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剣の王と七つの魔宝刃  作者: 水無月 平
魔剣エラディオン
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魔宝刃の力

 



 大まかに向かう方角を決めたイルジオは、帝都を目指しつつ食料や水を確保することにきめ、早速南東へと森の中を歩き始めた。


 そうしてしばらく歩いていたイルジオであったが、おもむろにその歩みを止め、師にもらったばかりの剣––––レムナントを抜いた。


 体の力を抜いたような自然体で、しかし隙なく剣を構えたままじっと耳を澄まし、いくらたった頃だろうか、突然イルジオの右斜め後方の茂みが音を立て、そこから緑がかった半透明の塊––––スライムが飛び出してきた。


 スライムとははるか昔の言葉、古代語で“溶かす魔”という意味があり、その名の通り溶解作用のある体をしていて、獲物を全身に取り込んで体内で溶かし消化するという生態をしている。


 強さでいうと基本的には弱い部類に入るが、特異的に一点の能力だけ突出して強い個体も存在する。今跳びかかってきているのは正にそんな存在のようだ。

 その速さは普通のスライムとは段違いで、あまりの速さにかすむその姿はスライムであると判別するのも難しいほどだ。


 それなりの強さ――――大陸の一般的な騎士程度――――でもその初撃はくらっていただろう。


 しかし。



 ––––フッ



 イルジオにとっては遊びにもならないのだろう、無意識の動作にすら見える腕の一振りで、スライムはまるでなんの障害も無かったかのように切り裂かれた。



「……ふう」



 音も無くスライムの核––––急所を両断したイルジオは、残心の後静かに息を吐いた。


 イルジオの一連の流れは、武を知るものが見ればあまりの技巧におののき、素人でさえその洗練された動きに魅了されていたことだろう。


 さもありなん。


 イルジオは赤子の頃親に捨てられてのちかつて剣聖と呼ばれた男に拾われて以来、そのもとで剣の腕を磨き師の技のことごとくを受け継き、今もなお成長し続けているのだ。



「スライムは滅多に素材が残らないからな。食料にもならないし、あまり益のない魔物なんだよな」



 魔物とは核と呼ばれる部位を持つものの総称だ。魔王が生み出したとも、従来の生物の突然変異とも言われている。つまり、その実態は詳しくわからないのだ。––––少なくとも人間には。

 ただわかっているのは人に本能的に敵対するということと、ゼリアド歴が始まった時にはすでに世界に根付いていたことだけだ。



「なんだか森が騒がしいな。でかい魔物でもいるのか?」



 イルジオが霊剣を鞘に納めようとしてしてい^、何かに気づく。


 一見何も無いかのようであったが、イルジオがつぶやいた直後前方の地面が震えはじめ、揺れが大きくなってくるとともに土煙が上る。


 揺れと土煙が最高潮に達したであろうその瞬間。


 メキィ、と目の前の木が倒れたかと思うとイルジオの視界に小山程もあろうかという巨大な魔猪が現れた。


 イルジオが育った山にもいくつかの魔物はいたがこれほどの大きさの個体は見たことがなかった。


 そして実際、これ程の大きさは一般的に見ても異常だ。


 それもそのはず、イルジオには――――この時期の誰でもであろうが――――知る由もないが、この時期から魔物の動きが活発になってきたり魔物の特異個体が増え始めたりしていたのだ。

 先ほどのスライムもその一つであったがこの魔猪はスライムと比べてもその脅威の度合い隔絶して、とまで言えるほど大きい。


 ただイルジオは山を下りたのが初めてだったためその異常さには気づかず、目の前の巨大魔猪を見やった。



「おいおい。流石にこれを殺すのは骨が折れそうだ」



 しかしその強さは感じ取り、一気に闘気を漲らせていく。



「……ん?」



 どのように仕留めようか考えを巡らせていたイルジオは、何かを感じ取ったのか怪訝そうに自らの剣に意識を向けた。霊剣はイルジオの闘気に呼応するかのようにその刃を揺らし、そして––––



「……ほう」



 イルジオは少しばかり形状が変わり、何よりも長さ、幅、厚みともに変わり巨大化した霊剣を興味深そうに見やり、口の端をわずかに釣り上げた。


 その巨大化した剣を手に瞬く間に距離をつめたイルジオは飛び上がり、魔猪を両断せんと上段に構えた剣をその頭蓋に振り下ろす。

 しかし同時に相手も頭を振り上げ長く鋭い牙で剣を受け止め、いや、そのままイルジオを弾き飛ばす。


 再びイルジオはとびかかり、それからイルジオと魔猪は何合も打ち合う。


 小回りのきかない魔猪は一見不利だが、その体は硬く、イルジオですら簡単には傷をつけられない。反面、その規格外の膂力は打ち合うたびにイルジオの骨の芯まで衝撃を伝わらせ、イルジオの体が悲鳴をあげる。


 このままでは魔猪を削りきるよりイルジオが倒れるほうが先に思われる。


 イルジオもそのことを感じたようで、一度魔猪から距離をとった。


 あの魔猪を斬るには今手にしている大きさの剣が良いが、大きさが変わり、その分重さも増した。もちろんイルジオの肉体にとってそれを振るうのに問題は無いが、あの硬さ斬るには最高の、最速の一太刀が必要だ。


 イルジオの体は、勘はすでにその一撃に思い至っているようで目標、否獲物を捕捉している。


 遅れて、イルジオの頭にもそのイメージが浮かぶ。



「行くぞ」



 そう、相手に向けてかそれとも自らにか言った後、イルジオはまだ距離があるにもかかわらず剣を上段に構えた。


 霊剣はいつの間にか元の大きさに戻っている。


 霊剣レムナントの剣身が揺らぎ、しかしそれが確かな形を形成する前にイルジオはそのまま剣を振り下ろす。


 疾風(はやて)のごとく、雷のごとき一振りとともに霊剣の霞が魔猪に到達した。


 すると、魔猪はまるで薪を割ったかのように綺麗に真っ二つになり地面にその内臓を撒き散らした。


 イルジオは剣身が伸びれば触れられるであろうその瞬間、魔猪を切り裂く瞬間のみ剣を巨大化させたのだ。

 その結果イルジオの振るう霊剣は最速の一撃のまま魔猪を両断しうる大剣と化したのだ。



「ふいー。けっこううまくいったな」



 そう満足げに息を吐きだしたイルジオは再び帝都を目指し歩き始めたのだった。






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