から下りてきたんだ。小さい頃からあの山で育ってな」
「……山から? それならもしかして大きな魔猪に会わなかった? 私はあまりこっちの方へ来たことがなくてあんなに大きな魔物がいるとは思わなかったから驚いて……」
なるほどそれで咄嗟に魔法を使い過ぎた挙句取り逃がして追い払うだけにとどまったのかもしれない。
そう思ったイルジオは、イルジオが山で育ったことに一瞬驚いた後、山の方へ巨大な魔猪を追い払ったことを思い出し不安そうな顔で自分を見上げてくるニクに返答した。
「ああ、アイツか。急に出てきて驚いたけどなんとかぶった斬ったな。
……そういえばニクが追い払ったとか言ってたのはアイツのことか。別に俺は怪我したわけじゃないし気にしなくていい」
ニクの顔を見てイルジオは心配いらない、という風に言った。
ニクの表情はわかりにくいが、いつも師匠が涼しい顔をして動揺を隠していたのを見破っていたイルジオは、人の感情を読むのに慣れていた。
そのため、ニクが責任を感じているのに気づき気を使ったのだ。
「それでも、ごめんなさい。居たのがあなたじゃなかったら危険だったから」
「俺じゃなかったらそもそもあんなとこにいないさ。だからもう気にすんのはやめてくれ」
「わかった……それにしても、あの大きさの魔猪を斬るなんてすごい」
イルジオが強いことはなんとなく感じていたニクだったがそれでも驚いていた。
あれは人が斬ることができる大きさではなかったからだ。
「どうやってあれを斬ったの?」
そのため、ニクは自然とそう質問をした。