合成魔法
誰も人間の近づかない黒き森の奥深く。そこでは静かな、しかして激しい死闘が繰り広げられていた。
一振りの剣を持つ人間と黒い獅子と黒い巨人、どれもが満身創痍という状態であった。
しかしこのままの状態が続けば魔物達の勝利という形での決着が着いてしまうかもしれない。
そんな予感がしてしまうほど、イルジオはぼろぼろであった。
一か八か、余力を考えずに今の全力を次の攻防に注ごう。
そう覚悟を決めたイルジオが血の滴る手で剣を握り直し、再び魔物達とぶつかり合おうとしたその時––––
イルジオの後ろから、二人の少女の美しく透き通った声が奏でられるのが聞こえてきた。
その柔らかさと力強さが同居した声には少女達の想いがこもっているかのようだった。
「「荒れ狂う風よ 黒炎を伴い
その猛きをもって 全てを散らせ––––」」
シュトナが詠唱を始めるとそれに合わせるようにニクが詠唱の改変を行う。
「「敵の悉くを切り裂きて 芯まで喰らわん––––」」
そしてシュトナはニクの意図を汲み取りながら即興で合わせていく。
「「––––黒炎と死纏う嵐」」
詠唱の終わりとともに現れたのはゆらゆらと揺れる黒い塊だった。
よく見ると荒れ狂う炎と風が人一人覆われるほどの大きさの球体をかたどっているようであった。
しかしその暴れ回るエネルギーはすべて内側へと押し込められ、ニクとシュトナがその魔法を完全に制御できているのがわかる。
その球体はふわふわとイルジオを避けながら魔物へと向かっていった。
ニクとシュトナがその膨大な力を秘めた魔法を操り魔物にぶつけようとしたのだ。
しかし二匹の魔物の生存本能は今まで遭遇した敵の比ではなく、その魔法の危険性を察知して上手く躱していく。
ニクとシュトナだけでは速度があまりないその魔法を当てることはできないだろう。
だがここにはイルジオがいるのだ。彼は一手ずつ確実に魔物達を追い詰めていき魔法を躱せない状況まで持ち込んだ。
「今だ! ニク、シュトナ!」
イルジオが魔獅子を巨人にぶつかるように吹き飛ばした絶妙なタイミングにニクとシュトナは合わせた。
ここしかない、というようなタイミングで操作された魔法は二匹の魔物を呑み込んでいく。
球体よりも魔獅子と巨人は大きかったが、二匹の体は魔法に触れたところから抉られていき、球体の中心へと吸い込まれていった。
やがて魔法の球体は萎んでいき、それが消滅すると魔物は二匹とも消え去っていた。
それを確認して三人ともが安堵の息をもらした。
全員の様子から今日はこれ以上進めないとイルジオは判断してそこで休息をとることにする。
この場所での野宿の危険度は言うまでもないが休まないわけにもいかないため、見張りを立てながら残りもいつでも起きれるように浅い眠りで済ませることにした。
初日にだいぶ飛ばしたため、これまでの進み具合からいくと明日には最奥に到達できるだろう。
三人はそう思いながら、今日の探索を終わりにしたのであった。




